第11話 「宣戦布告」
時刻は午後11時頃、辺りは既に真っ暗で、静まり返っている。
ひと気のない空き地に、柄の悪い男が5人程と、少女が一人。
もしこの光景を誰かが見れば、男達が少女をここまで連れ出し、よからぬことを企んでいる……そう考えるだろう。
事実、男達にはそういう思惑があり、こんな所まで少女を連れてきた。
だが、この場は明らかに、異常だった。
男達は、恐怖と困惑で顔をゆがませ、仲間同士で殴り合いを始めていた。
「オイ! なんだってんだよ⁉︎」
「分かんねえよ! 体が勝手に……うがはぁ⁉︎」
「ち、違う! 俺の意思じゃねえんだ! 体がいうこと聞かねえ!」
「んなもん全員分かってる! どうなってん……ガハッ!」
この異様な状況を、少女は笑みを浮かべて眺め続けた。
男達が全員力尽きて、倒れて動けなくなるその時まで……。
*
「フフフ……いい眺めでしたわ」
殴り合っていた男達が全員倒れるのを見届けた少女は、満足げにそう呟いた。
ふと人の気配を感じた少女は後ろを振り向くと、そこには彼女にとって見知った人物がいた。
「へえ、これまた派手にやったね。流石は巴ってところかな?」
「あら、いたんですの? 見児さん。相変わらず神出鬼没ですわね」
見児と呼ばれた白衣の少年に対し、巴と呼ばれた白髪の少女は、悪びれない様子で更に付け加える。
「派手と仰いましたけど、これこそ当然の報いですわ。愚民の分際で、わたくしを誘おうだなんて。身の程知らずもいい所ですわ」
「うん。まさしく君らしい」
見児は知っていた。
この巴という少女が、いかに残忍な性格なのか。
今まで会った中で1番、とまではいかなくとも、仲間内で性悪女と称されるのは伊達じゃない。
見児はそう思ったが、別段どうという事はない。
彼は彼で、巴の様に残忍というわけでないが、掴み所のない、底知れぬ不気味さを有している。
自身でそれを自覚しているので、似た者同士だと思っていた。
「ところで、楊太郎のお見舞いには行ったかい? 嫌いだろうけど、仲間でしょ?」
「ええ、勿論です。それにしても……フフフ、愉快でしたわ!」
「?……まあいいや。にしても、次は君が動くのかい?」
「そうですわね……恐らく、他のみなさんはまだ動かないでしょう。なにを警戒しているのやら。ああなったのは、あの方の自業自得でしょうに」
「ふむ……君に対して、彼等はどう出るのかな? 興味深いね」
「楽しんで頂けてるようで光栄ですわ。是非、最後まで御覧になってくださいな」
「ひどいなあ、楽しんでるなんて。ボクはただ、運命がどう動くかに興味があるだけだよ」
「フフフ、そうでしたわね」
異常な会話だったが、二人はずっと笑みを崩さなかった。
因みに、お見舞いのくだりで巴が上機嫌になった理由を、見児はこの時まだ知らなかったのだが、のちにわけを知り、珍しく爆笑する事になるのだが、それはまた別の話である。
*
月曜日の朝……誰もが一週間の内で最も嫌いであろう時間帯のニュース番組にて、俺はその事件を知った。
『喧嘩の末に倒れていたと思われる男達は、体が急に言うことを聞かなくなったと供述しており……』
これがブレード使いの仕業という確証はない。
そいつ等の苦し紛れの言い訳かもしれない。
だが、嫌な予感がする……。
「どうしたの命、ボーッとして」
「別になんでも。行って来ます」
朝食のシリアルを流し込む様に食べ、食卓とは別のテーブルに置いてあったカバンを肩にかけて、家を出る。
しばらく歩いたところで、偽造と合流した。
「ねえ命君、今朝のニュース見た?」
「ああ、体が勝手に動いたとかいうやつだろ?」
「そうそう。で、命君はどう思う?」
「どうって言われてもな……怪しいっちゃ怪しいけど、確証はねえ」
「やっぱそうだよね」
2人して唸っていると、後ろの方から叫び声の様なものが聞こえてきた。
「ん? なんか聞こえない?」
「お前も聞こえた? なんか後ろから近づいて来る様な……」
「ぉぉお二人共おおおーーー‼︎」
「「うわあああああああああ⁉︎」」
こちらに全速力で走ってくる雄生の絶叫と、その光景に度肝を抜かれた俺と偽造の絶叫が盛大にハモる。
「ゼェ……ハァ……お聞きしたい事が‼︎」
「落ち着け雄生! この場にいる全員『何事だ』って目で見てるぞ!」
見るからに厳つい風貌の男が絶叫しながら走ってきたら、誰だって驚く。
あそこにも放心状態になっている女子がちらほらと……。
「あのですね……体が勝手に動いて喧嘩になったって事件について、どう思います?」
「ああ、お前も見たのか」
事件が起きたら分かる様にと、一応ニュースには……特にローカルニュースに目を通しておこうと全員で決めてあったので、予想はしていた。
「まだブレード使いの仕業って決まったわけじゃねえけど、注意しといた方がいいだろうな」
「まあ、そうッスよね……」
「ところでさあ」
偽造が間に入ってきて、俺に向かい聞いてきた。
「確か命君、土曜に『新しく味方が加わった』ってメールがきてたけど、それって?」
「そういやそうッスよ。そいつもブレード使いなんスよね?」
あの時、叶恵と別れた後で、二人にも叶恵の事を伝えておいた。
勿論、あの戦闘には一切触れていない。
絶対弄られるから。
「ああ、後で紹介する。昼休みに屋上集合な」
「そう。楽しみだね!」
「了解ッス」
因みに、叶恵もうちの生徒で1年生らしい。
ぶっちゃけ、中学生くらいだと思ってた。
*
4時間目の授業が終わり、周りは友達同士で弁当やら買ってきたパンやらを食べ始める。
席から立った命君は、弁当を持って、僕の机の前まで来た。
「おい、屋上行くぞ」
「ゴメン。僕売店で何か買うからさ、先に行っててよ」
「そうか。なるべくはやめに来いよ?」
売店まで付き合ってくれてもいいけど、方向が違うしね。
命君が廊下へ出て行ったのを見送ってから、僕も教室を出て売店へ向かう。
階段を降りていると、1人の女子とすれ違った。
真っ白な髪と真っ赤な目をしていて、一瞬目があった。
会釈して通り過ぎようと思っていたら、その子が声をかけて来た。
「貴方は、ブレード使いですの?」
「⁉︎」
耳を疑った。
階段を下っていた僕は、既に登りきっていた彼女の方を振り向く。
位置関係上、ちょっと見えそう。
「……そういう君は誰かな? ブレード使いって聞こえた気がするんだけど、僕の聞き違い……じゃなさそうだね」
彼女の右手には、いつの間にか矛の様なものが握られていた。
刃と柄が1:1位の割合、つまり、普通の矛より刃が長く、持ち手が短い。
直感だけど、彼女は命君の言っていた、新しい味方じゃないと思う。
なんて言うか、「いつでも切りかかれる」みたいなオーラが出ている。
「わたくしは望川巴。貴方方に宣戦布告に参りました」
「へえ。君はあのヘルメットの仲間かい? 遂に動き出すわけだ」
応答しつつ、僕も自分のブレード、ウカノミタマを右手に出す。
「まあ分類的には、あの方の仲間という事になってしまいますわね。非常に遺憾ながら」
「?」
「わたくしがここにいるのは、別のお方のためですわ。わたくしはあんなの別にどうでもいいんですけれど、あのお方はそうはいかないそうで」
なんかよく分かんないけど、仲悪いのかな?
「で、本当に宣戦布告に来ただけかい?」
僕がブレードを構えながらそう言うと、彼女、もとい巴ちゃんは、「フフフ」と笑った。
「勘違いなさらないでください。わたくし、貴方にプレゼントを用意して来ましたの」
「女の子からプレゼントか……物によるけど嬉しいね。初めてじゃないけど」
「でしょうとも。とても整ってらっしゃいますからね」
周りからも、「顔はいい」って割と言われるし。
「わたくし達は全員で6人。1人が入院中なので、実質あと5人ですわね。見児さんは含んでません」
「⁉︎……本当かなあ? なんでそんな事教えてくれるの?」
「言ったでしょう? プレゼントですわ。せめてものハンデ、といったところでしょうか」
本当に嘘じゃないらしい。
明らかに僕達を見下して、舐めてかかってる。
随分と傲慢な目つきだ。
そんな緊張感と下心の中、階段を2段程降りた。
「もうちょっと……」
「フフフ、そんなに見たいなら、言ってくださればよろしいのに」
「‼︎」
そう言って、スカートの裾をつまみ、少しだけ持ち上げられたその中から、白地の布がチラリと見えた。
「愚かな愚民ならいざ知らず、貴方の様な格好良い方になら、これ位のサービスわけないですわ」
「ありがとう。プレゼントを2つも」
合掌。
「フフフ……欲しいですわ。貴方が!欲しい!」
「⁉︎」
彼女が叫んだのとほぼ同時に、男子生徒が何人か下から駆け上がって来た。
「うわああ!」
「誰か止めてくれえ!」
どうやら、体が言うことを聞かない様子だ。
これは多分……。
「ええ。昨日の夜の事件を起こしたのはわたくしです。本当は宣戦布告のだけ予定しか無かったんですけど、貴方が気に入りました。だから大人しくしてくださいます?」
「プレゼント貰っちゃっててなんだけど、嫌だ! イズヴィニーチェ!」
暴走状態の男子2人は、僕の背後から掴みかかろうとして来ていた。
僕はブレードをしまい、その手を逆に掴み、勢いを利用してそのまま投げ飛ばした。
巴ちゃんに向かって2人は飛んでいく。
巴ちゃんは驚きつつも、飛んできた二人を躱す。
2人は巴ちゃんを通り過ぎ、そのまま落下。
巻き込んでゴメン。
頭は打ってないし、多分大丈夫だから。
巴ちゃんが不意をつかれている隙に、僕は手すりを飛び越え、一気に下の階まで到達した。
「待ちなさい!」
「待たない!」
売店まで全力疾走し、焼きそばパンを手にする。
「お釣りはいいから」
「は?」
来た道を戻るのはまずいので、さっきの場所から少し離れた窓から校舎に侵入。
階段を上っていると、巴ちゃんが行く手を阻んでいた。
「うっそ⁉︎ 回り込まれた!?」
「逃がしませんわよ!」
ブレードを出して、階段に突き立てた。
巴ちゃんの立っていた辺りが、沼の様に足を捉える。
「な、なんですの⁉︎」
「バイバイ、おつかれ!」
階段を駆けず、助走をつけて壁を蹴り、巴ちゃんを通り過ぎる。
すれ違いざま、巴ちゃんのくびの裏をブレードで叩いた。
「うぐっ……」
「峰打ち、だよ」
峰打ちと言うか、殺傷力をほぼゼロにしただけだけど。
「ここで君が能力使ったら、学校が大騒ぎになっちゃうよ! それは困るんじゃない?」
首の後ろを抑えてうずくまる巴ちゃんに、念押しがてらこんな台詞を残し、僕は屋上に向かった。
*
「くっ……やられましたわ……」
今すぐにでも、能力を使ってでも、彼を追いたいのは山々ですわ。
けれども余りに目立つ様な事をしてしまっては、あのお方に迷惑がかかってしまう……。
「仕方ありません。今回は諦めましょう」




