第10話 「葉隠叶恵」
「つまりだな、俺はお前の敵じゃない。むしろ立場的には味方だ」
「そ、そうだったの……。ごめんなさい……」
「いや、誤解したとしてもしょうがねーよ。俺が悪かった」
約10分間の、「俺は敵じゃ無い」という旨の説得の末、やっと理解してくれた。
物分りが悪いと思うかも知れないが、考えても見て欲しい。
とある事情で、目の敵にしている奴がいたとしよう。
ソイツは、普通の人間に無い特殊な能力を持っている。
偶然通った公園に、それと似たような能力を持つ奴が、人通りの多い方へと向かって行った。
当然、ソイツを悪い奴だと直感し、事に及ぶ前に食い止めようとするだろう。
誰だってそーする。
俺もそーする。
まあ、俺が浅はかでした。
すいません。
「俺は向井命。お前は?」
「……葉隠叶恵」
ドンパチやった所為か、なんか距離を感じる。
当たり前だろうけど。
「そうか。なあ叶恵、まだ色々話したい事あんだけど、時間あるか?」
「まあ、うん……」
どうしよう……この距離感はなんか気まずい。
まずは距離を詰めよう。
そうでもしないとやってられん。
変な圧力で死にそうになる。
えっと、距離を詰めるにはどうすれば?
なんか楽しい事するか?
楽しい事って何?
うーん。
「……とりあえず、ゲーセンでも行くか?」
マジか俺。
悩んだ末にこれはないだろ!
俺の中では娯楽=ゲームなのか⁉︎
いやそうだけども。
「ゲーセン⁉︎ 行く!」
あれ?
ノリノリな感じ?
結果オーライ?
「お、おお、そうか。言っとくが俺は強いぞ?」
「いや、私の方が強いから。ゲームの大会で準優勝した事あるもん」
「ほお、そりゃ楽しみだ。相手になるぜ?」
*
「も……もう一回!」
「……それ何回目だ?」
通算32回目だよ。
そして俺の連勝中だよ。
準優勝したとか言うだけあって、確かに素人では太刀打ち出来ない腕前だが、俺が勝てない相手じゃない。
「くぅぅ……全然勝てない……」
でもヤバイ……。
距離が余計に開いたかもしれない。
自信のある分野でこうも手も足も出なければ、誰でも落ち込むだろう。
ちょっと位は接待プレイすれば良かったか?
気づけば、叶恵は席を立ち、俺の隣に来ていた。
「ねえ……」
「な、なんだ?」
「アンタ一体何者よ⁉︎ こんな凄腕そうそういるもんじゃないわよ⁉︎ それこそ大会で優勝とか……」
ここまで言って、叶がハッとした様な表情になった。
……まあ、大会で優勝とか1度や2度じゃないし。
大会で準優勝する程の奴だ。
全く記憶に無いが、どっかで俺と当たったりもしたかもしれない……。
あ、ちょっと面倒かも。
「ま、まさかあなたは」
「待て! 言うな! それ以上言うな!」
興奮気味の叶恵の口をギリギリのところで塞ぎ、「静かに」のジェスチャーをしながら、出来るだけ小さい声で言う。
「こんな所で言うな! 視線が集まってくるだろ」
興奮気味の叶恵は、コクコクと激しく頷いた。
俺のハンドルネームは、その筋では結構有名だ。
このゲーセンにうっかりその筋の奴がいれば、俺の素性がわれ、更にネット上で拡散しないとも言い切れない。
警戒し過ぎかもしれないが、面倒を嫌う俺はそんな事になるかもと考えると……死ぬかもしれない。
いや、ホントに。
ゲーセンを出ると、叶恵は改めて聞いてきた。
「やっぱりあなた『カムイ』さんですよね⁉︎」
「うん、まあそうだ」
「やっぱり! 去年の大会の決勝以来、私あなたに憧れてたんです!まさかこんな所で会えるなんて……!」
やっぱ当たってたのか。
大会に出る時は顔隠してるからな……。
そりゃ初見で気づかんわ。
「ありがたいけど、この事は内密にな?」
「な……ないみつ?」
「……誰にも言うなって事」
「はい! 誰にも言いません!」
なんか不安だな。
この娘大丈夫か?
でも、距離はかなり近くなった。
というわけで、そろそろ真剣な話に入るか。
「ところで、公園での話の続きなんだけどよ……」
「ああ、驚きました! まさかカムイさんにも私みたいな事が出来るなんて!」
「俺の知り合いにもあと2人程いる」
「そんなにいたんですか⁉︎ 全然気づかなかった」
「気づくもなにも、使える様になったのがつい最近だしな」
「最近……?どういう意味ですか?」
「は? どういう意味って……」
「あれですか? 最近まで使える事に気付かなかったとか」
なんか会話が噛み合わない。
その言い方だと、自分はずっと前から使えた様に聞こえるんだが。
「これ……俺達はブレードって呼んでんだけど、お前いつから使える様になった?」
「物心ついた時には。多分生まれつきの超能力って思ってます」
「生まれつき⁉︎」
「えぇ⁉︎ なんですか⁉︎」
そう言えば見児の奴も生まれつきと言ってたし、何度かそういう奴も見たことあるとかなんとか。
アイツはもう信用してないが、叶恵は嘘を言ってる感じはない。
「……マジで生まれつき?」
「……カムイさんとか他の人もそうじゃないんですか?」
「鏡が関係してたりしないのか?」
「鏡? なんでですか?」
叶恵はキョトンとした様子で返してくる。
どうやら、本当に見児は絡んでないっぽい。
……てか、この娘は俺の事カムイさんで通す気だろうか。
場所を選んでくれれば、別にいいんだけど。
「叶恵、俺は生まれつきこの力を使えたんじゃ無い。きっかけは1週間前のあの時だ」
「……どういう事ですか?」
「まず、あの時にな……」
*
「う〜んと……なるほど、ハイ」
「……本当に分かったか?」
「要するに鏡の所為ってことですよね?」
「そうだけども! もっと色々話しただろ⁉︎」
「もう犯人倒したんですよね⁉︎ じゃあ解決してるじゃないですか!」
「倒したけどまだ……ていうか、これも話したよな⁉︎」
「?……あ、仲間がいるんでしたっけ? 何人ですか?」
「いや、だから……ああもう! 面倒だ!」
少し叶恵と話して、分かったことがある。
この娘、多分馬鹿だ。
現在に至るまで、5回は同じ説明を繰り返し、その度に同じ様な質問が飛んでくる。
しかも、どれもこれも既に説明したものばかり。
それだけならまだしも、特に関係ない事も質問してくる。
つまり、語彙が少ないので、知らないワードが出る度に脱線するのだ。
俺は教師じゃないので、上手く説明出来てるとは言い切れないが、ちょっともう無理。
概要だけ掴んでくれれば良しとしよう。
「もう簡単に言うぞ。あと何人いるかは知らん。けど全員ブレード使いだ。なんとかしたいが今は打つ手がない。分かったか?」
「なるほど、分かりやすいです!」
「心配だ……」
今後の事も心配だが、この娘も心配だ。
「私も含めて、味方は4人ですよね?」
「ん……そりゃ協力してくれるのはありがたいけどいいのか? 別に無理に加わらなくても」
「協力します! 私の方が、ブレード使い歴は長いですから!」
「ブレード使い歴って……」
えへんとばかりに胸を張る叶恵。
まあ、人数は多い方がいいしな。
危なくなれば、俺や偽造達で助ければいい。
「じゃあ、よろしくな、叶恵」
「任せといてください!」
俺が右手を差し出すと、叶恵も笑顔で右手を出して互いに握手を交わした。
叶恵が仲間に加わった。
*
「で、俺達は今から仲間なわけだが、まずは互いを知る所から始めよう」
「つまりどういう事です?」
「お前のブレード、なんて名前だ?」
「……つけてないです」
「なんだと⁉︎」
ここにきて衝撃の事実発覚。
生まれつき持ってるにも関わらず、未だ名無しだと⁉︎
あり得ない……。
「ち、違うんです! どんな名前にしようか悩み続けてて、結局今まで名前のないまま……」
一応つけようとはしてたのか。
でもやっぱり馬鹿だ。
どんだけ悩んでんだよ。
「しょうがねーな。俺がなんか考えてやる」
「カムイさんが⁉︎ いいんですか⁉︎」
「別にいいよ。そうだな……」
日本神話から取るのは確定としてっと……。
「……『スクナヒコナ』でどうだ?」
「おおお……! かっこいいです‼︎」
叶恵は目をキラキラと輝かせている。
どうやら気に入ったらしい。
「じゃあ決定でいいか?」
「ありがとうございます!」
あと、重要事項がもう1つ。
「それと、お前のブレードの能力はなんだ?……まさかとは思うが、これも知らないとか言わないだろうな?」
「流石に分かりますよ。え〜と……口では説明しにくいですけど」
「説明しにくいねー……」
ここまで叶恵と歩きながら会話してきたが、都合良くひと気のない空き地まで来ていた。
「じゃあここで試してみてくれ。あんま派手にやるなよ」
「分かりました」
叶恵は一歩前に出て、右手にブレードを出す。
やっぱあれカッケーなチクショウ……。
叶恵は少し屈み、ブレードを地面に突き立てた。
その途端、地面から急に何かがはえてきた。
「なんだ⁉︎」
それは、叶恵のスクナヒコナの刀身と同じ様な、紫色の光の刃だった。
その刃は叶恵の意思で動かせる様で、そのまま地面の上を走ったり、斧の様な形状に変わったり……結構面白い。
一通り動かしたあと、刃は消え、屈んでいた叶恵は立ち上がった。
「こんな感じです」
「へえ……中々すげえな」
「本当ですか⁉︎」
「本当だとも。だが1つ聞いていいか?」
「?」
「公園で戦った時、なんで今の使わなかったんだ? 飛びかかって来なくても、この能力なら俺を攻撃出来ただろ」
「……………」
「……………」
「思いつきませんでした……」
うん、やっぱりこの娘馬鹿だ。
ブレード名:スクナヒコナ
所有者:葉隠叶恵
身体強化:スピード型
形状:ほぼライ○セイバー。刀身は紫、柄は黒。
能力:壁や地形に刃を伝わらせ、自在に動かせる。
・形もある程度は変えられる。




