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守護の狼と白き龍

作者: 霧 一天



「ねぇねぇ! なんで貴方ってそんな無口なの?」


 ガランは黙って、ただ黙々と歩き続けた。


「・・・・・・」

「ねぇったら! 一緒に旅してる仲じゃない!」


 不服そうに叫ぶ少女に、ついには絶えられなくなり、ガランも声を張り上げた。


「・・・・・・お前が勝手についてきてるんだろう!」


 ガランに勝手についてくる少女、ナルは、気にする様子も無く、やっと笑った。と笑顔を浮かべた。




『守護の狼と白き龍』




「まあ、確かに私が勝手ついてきてるんだったね」


 あはは、とナルは呑気に笑う。ガランは呆れて溜め息をついた。

 ガランは、魔物を狩ってその時の報酬を得て生活をするハンターだ。しかしハンターはそう簡単になれるものではなく、それ相応な実力の持ち主でなければその名を名乗れない。しかもガランは18歳と言う若さでハンターの称号を得、尚且(なおか)つ、ハンターの中でも一目置かれており、『白銀の狼』とも呼ばれている。何故そう呼ばれるかというと、理由は簡単なものだ。

 まずはガランの容姿。髪がこの世界ではとても珍しい、白銀で、瞳の色が琥珀色だからだ。そして、決して群れずに一人で魔物を狩る。故に『白銀の狼』などと言う名がつけられたのだ。


「ねえ、暇じゃない? 魔物狩ろう!」


 ねぇねぇ、と何度も声をかけてくるナルに、ガランは青筋を浮かべそうになりながらも、無視して歩き続けた。

 本当に鬱陶しい奴だ。何度そう思った事か。しかし、思っただけで口にする気にはなれない。

 先ほどからガランの周りをちょこちょこと動き回っているナルも、非常に珍しい容姿の持ち主だった。

 髪は白髪。決して、ガランのような白っぽい銀ではない。瞳の色は右が黒。左が琥珀だった。黒い瞳だけでも非常に珍しいのに、ガランと一緒の琥珀の瞳。二つの色を瞳に持つ、オッドアイの持ち主だった。

 ガランがナルと出会ったのは、いつものように魔物を狩りしている時だった。





『ぎゃあぁぁぁぁああ!』


 パァァン!

 けん銃の発砲音が辺りにこだました。それと同時に、どさりと巨大な異形の姿を持つ生き物が倒れる。この生き物こそが、ガラン達ハンターが狩っている魔物だ。

 先ほどの銃音は、ガランの武器で拳銃から発せられていた。

 銃口には今だに煙が出ている。

 倒れた魔物の顔を覗き込んでみる。


「っち、またハズレか・・・・・こいつじゃない」


 顔を確認した後、悪態をつきながら、新たな魔物が来るのを待った。

 一匹の魔物を殺せば、その時流れた魔物の血の匂いを嗅ぎ付け、新たな魔物が現れる。そしてそれをまた狩る。ガランはそうして狩りをしていたのだ。


(・・・・・・早く来ねぇかな・・・・・・待つの面倒くせぇな)


 ぼうっと、魔物から流れている血をただ見ていた。新たな魔物が来る気配は、まだない。


「きゃああっ!」

「!? っ魔物か!」


 突如、女の悲鳴が聞こえてきた。ガランは急いで悲鳴の聞こえた方へと走る。


「来ないでよ! あっち行きなさい! しっしっ!」


 悲鳴を上げていたと思われる人は、今にでも襲い掛からんばかりの魔物に、犬などを追い払うような仕草をしていた。普段のガランなら、真っ先にその行動に呆れているだろう。しかし今のガランは、それよりも少女の容姿に心を奪われていた。

 今まで見た事のある女よりも美しい顔立ち。珍しい所為か、とても輝いて見える白髪(はくはつ)に、見た事のない黒と、自分と同じ琥珀のオッドアイ。綺麗だ、と素直に思えた。


「いやっ!」


 少女の悲鳴を聞き、ガランはやっと今の状況を思い出した。

 今まさに、魔物は少女に手を下ろし、殴りそうな状況だ。


「チッ!」


 舌打ちをした後、ガランは疾風の如く引き金を引いた。

 拳銃の音が、辺りに響き渡る。


『があぁあっ・・・・・・!』


 弾は見事に魔物の頭を貫き、魔物の体が傾き倒れた。


「・・・・・・・・・」



 少女の方を見てみると、驚きで目を見開いていた。

 恐怖の所為もあるだろうと考え、少しの間だけそのままにしてやる事にした。正気に戻れば、自分から離しかけてくるだろうとも考え、ガランは拳銃の手入れを軽くしようと考えた。

 しかし、いつまで経っても少女は喋らないので、ガランから声をかけてみた。


「大丈夫か」

「・・・・・・っい」

「あ?」


 何か言ったようだが、声が小さくて上手く聞き取れなかった。

 身体を少し、少女の方へ傾けもう一度聞き取ろうと耳を澄ました。


「すっごい! 惚れちゃった! 最高じゃない、その腕前!」

 

 今度は声が大きくて、耳が痛くなる程だった。思わず、耳を押さえてしまった。


「・・・・・・」


 少女が早口で言ったので、言った事がまたも上手く聞き取れず、眉間に皺を寄せる。

 少女はいつの間にか目を輝かせ、黒と琥珀の珍しいオッドアイでガランの事を見詰めていた。


「私ナル。貴方についてってあげる!」


 ナルと名乗った少女は、ガランに手を差し出し、握手を求めてきた。


「・・・・・・・はぁ!?」


 ガランは握手をする代わりに、思いっきり間抜けな顔をした。




 それ以来、何故かナルはガランの後をついてくるようになった。






「・・・・・・お前が狩りなんて出来んのかよ」


 不信な目をナルに向けた。

 初めて会った時、ナルは魔物に襲われかけ、悲鳴をあげていたくらいだ。特に強そうには見えなかった。


「んふふふふ〜! 聞いて驚いて! 私はこれでも龍族なのです! あ、これは誰にも言っちゃいけないからね!」


 自信有り気に話すナルは、自分で龍族と名乗った。


「龍族・・・・・・?」


 ガランは、そんな事はありえないとすぐに思った。何故なら、龍族は一千年も昔に滅んだ種族だからだ。

 龍族というのは、身体に龍の血受け継いでいる一族の事だ。龍族の者は、瞳が必ずオッドアイで、龍に姿を変える事が出来ると云われており、戦闘能力も高い。けれども争いを望まない。しかもその人それぞれで別に特別な能力が備わっているのだ。

 しかし龍族は、一千年も昔、争いに巻き込まれて全滅してしまったのだ。だから、今此処に居るナルが龍族の筈がないのだ。オッドアイ、という事しか証明できるものはなかった。


「そそ。龍族には生き残りが居たの。で、それがひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいおばあちゃんなの」


 指で数えながら、早口で言った。

 先祖と言えば早いんじゃないか、と思ったが言うだけ無駄なような気がして止めた。


「・・・・・・お前が本当に龍族なら、龍に姿を変えてみろよ」


 兎に角、ナルを龍族と証明出来る事は無かった。龍族は龍に姿を変えられるのを思い出し、龍になれと言ってみた。


「それはね、無理。駄目って言われてるから」


 つまりは、姿を変えられないのだ。駄目と言われているなんて言われても、ガランには関係の無い事だ。


「じゃ、嘘だ。お前はいい加減家に帰れ」


 ガランはナルの言っている事を嘘と判断した。いい加減、付きまとうのも止めてほしかったから、今日此処ではっきり言う事にした。


「はっきり言う。鬱陶しい」

「何? そんなに龍の姿見せて貰えないのが悔しいの?」


 どうやらナルはガランがいじけていると思ったみたいだ。

 どうやったらそう理解するのかと、呆れて溜め息をつきたくなる。


「違う。いい加減、俺の前から消えてくれ」


 流石に言いすぎかもしれない。とは思うが、ガランの旅は危険だ。ネルの身を保障出来る訳もない。だから早く、遠ざけたかったのだ。


「・・・・・・」

「迷惑だ、邪魔だ。さっさと家にでも帰るんだな。そうしたら暇でなくなるんじゃないか?」

「・・・・・・っ! 帰る家なんて、私には無いよ!」


 一瞬、辛げに顔を歪ました。

 吐き捨てるよう言うと、走ってガランが向かっているのとは反対方面に行ってしまった。


「・・・・・・」


 ナルの去った後は、とても静かだった。

 ガランは、ナルの言葉が胸に引っかかっていた。


“帰る家なんて、私には無いよ!”

「帰る、家・・・・・・」


 帰る家は、ガランにも無かった。十年前の、あの日から無くなってしまった。






 十年前、ガランが住んでいた村に、突如二匹の魔物が現れた。その時はちょうど夜中。腕の立つ若者などは丁度皆旅に出て、あっという間に村は二匹の魔物に壊された。ガランの父と母は、ガランを助ける為に片方の魔物に喰われた。

 今でも忘れられない、あの魔物の顔。父と母を喰らった魔物の顔を。

 そして、ガランは親を食べた方ではない魔物に姿が見つかった時、一人の男が現れた。ガランと同じ白銀の髪の男だ。瞳は暗くて見えなかったが、まだ若かった。丁度、今の自分と同じくらいの年齢だった。

 男は拳銃を使い、いとも簡単に魔物を倒した。もう一匹の、ガランの親を喰った魔物はとっくに逃げていた。男は魔物を倒した後、すぐに立ち去ろうとしていたが、ガランが居るのに気がつき、最後にこう、言い残した。

 悔しいのならば、ハンターになれば良い、と。その言葉を残し、すぐに男は消えてしまった。最後に、白い何かが空を飛んでいた気がする。

 ガランは両親と白銀の男のお陰でなんとか命は助かった。しかし、ガラン以外のみんなは死んでしまった。

 ガランは男の言う通りハンターになった。男と同じ、拳銃を使うハンターに。必死になってなった。そして、今はハンターになり、みんなを殺した、両親を喰って逃げた魔物を殺す為に旅をしているのだった。





「・・・・・・クソッ!」


 ガランは、何故か嫌な予感がして、急いでナルを追いかけた。






 ガランが走っていると、なにやら騒がしい音が聞こえた。時々魔物の叫び声も聞こえた。

 もしかしたらと思いそちらに向かったら、案の定、魔物に囲まれてるナルの姿があった。


「・・・・・・人が怒ってる時に、なんでそうタイミング良く現れる訳?」

『龍ガ一人ナラバ、我等デモ倒セル』


 不機嫌そうなナルの言葉に、なんと魔物が返事を返した。かなりの賢さを持った魔物だと言う事が分かる。どんな魔物か、後ろ姿なので分からない。


「お、貴方達は私が龍だって分かるの?」

『オ前ノ気配ハ、普通ノ人間ノモノデハナイ』


 魔物の言葉に、俺は耳を疑った。もしかしたら、ナルは本当に龍族かもしれない。かなり賢い魔物がそう言っているのだ。本当という確率の方が高かった。

 ガランは、少し様子を探ってみる事にした。


『ソノ気配ハ、龍ノモノダ。龍ハ美味イカ? 喰ッタ事ガナイカラ分カラヌ』

「だから、食べたいって?」

『ソウダ』


 言葉の話せる魔物と、ナルが会話をしている最中、周りの魔物は涎を無様にも垂らし、会話が終わるのをずっと待っていた。


「悪いけど、私が最後の龍なの。この血を絶やさない為にも、この時代に来たんだから」

『ホウ。オ前ノ能力は時空渡リカ』

「正解」


 ナルは嬉しそうに笑った。


(確か、龍には人それぞれで特殊な能力がある筈だ。ナルのその能力が、時空を渡れるって能力なのか・・・・・・?)


 まだよく詳しい事が分からず、もっと聞きたかったのだが、それは突然起こった。


『オ前ヲ喰ワセロ!』


 その声が合図と言わんばかりに、一斉にナルを囲んでいた魔物達がナルに襲い掛かった。

 すぐさま拳銃を抜き、引き金を引こうとしたその時、


「まだ人すら誕生していない時代に行きなさい!」


 凛としたナルの声が響いたと思ったら、言葉を発した魔物以外、跡形もなく消えていた。


『何故我ダケ、過去ニ飛バサナイ?』

「しいて言うなら、貴方は此処で倒した方が良いと思ったから」


 強気なナルに対して、魔物が微かに笑い声をあげた。訝しげにナルは魔物を見た。


『我ヲ倒スダト? 笑ワセル。イクラ龍族ト言エド、一人デ我ヲ倒ス事ナド不可能ダナ。己ノ能力(ちから)ヲ過信シ過ギデナイカ?』

「・・・・・・だったら、貴方も同じじゃない? 己の能力(ちから)を過信しすぎてる」

『・・・・・・小娘ガ! 調子ニ乗ルナヨ!』


 ナルの言葉が気に障ったらしく、魔物は長い鉤爪が生えた手を振り下ろした。

 その攻撃をすばやく避け、ナルは何処からともなく取り出したナイフを魔物へと投げつけた。

 ナイフは見事に、でかい魔物の図体に当たり、皮膚に傷をつけた。


『・・・・・・! 小娘メ!』


 証拠にもなく、再び手を振り下ろす。魔物がナルに覆いかぶさり、ナルの姿は見えなくなり、魔物の後姿しか見えなくなってしまった。

 もう助けなければ。そう思い、引き金を引こうとした。けれども、魔物の身体は引き金を引き終える前に後ろへ倒れた。胸には、深々と剣が刺さってた。


「・・・・・・ふぅ・・・・・・」


 ナルは額の汗を腕で拭った。


「・・・・・・お前、案外強かったんだな」

「! ・・・・・・ガラン・・・・・・」


 いきなり声をかけられたのに驚いたようで、またどこかからら取り出したナイフを構えたが、ガランだと分かると安心したように微笑んだ。


「もう、見てたなら言ってよ。こんなか弱い少女一人に戦わせて」

「どこがか弱いんだよ。第一、自分をか弱いなんていう奴はか弱くねぇ」

「失礼しちゃう」


 不貞腐れたように、ガランとは反対方向に顔を向けた。

 全く、と思いながら、ガランは何気なく魔物の顔を見た。言葉を喋る魔物はどんな顔だったんだろうかと興味を持ったからだ。しかし、見た瞬間激しい怒りに襲われた。


「こいつは・・・・・・!」

「何、どうしたの?」


 魔物は、ガランの村を壊した奴だった。ずっと捜し求め、忘れる事など出来なかった顔。怒り、憎しみと言った醜い感情が、ガランの中に溢れた。


「お前の所為で・・・・・・!」


 ガランは、魔物の顔に拳銃を向け、何度も発砲した。弾をすばやく入れ替え、何度も何度も繰り返し発砲した。ナルに止められた頃には、魔物の顔など無くなっていた。


「どうしたの、ガラン! 落ち着いてよ! 貴方らしくない・・・・・・」


 肩に、ナルの手が乗せられた。


「うるさい! ・・・・・・お前には、何も分からないだろうが!」


 肩に乗せられた手を強く振り払った。ナルはその衝撃で、後ろへ尻餅をついた。ガランは、思いっきりナルを怒鳴りつけた。


「・・・・・・何も、何も分かる訳ないじゃない!」


 パンッ! という音が辺りに響く。ガランがナルに頬を叩かれたのだ。


「私が知ってる訳ないでしょ! 何も教えてられてないのに! ・・・・・・もう一度言うからね。落ち着いて。貴方らしくない」


 頬の痛みで、漸くガランは自分を取り戻した。


「・・・・・・っ、悪い・・・・・・」

「別に良いよ。それより、話してくれる?」

「・・・・・・・」


 ガランは静かに、この魔物の事をナルに話した。


「そう・・・・・・そんな事があったの・・・・・・」


 ナルの声音は、いつの間にかとても悲しげになっていた。


「俺は、ずっとこいつを探していたんだ・・・・・・」

「・・・・・・ねえ、ガラン。時渡りする気、ある?」


 真剣な表情で、ナルは言った。決して、冗談ではないようだった。


「・・・・・・」

「ただし、時渡りをすると貴方の運命が変わる。私が貴方を、村が魔物に襲われているところへ連れて行けば、村は助かる。そしたら、貴方の運命が変わるの。ハンターにはなってないだろうし、私とも出会わない」


 時渡り。ナルの、その能力を使えば、ガランの運命は幸せなものになるだろう。誰かを恨んで旅をする運命ではなくなる。


「・・・・・・」

「貴方は、運命を変えて良いと思うよ? 会わなかったって事になるのは、少し寂しいけどね」


 微かに笑うナルに、ガランは決めた。


「時渡りして、過去に行って、村を壊した魔物を殺す」

「・・・・・・そう、決まりだね」


 一瞬、ナルは寂しそうな表情をした。ガランの胸が、何故か少しだけ痛んだが、すぐに収まった。


「・・・・・・じゃ、行こう」


 ナルが言った瞬間、背中に巨大な白い羽が生えた。羽はナルの身体を包み込む。

 羽が開いたら、もうそこにナルの姿はなく、一匹の美しい、白い龍が居た。

 やはり、ナルは、龍の血を引く、龍族だったのだ。

 ガランは少しの間、神々しいその姿に目を奪われていた。


『私の背中に乗って』


 ナルの声が、頭の中に響いた。

 それに従い、ガランはナルの背中へとよじ登った。


『しっかり掴まってて』


 羽を広げ、ゆっくりと羽ばたく。ナルの身体が宙に浮いた。地上からもう少し上ったところで、そのまま、まっすぐ飛び始めた。

 ナルが向かっている先は、不自然に空が歪んで見えた。

 迷わず、空が歪んでいるところへ突っ込んだ。


「・・・・・ッ!」


 目も眩むような光に包まれたかと思ったら、周りは一気に暗い、星と月が輝く夜へと変化した。


「あれは・・・・・・!」


 下を見下ろしてみると、ガランの村が見えた。半分以上は破壊され、火が煙っていた。

 だんだん、景色が近くなってくる。それにつれて、二匹の魔物の姿が見えてきた。


『着いたよ』

 

 降り立った場所は、村のすぐ隣の地面だった。

 ガランはすぐさまナルの尻尾を使い降りた。

 真っ先に、建物を壊している魔物へと向かう。


『ギュゥイ?』


 魔物は壊すのに夢中になっていたようで、ガランが真後ろに来るまで気がつなかなったようだ。

 魔物が後ろを向いた瞬間、素早く拳銃を構え、迷う事なく引き金を引いた。

 辺りには、発砲音と、どさり、と魔物が倒れた音だけが響いた。

 周りを見渡してみると、既に親を喰った魔物は姿を消しており、白銀の髪の、幼い少年と目が合った。

 可哀想な位、震え、怯えていた。恐怖のあまり、涙すら出てこない様子だった。

 ああ、こいつは・・・・・・。

 ガランは、震える、白銀の髪の少年に言った。


「悔しいのならば、ハンターになれば良い」―――と。


 言い終えるとすぐにナルの元へ戻った。


『・・・・・・良いの?』

「ああ、帰ってくれ」


 ナルはガランを乗せ、再び飛び立ちもとの時間に戻った。





「・・・・・・あれじゃ、運命は何も変わらないよ?」


 人の姿に戻ったナルが、再び、良いの? と聞いてきた。


「いいんだよ、あれで」


 ガランの心は、すっきりしていた。

 昔、幼い頃見た、自分と同じ白銀の男。それは、今の自分だったのだ。ナルの時渡りの能力で過去へ戻った自分だったのだ。


「・・・・・・ガラン?」


 ガランはナルに近づき、その肩にそっと頭を乗せた。

 不思議そうに、ナルが声をかける。


「良かったんだ、あれで・・・・・・」


 目の奥が、つんと痛む。この感覚は、何年ぶりだろう。なんて呑気な事を思った。考えてるうちに、熱いものが、琥珀色の目から流れてきた。


「・・・・・・泣いてるの?」

「・・・・・・泣いてねぇよ」


 ナルは黙って、ガランに肩を貸し続けた。ガランの気が済むまで、ずっと貸してくれた。






「ねえ、暇じゃない?」


 何故だかまだ、ガランはナルと共に旅を続けていた。


「暇だったら、そこらの石でも蹴ってろ」


 暇だというから言ってやったのに、ナルは不服そうに唇を尖らせ、言われた通りに石を蹴り始めた。


「・・・・・・そういえば、お前、時渡りの能力使えんなら、過去に戻って龍族を滅ぼさないようにすれば良いじゃねぇか」


 突然、石を蹴るのを止め、ナルは止まった。それに合わせて、ガランも止まる。


「・・・・・・私、過去から来たの。そうだな・・・・・一千年前から、かな?」


 一千年前とは、龍族が滅んだ時だ。何故そんな時代から来たか、ガランには不思議でたまらなかった。それにナルはガランに、生き残りが居たと言っていたのだ。


「なんでそんな時にきたんだよ。それに、生き残りが居たんじゃねぇのか?」

「生き残りなんて、本当は居ない。それは私が時渡りが出来る事を隠す為の口実。私は、この血を絶やさない為に、龍族が争いに巻き込まれ、滅んだ時代から来たの。って言っても、滅んだのは龍族の甘さの所為だけどね」

「甘さ・・・・・・?」


 確か龍族は、優しさのあまり滅んだとも言われていたな、とガランは思い出した。


「そ。龍族は、本来争いを望まない。ま、私はこの時代にきて、戦う事も必要だと分かったからね」


 だから、ナルはあんなにも戦い慣れていたのか、なんて場違いに考えてしまった。


「・・・・・・けれども、結局はお人好しだから。二つの国が争っていた時、片方の国に上手く利用されちゃってさ。利用されていると気がついていたけど、お人好しだからね。何も言わずに助けようとした。けれども、争っていた相手にも龍族が力を貸していたの。当然、同じ一族同士が争う事が出来る筈もなく、殆どが自害してったの。そんな龍族の姿を見て、争いは終わっていった。けれども、龍族に残されていたのは、年老いた者と、一番幼かった、時渡りの能力を持つ私だった」


 初めて聞く事に、耳を疑った。つまりは、龍族が滅ばなければ争いは終わらなかった、という事になる。


「龍族はもともと、子供が出来る確率が低いの。だから、私が生まれた時、約十年ぶりの子供だったの。私が成長しても、もう残るは先が短い老人だけ。子孫を残すなんて無理だった。滅びるのを待つしかない状況だった。だから、私は時を渡ってこの時代にきて、血を絶やさないと決めた。別に、龍族を滅ぼさないように、運命を変えるのは簡単だけど、そしたら争いが伸びちゃうから、私は違う時代へ行く事へ決めたの」


 結局、私もお人好しの血を引いてるからね、そう、ナルは続けた。だんだん声が鼻声になってってる。


「・・・・・・肩、貸してやっても良いぞ」


 ガランは呟くように言ったが、ナルにはしっかり聞こえていた。

 肩に、重みがかかった。


「・・・・・・なんで、龍族って馬鹿なんだろうね」


 ナルは声を殺して泣き始めた。頭に手を乗せ、撫でてやると、余計に泣いてしまった。


「別に、お人好しってのは悪い事じゃないだろ。おかげで、争いは止まった。・・・・・・犠牲に、たくさんの人の死と、一つの一族が滅んだが」

「・・・・・・っ!」


 ナルは、ガランにしがみ付いて泣き始めてしまった。ガランは仕方がないように一つ、溜め息をついただけで、後はナルの好きなようにさせてやった。


 遥か上空には、一匹の白い生き物が飛んでいた。

 それの影を、ガランとナル気がつかなった。

 白い生き物は、いつの間にか姿を消していた。

 空はただ、青く澄み渡っている。





 いつしか、『白銀の狼』というガランの名は消え、『守護の狼』という名が新たについた。白き髪の娘と共に、魔物を狩り、他にも困っている人々を助けているという情報が、その名をつけたそうだ。

 いつしか魔物は世界から姿を消し、世界は平和になった。それと同時に、ガランとナルはどこかへ姿を消した。もしかすると、時空を渡り、まだお人好しの活動を続けているのかもしれない、と二人の事情を全て知っている人物は言った。

 人々は、密かにこの二人の事を、こう伝えた。




“白銀の狼は、白き龍の娘と出会い、そして争いを無くした”、と―――






Fin


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― 新着の感想 ―
[一言] キャラ設定は良いと思います。 文法的に、心理描写や場面描写が少なく、会話になっているのが気になりました。
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