Love Sick ③ 【最終…兵器?】
すったもんだで迎える城南高校との準決勝。結愛と瑠衣。二人のエースが激突する。
・[試合開始!]
大会会場へ向かう大通り沿いの木々たちの葉はすっかり落ちていた。季節も冬になるころ、順調に決勝トーナメントを勝ち上がってきた富ヶ丘高校女子バスケ部は、いよいよ今日準決勝を迎え、絶対エースの浪川瑠衣要する城南高校と対戦する。
注目の一戦とあって会場は超満員だ。大観衆と少し強い照明がメンバーの緊張を誘う。キャプテンの双川結愛は一つ手を叩くと大きな声で皆を振り返った。
「さあ。行こう!」
公式戦の準決勝から入場時にスターティングメンバーがコールされる。静まり返る会場にアナウンスが響く。
『富ヶ丘高校のスターティングメンバーを紹介します。』
『4番、双川結愛さん。フォワード。』
『5番、双川結蒔さん。センター。』
『6番、高石美玖さん。ガード。』
『7番、椎名りりさん。フォワード。』
『11番、戸倉茉華さん。ガード。』
そして両チームの選手コールが終わり、いよいよ試合開始の時を迎えた。歓声と共に高く上がったジャンプボールは結蒔が制し、試合は富ヶ丘高校の攻撃から始まる。
「まずは富高ボールか。しかし自校を応援しなきゃならんのに、彼女たちが相手校ってのも複雑だよなぁ。」
「か、彼女たちってなんだよ…。意味わかんねーこと言うなって。お、浪川のチェックすげぇな。双川も簡単に抜けねーぞ。」
事実上の決勝戦と言っても過言ではない今日の試合。観客に混じっているのは城南男子バスケ部の郡山聖と東翔の二人。男子の決勝トーナメントも始まっており、このあと午後の二回戦から城南高校の試合だ。二人はひと足先に会場を訪れていた。
『キュッキュッ!』バッシュが床にこすれる音が響く。試合開始早々、いきなりのエース対決に注目が集まった。対峙する浪川瑠衣の激しいディフェンスには隙がないように見える。攻める結愛は一つフェイントを入れ、得意のドリブルで抜きにかかった。
《えっ!早い!》
結愛の鋭いドライブに瑠衣の対応が遅れる。トップスピードに乗ったレイアップシュートがリングに吸い込まれていった。
「瑠衣!今日は負けないから!」
ディフェンスに戻りながら瑠衣に気迫のこもった顔をむける。そして前半は両エースの点取り合戦となり第二ピリオドを終え、ハーフタイムを迎えていた。
「よしよし!上出来だ!前半は五分五分と言っていいだろう!結愛も良く浪川を抑えてくれた。さあ後半は結蒔、美玖、りり、茉華。お前たちの出番だぞ。」
渡辺が手を叩きながら選手たちに言葉をかける。そしてポイントガードの高石美玖が話を繋げる。
「ふぅ。…城南も後半はアウトサイドも積極的に狙ってくるだろうから、インの瑠衣はもちろん、シューターの松田もしっかりチェックしていこう!」
「そうだね。ディフェンスは…結蒔!かなり負担は大きくなるけど、お願いね。」
「オッケ〜!センターの伊原ちゃんはかなり大きいけど、絶対に仕事はさせない!」
するとそこにあまり口を開かない一年生レギュラーの戸倉茉華が口を開いた。
「あ…。それと、真琴も絶対に狙ってきます。アイツが静かなのは違和感があって。ーーこんな試合、燃えないはずないのに。」
「そうですそうです!浪川さんに隠れていますけど、毎試合2桁得点してます!調子に乗せちゃダメですよ!」
マネージャーの美波もしっかりデータを見ている。結愛は軽く笑ってから茉華に声をかけた。
「ふふっ。確かにね。でも、茉華だって勢いに乗ったらうちらでもなかなか止められないよ?澤登(真琴)は任せる!さあみんな!後半もディフェンスしっかり!スクリーンはしっかり声をかけ合おう!」
前半を終え、スコアは43対39。城南高校のリードで後半を迎える。
・[Always the Center]
注目の一戦はどちらも譲らぬ期待どおりの盛り上がりを見せていた。観客に混じり、共に試合を見つめる聖と翔。
「ぷふぅ〜。浪川と結愛ちゃんがバチバチだな!どっちもすげぇや。翔はどう思う?」
「そうだな。後半はさらにお互いにエースを抑えにくるだろうな。そうなりゃ鍵を握るのは…。」
「エースの資質…だな!両チームは今のところ互角。ーーおっ、始まるぜ!」
後半開始のジャンプボールは城南が奪った。城南ポイントガードの秋山夢衣は憎いほどに的確なパスを浪川に入れてくる。しかしエースがシュートエリアでボールを持った途端、富ヶ丘高校の選手たちが動いた。
「富高がゾーンディフェンス?お、おい翔。これなんてったっけ?」
「ーーボックスワン。インサイドに入ってきた浪川を四人で囲んで潰す。そして一人がシューターの松田をマークすることで、インとアウトの両方をカバーしている…。考えたな。」
ディフェンス四人に囲まれてはさすがの浪川もどうすることもできない。パスもシュートもできず、やがて審判のホイッスルが鳴り、5秒バイオレーションの反則を取られてしまったのだ。(ボールを持った選手が近くでディフェンスと相対した時に5秒以内にボールを動かさなければならないルール)
富ヶ丘ボールに変わり、攻撃の要の結愛にパスが入る。城南もすかさずダブルチーム(二人がかり)で結愛を囲んできた。
「茉華!」
それは相手ディフェンスが整う前だった。結愛は逆サイドの戸倉茉華へパスを出す。落ち着いて得意のミドルシュートを決める茉華。富高の後半の作戦変更が功を奏していた。
「茉華ナイッシュ!さあ!もう一本いこう!」
ゴールエリアを四人が守り、浪川には結愛の厳しいチェックがありパスを通せない。秋山が次に選択したのはゴール下だった。
「二千華!」
センターの伊原へボールを送った。伊原二千華は190センチと、結蒔よりも大きいところを狙ったのだ。
「秋山もさすがだな。センター対決、双川妹とのミスマッチを使わない手はない。」
「確かに正しい。…でもな翔。結蒔はミニバスからずっとセンターだ。高校からセンターにコンバートされた伊原とは経験値が違う。……ほら!」
聖の言う通り、ボールを持った伊原はゴールへ振り向くこともできない。まさに鉄壁……。結蒔の気迫のこもったディフェンスは圧巻だった。
「りり!そっち!」
伊原がたまらずパスを出したところを椎名がカットし、また速攻を落ち着いて決める。そして後半最初の第3ピリオドは富ヶ丘高校優位で進み、城南を沈黙させることに成功。2分のインターバル中にポイントガードの高石美玖が大粒の汗を拭いながら声を上げる。
「今のところは奇策のボックスワンが機能してる。でも点差なんてないと思ったほうがいい!城南は、瑠衣たちはまだまだこんなもんじゃないから…。」
64対51と、富ヶ丘リードで点差が開いていた。いよいよ最終第4ピリオドが始まる!
・[ウソでしょっ!]
『ピイィィィッ!』
インターバルの終わりを告げる審判の笛が響いた。いよいよ最終ピリオドの10分間が始まる。決着に向けて会場もどよめきだっている。
「13点差か。ここまでは富高の予想外の動きに振り回されたな。だが……このまま"名将"丸山が黙ってるワケねぇ。」
男女両方の指導をするコーチの丸山丈和は、城南高校を強豪へと育てたベテランの名将だ。勝利へのこだわりは誰よりも強い。
「ーーだろうな。ここから"それ"ができるのも城南の強さだからな。富高にはかなりキツイ10分間になるぞ。」
そして富ヶ丘高校ボールからゲームが始まった。すると一斉に城南の選手たちはこれまでの比ではない厳しいチェックで結愛たちを抑えにきた。
「オ、オールコートマンツーマン!…ま、丸山先生、ここにきて10分間これをやるのか?」
これには富ヶ丘高校の監督、渡辺も驚きを隠せなかった。あっという間にその場に釘付けにされたコート上の選手たちはもっと驚いたことだろう。
「美玖!こっち!」
パスコースを塞がれた美玖へ結愛がマークを振り切りなんとかボールを繋いだ。そしてひとつボールをついてドリブルを始めるが。
「えっ!3人も!」
エース結愛に対して3人がマークにつく。これにはさすがの結愛もボールを奪われてしまった。そして城南の速攻が決まり、また同じディフェンスが繰り返される。誰もが徹底したマークに合い、攻めることもできずに点差だけがみるみる縮まっていった。
『ビーーーッ!』
そして試合中断のブザーが鳴る。たまらずタイムアウトをとったのは富ヶ丘高校だった。急ぎ渡辺のもとへ集まる選手たち。5人はピリオド開始からたったの3分でかなりの体力を消耗してしまった。
「はぁっはぁっ。ど、どうなってんの?先生、どうしよう!」
「ふむ。改めて城南の恐ろしさを感じているよ。まさかここでオールが来るとは思わなかった。みんな、すまない。ーーだが勝つためにはこれを乗り越えなきゃならん!それには…美玖、まだ走れるか?」
「ふぅ〜っ。……もちろん!わかってます。それが私の仕事ですから。ーーみんな、なんとしてでも私がボールを運ぶから。結愛が抑えられている以上は結蒔、茉華で点を取る!そして、りりは……。先生、それでいいですね!?」
「その通りだ。ここからはスプリント勝負。美玖にボールが入ったら全員は一斉にゴールへ走れ!うちのスピードスターが絶対に届けるからな!…さあ!行ってこい!」
審判が手招きしながら小刻みに笛を鳴らして試合再開を呼びかけている。選手たちは急ぎ円陣を組みキャプテンの号令でハイタッチをする。
「よぉし!走りまくるよ!富高ぉ〜!ファイッ!!」『イェーイ!』
コートへと戻っていく選手たちを見送る美波はすでに泣きそうな顔をしている。
「うぅ。せんぱぁ〜い。か、勝ってください。ーー富高ぉぉぉ!ファイトォ〜!」
精一杯の大声を出し激励する。そして残り6分強…。
・[最終…兵器?]
試合が再開された途端に、またボールを奪われてしまった。だが結愛の必死のマークがエースを食い止める。抜けないと判断した浪川瑠衣は一年生の点取り屋、澤登真琴へパスを出す。
虚をつかれ、反応が遅れた戸倉茉華は彼女をフリーにしてしまった。
「もらった!」
しかし澤登がシュートを放った瞬間だった。
《バチコーーンッ!!》
強烈にシュートを弾いたのは椎名りりだ。その読みの鋭さから何度もチームを救って来た守護神が雄叫びをあげる。
「っしゃぁぁ!こういうのはアタシに任せて!ソッコー!」
そして結蒔が落ち着いてシュートを決める。富ヶ丘高校3点のリードで残り5分…。
「ドンマイ!まだ半分あるよ!さぁみんな!…えっ!」
城南のキャプテン浪川が檄を飛ばした瞬間、会場がさらにどよめいた。
「オ、オールコート!富高も真っ向勝負ってワケかぁ!」
「驚いたな。でも、これしかない。聖だってそうするだろ?」
「あぁ。そして足が止まったほうの負けだ!」
いつの間にか後ろに座って観ている憲崇たちにも気付かない二人。両チームの死力を尽くしたディフェンスは、互いに得点どころかシュートも許さぬまま時間だけが過ぎてゆく…。
そして残り1分を切ろうとする頃、城南は浪川瑠衣へボールを繋いだ。まずは茉華を抜き去りシュート体制に入ったところへ結蒔がカバーする。しかしそれを絶妙なフェイントでかわしシュートを放つ。そこへバランスを崩した結蒔の体が瑠衣にぶつかった。
『ピイィィィッ!』
ファールを告げる笛がなるも、放たれたシュートはリングへと吸い込まれていく。
…パサ。
「カウゥゥント!5番プッシング!ワンスロー!」
瑠衣のシュートが決まり、なおもファールを受けたことによりフリースローが与えられた。土壇場でのエースのミラクルシュートに会場のボルテージは最高潮を迎える。その歓喜の中で愕然とする結蒔。そして冷静にフリースローを沈め、これで城南高校が2点のリード。
残り、30秒…。
終盤にきても城南の厳しいディフェンスは緩むことがない。ポイントガードの高石美玖もあっという間に二人に囲まれてしまう。
「くぅ。ぜ、絶対!絶対に勝ぁぁつ!」
隙をつき、ディフェンスの股にボールを通して抜け出した。スピードなら美玖の勝ちだ。近くにいた茉華へボールが渡るも、ここもすぐに囲まれてしまった。
残り5秒…。
もう打つ手が無いと思った瞬間、飛び出した影があった。
「茉華!出して!」
大声を出したのは逆サイドの結愛だ。ボールを受け取るも、結愛の得意とするシュートレンジからは遠い。
《ここなら結愛は打てない!勝った!》
マークについた瑠衣は、抜かれないように距離を取る。しかし結愛の脳裏には"あの時"の彼の、翔の言葉がよぎる。
《最終兵器になるかもな…。》
すかさずシュートモーションに入る結愛。
「ここしかない!行っけぇ!最後のスリーポイント!」
「えっ!」
予想だにしていなかった瑠衣は驚きを隠せない。そして、美しい放物線を描きながらボールはリングへと…。
「入れーっ!」
ガッ、ガンッ!
だが、リングに入ったかと思われた最後のシュートは、無情にも外へ弾き出されてしまった。
『ビーーーッ!』
試合終了のブザーが鳴った。ストンと両膝をつき顔をおさえる結愛の肩を高石が抱きしめる。
「74対72!城南高校!お互いに礼!」
歓喜の城南高校と泣き崩れる富ヶ丘高校。その様子はあまりにも対照的だ。静かにスコアボードを見上げる結愛に、声をかけたのはライバルだった。
「結愛…。ありがとう。最後は、負けたかと思ったよ。」
浪川瑠衣が結愛に握手を求める。
「…ふぅ。でも決められなかった。瑠衣には負けたよ。こちらこそありがとう。」
握手とハグを交わしてそれぞれのベンチへと戻ると、誰よりも号泣しているのは美波と渡辺だった。
「うわぁっ!みんなぁ。ごめん!勝たせてやれなかった!本当に最後まで良くやった!」
そしてガックリと肩を落とす結蒔に、そっとタオルをかけたのは結愛だ。
「うわぁ〜ん!結愛ぇ!アタシのせいだぁ!ごめぇん!負けちゃったよぉぉっ!」
抱き合った姉妹は共に涙を流す。全員が涙の止まらないまま、控え室へと引き上げていく。見送る観客たちからは大きな拍手が沸き起こっていた。
「結蒔も結愛ちゃんも、悔しいだろうな。…翔?こりゃ責任取らないとな!」
「なっ!何言ってんだよ!お、俺は別に……。お、惜しかったけどな。」
すると後ろからズイっと顔を出したのは憲崇だ。
「む?責任とはなんのことだ?」
「うぉっ!いたのかよ!
い、いやぁ、大したことない。気にすんなよノリ。」
首をかしげている憲崇。それに構わず翔が話し出す。
「しかし、こんな時ってどう声をかけてやるんだろうな。聖なら…どうするんだ?」
「…こんな時か。救いになるのは闘った仲間たちだよ。ーーまっ、結蒔には今度ファミレスでパフェでも奢ってやるさぁ!」
「な、なるほど…。確かにそうだな。」
そして準決勝は富ヶ丘高校の敗北に終わった。全員で解散の挨拶をすませ、それぞれが岐路につく。あの白熱した試合が嘘だったかのようにまた、陽が暮れて一日が終わろうとしていた。
「ねえ結愛。アイス買って帰ろ?」
「えー。じゃあ結蒔が買ってよね。…私、ハーゲンダッツ!」
「高ぁっ!ムリ!」
Love Sick ③ 〜end〜
【次回予告】
冬の冷たい風が僅差で敗北したショックに追い打ちをかける。そんな彼女の心を温めたのは?足早に過ぎる日々の中、男子の決勝戦が始まる。
【あとがき】
流れる汗のひと粒ひと粒さえ美しい。思いきりキラキラさせてます(笑)
※この物語は、私の大好きなある楽曲に込められている青春の感情を表現したい。そんな想いから生まれました。
恋と呼ぶにはまだ早い。そんな青春の「心の揺れ」を大切にしていきたいです。読んで頂き有難うございます。




