土用入り
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。ウナギを食べたことがない。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。脂っこいからウナギはあまり食べない。
陣の目…インテリタスの保護者
ウナギを御馳走するからと言って直し屋に呼び出されたものの、案の定、想像していた御馳走はなく、ウナギを獲ってこいとマナブは用命を受けた。
「僕は別に暇人ではないんだけどね」
「でも、時間は有り余っているだろう?」
「うっ……」
マナブの嫌味を陣の目が受け流す。この直し屋の店主が言っているのは、ここのところマナブが毎日のようにインテリタスと遊んでいることについてだろう。特に定職についていないマナブはいい暇つぶしに、と少女のいる空き地へと通いつめているのであった。特に大きな理由はなく、強いていうなれば、話のできる人外と話をするのが思いのほか楽しく、マナブは空き地を訪れている。
「まあまあ、いい暇つぶしになると思うよ。上手く行ったら、皆で蒲焼きを食べよう!」
陣の目曰く、直し屋から少し離れた西地区の池に怪物ウナギが大量発生しているのだそうだ。それも、池からはみ出すくらい大漁に。西地区警備署はこのウナギを駆逐せずに、近隣住民に任せるとの達しを出した。つまり、自由に獲って構わないというお墨付きを住人たちは貰ったわけだった。
食べた住人の感想では、怪物ウナギは脂がのって美味らしい。それを直し屋でも食べたいけれども、野梨子は警備署に出ずっぱり。陣の目のカプセルは意外にも防水機能が付いていないらしく、魚を取ることはできない。そこで白羽の矢は同居しているの人で非ざる少女に立ったのだが……。
「インテリタスはそもそもウナギ見たことがないんだよね。ウナギを一人で取れるほど器用でもないし。だから、友達に手伝ってもらおうってわけ」
インテリタスと一緒にいて、マナブは碌なことがあったためしがない。頭を吹っ飛ばされるのは日常茶飯事だし、炎天下の中付き合わされて夏は蒸発の危機、海では溺れかける始末だ。今回のウナギに関してもいい予想ができないのは事実である。
しかし、ウナギを食べれば少女は何か表情を変えるかもしれなかった。ウナギはうまい。食い意地のはった化け物娘がそれを頬張った時、感情を露にするかもしれない。それを想像して、陣の目の要望を、マナブは呑んでしまったのだった。
***
池にはすでにウナギはいなかった。
脂の乗った怪物ウナギの噂を聞きつけた魚屋や小料理屋がこぞって乱獲していったらしい。後には、細長い小さな稚魚が残っているばかり。
「ちょっと遅かったな」
インテリタスはというと、これかウナギかと言うようにこちらを一瞥してきたため、獲るなよと釘を刺した。稚魚を食べてもウナギの味はしないだろう。しかし、成長するまで取っておくと来年、ウナギを食べられる。ギョカクカンリをしないと動物はゼツメツするんだ……、そう説明するが、インテリタスは眉を顰めて頷くだけだった。マナブの聞きかじった説明でその仕組みを理解できたのかは怪しい。ただ捕まえるなというマナブの指示に従い、少女は池の端に座り込んでウナギを眺めていた。
果たして特区の生き物に対して絶滅という単語を選んだことは正解だっただろうか? 自分の身を必死で守らなければ生き残れないこの世界で。自分の身もそう簡単には守れないこの街で。
マナブがそんなことを考えていると、池の向こう側から大きな肉食用の牙を持つモンスターがゆっくりと近づいてきた。池の端で遊び泳いでいる稚魚を食べんと、大口開けてやって来たらしい。
獲ってはいけないを、その稚魚たちを失ってはいけないという意味で捉えていたのだろう。インテリタスがモンスターの方へと手を伸ばす。次の瞬間、少女はその肉食獣を彼女の視界上で手のひらに収め、そのまま握りつぶしたのだった。ぶちゅ、と音が鳴り、周囲には赤色の肉が散乱する。小さなウナギたちがその肉に群がっていた。来年、大きなウナギとなってここに戻ってくるに違いない。
なお、夕飯の予定だったウナギの蒲焼は、ひつまぶしに変更になった。
「おいしい」
インテリタスは濃いたれのかかった肉を爆速で食べている。その肉がウナギだろうがモンスターだろうが、少女には関係がないようだった。
──めっちゃ食うなあ……。
表情は変わらなかったものの、よく食べるということは、その味に心が動かされている証拠だろう。インテリタスの様子を見ると、池に行った甲斐はあったな、と思うマナブである。
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