梅ふふむ
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
花冠被る女の子ってかわいいな~と思いながら書きました。特区はいろいろな怪異があるので便利です。
春のお話はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n0333ka/14
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。怪異に好かれる。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。怪異には巻き込まれ気味。
道路からインテリタスの部屋の窓を見上げると、少女がこちらを見下ろしていた。マナブが手を振るよりも先に、くるりと振り返り、窓の傍から消える。マナブを待っていたのだろうか。ともかく、少し経てば玄関から出てくるに違いない。直し屋の前でインテリタスのことを待つ。今日は暖かく、マナブの身体は軒先で震えることはなかった。
空き地で日向ぼっこでもするか、あるいは散歩に出て駄菓子屋でおもちゃでも買ってくるか。冬は家の中で遊ぶバリエーションが増えたが、これからだんだんと春になれば外での遊びも増えてくるだろう。何か調達しないとな、と脳内で春の遊びに想像を巡らすマナブである。
ベルと共に扉が開く音が鳴り、ガラス扉の隙間から少女が顔を出した。マフラーとコートを着込んでいるものの外の暖かさに気が付き、インテリタスが眉を顰める。暖かいと感じた人で非ざる者は果たしてどういった行動をとるのだろう。外の様子にそぐわない格好をした少女は思案したかと思うと、一度屋敷の中に引っ込んだ。気温に対して服装を合わせるということを冬の間に学んだのかもしれない。非常に学習能力の高い人外である。
少し時間を置き、再び玄関から出てきたインテリタスは軽装だった。中でちょっとした衣替えをしてきたらしい。この直し屋の家のどこにあったのかと思うような子供用の上着で、淡いピンク色の生地に大きな茶色のボタンが付いている。コートよりも軽そうだ。可愛らしいデザインのジャケットはインテリタスに良く似合っていた。
樟脳の匂いをまとわりつかせながら、おはようとあいさつをしてくる少女の様相が違うのは服装だけではなかった。こげ茶色の髪にはポコポコと茶色の物体がいくつも付いている。固い木の節のようなそれは、ぐるりと少女の頭を囲み、まるで大量の虫が付いているかのような不気味さがあった。あるいは、何かの卵だろうか。マナブがぎょっとして思わず後ずさる。その様子を見て、インテリタスが何だと反対に距離を詰めた。
「お、お前、その頭どうしたんだ?」
「あたま」
「なんかたくさんついてる」
ごつごつとした茶色い小石のような物が大量に付いているのだから、それなりに違和感があると思うのだが、頭の上に付いているためかインテリタスは気が付かなかったらしい。マナブが小さな手を導いて頭に触れさせると、インテリタスは怪訝そうな顔をしてわからないと言う。触れた感じはやや硬く、強く擦ればポロ……、と落ちてしまいそうな塊であった。
どうやら、この少女はまた怪異に取りつかれているようだ。色形を推測するに、虫の怪異か木の怪異あたりだろう。いずれにせよ、インテリタスの力を養分として吸い上げられたら一大事である。この特区の中でも有数の頑強な怪異である破壊の概念。その力を受け継いだ何かが溢れれば特区のバランスは崩れてしまうに違いない。
……が、どう解決すればいいか見当がつかず、マナブはインテリタスを伴って彼女の保護者の元へと尋ねに行くことにした。
「インテリタスの頭に虫みたいなのついてるんだけど……」
「虫?」
マナブが家の中にいた陣の目を見つけて説明する。衣替えで少女に上着を出したというのに、インテリタスの頭に付いた怪異は目に入らなかったらしい。どうもこの家の住人は暢気で散漫である。
陣の目は少女の頭についた固く締まった粒の様子を確認した後、これは梅のつぼみだね、と返してきた。
「梅のつぼみ? こんな気持ち悪いやつが?」
「今はまだ小さいけど、そのうち色がついて花が開くんじゃないかな? どうやら、春が咲く場所を間違えてインテリタスの頭に出てきちゃったみたいだね」
「春が咲く場所を間違えたぁ?」
陣の目曰く、春は花の姿をしており、花が咲くことで春の陽気を呼び込むらしい。その春が間違ってインテリタスの頭の上に現れてしまったわけだ。本来ならば花が咲けば春が訪れるわけだが、今回はインテリタスの周りだけ春が早めに始まるのかもしれない、と陣の目はマナブに説明する。
「梅の花だから、本格的な春の前に咲くだろうね。かわいいんじゃない? 花の冠みたいで」
害のない怪異だからと保護者は楽観的だ。
「……なんか養分吸い取られないだろうな?」
「あっはっはー。マナブ君は心配性だねえ。奪われやしないと思うけど、インテリタスの周りはぽかぽかになるかもね!」
インテリタスは元から頭ぽかぽかなのに、これ以上ぽかぽかになってどうするつもりなんだよ……と頭を抱えるマナブである。
***
日に日にインテリタスの頭の蕾は赤色に色づき、やがて小さな梅が頭の周りに咲き始めた。少女の周囲には、花の蜜を求めて小さな鳥や虫たちが集まり、インテリタスの周りだけが春の午後のように暖かい空気に包まれている。柔らかな花の匂いが漂う。
「結構かわいいじゃん」
梅の小花をティアラのようにかぶり、インテリタスはまるで春の妖精のようだった。
「かわいい」
「そうだな……。写真撮ってやろうか」
マナブは携帯端末を取り出し、インテリタスのその姿を写真に収めた。ピンク色の上着と相まって所謂映え写真である。インテリタスは画面に映った自分を不思議そうに眺めるものの、かわいいという実感はなさそうだ。少女が首を傾げた拍子に、頭から花びらが散った。
春が深まれば、この姿も見られないのだと思うと、少々もったいない。
柔らかな日差しが少女に降り注ぎ、睫毛が黄金色に照らされていた。
読んでいただきありがとうございます☺
読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!
もしよければ評価を頂けるととても嬉しいです。
各種リアルイベント、WEBイベントに参加しています。参加情報については、活動報告に掲載中です☺




