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寒晴れ、姿をよく照らす

水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。


恥ずかしながら、チェキ触ったことがなくて構造を調べました。ネガ派です。お気に入りはKodakGOLDです。


■いる人

インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。写真に写る。

マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。写真に写る……?

 バンドの資金繰りの一環で、オーバーライトの面々はそれぞれ十枚分のチェキを撮るように言い渡されていた。当初は他のアイドルよろしく、バンドメンバーの写真を売る計画が立てられたのだが、元来、パフォーマンス売りをしているバンドとしてはメンバー顔写真を販売しても売れないだろうという結論に至った。愛想が悪く、一部人相も悪い。しかし、メンバーが撮影した写真ならば売れるに違いない。そのバンドマスター・ニカの一声で、メンバーはそれぞれ写真を撮ってくることが決まったのだ。マナブも例外ではない。


 写真を撮ってこい、と言われても、何を撮影すればいいのか見当もつかない。空やら花やらにファインダーを向けてみるものの、絵になる風景にはならず、カメラを構えては下ろすのを繰り返すばかり。ライブまでにはどうにかフィルムを使いきらなければならないが、撮りたいものも、撮ったらウケるだろうものもわからないまま、マナブはやや途方に暮れていた。たかだか十枚のフィルムだが、まだ一枚も撮影できていない。写真を撮るというプレッシャーだけを感じながら、普段通りに直し屋へと向かう。その途中、空き地でぼんやり座り込んでいるインテリタスを見つけた。


 ──そうか、暖かいもんな。


 寒くなってからめっきり空き地で遊ばなくなっていたものの、ここ最近は日が長く、晴れて心地よい日が増えてきた。インテリタスも季節の変化を感じ取っているのだろう。今日はマフラーと手袋でしっかり防寒をしながら、日向ぼっこでもしているのか、ちんまりと空き地に放置されているコンクリートに座り込んでいた。少女と無機質なブロック。これは絵になる……そう思い、マナブはその姿を写真に収めた。


 パシャ。


 思わず撮影してしまったものの、果たして人で非ざる少女、破壊の概念(インテリタス)は写真に写るのだろうか。シャッターを切ってから疑問が浮かんだがもう遅い。ジーっと音を立てて即席現像の写真は出てきてしまっている。何も写っていなかったらどうしよう。いや、人ではないのだから写っていなかったとしてどうもならない。しかし、少女が写っていない何の面白みもないコンクリート片を撮影したとあってはニカにどやされるに違いない。


 内心慌てつつマナブは現像を待った。写真に浮かび上がった像は──ちゃんと少女が写っていた。物憂げな表情で虚空を見つめている娘。赤いコートが無味乾燥な空き地を彩っている。無事、いい感じの写真であった。マナブは二重の意味で胸をなでおろす。


 マナブに気が付いたインテリタスが、見慣れぬ道具を目にとめた。少女がやや速足で近寄ってきて、挨拶もそこそこに、マナブの手元に顔を寄せる。普段使っている携帯端末ではない。時折、太陽光を反射して光るカメラのレンズが気になっているようだった。


「なに」

「これはカメラ。写真撮って客に売るんだって」

「かめら、うる」


 写真を売るか売らないか、バンド内でひと悶着あった。メンバーが撮影した写真の販売などそんなにうまくいくかわからない。マナブは頼りない計画だと思うが、バンドマスターの鶴の一声だから仕方がない。あまり期待せずにその場は解散になり、マナブはカメラを持て余している、とインテリタスに話す。


「お前も使ってみる?」


 インテリタスが話を聞きつつ、カメラを覗き込んでいるのを見てマナブは提案した。インテリタスもむやみやたらに物を壊さなくなったのだからカメラを持たせても問題はないだろう。マナブ自身が撮影してこいと言われたのも忘れて、インテリタスにカメラを差し出した。おずおずと慎重に手にとるインテリタスはカメラを破壊しなかった。


「ここ覗いて、このボタン押したら撮影できるよ」


 インテリタスがファインダーをのぞきマナブの方を見る。


「マナブ、みえる」

「で、ボタンを押す」


 インテリタスがシャッターを切った。カシャンと小気味よい音が鳴り、それからじーっと音を立てて即席写真がカメラから排出された。インテリタスの足元に落ちた写真を拾い上げると徐々にマナブの姿が浮かび上がる。写っていたのは笑顔だったが、その表情はぎこちない。普段、インテリタスと一緒にいる時、自分はこんな笑顔をしているのだろうか。


「へー、うまいじゃん」

「じょうず」


 その日の遊びの肴はカメラになった。二人でカメラをもって近所を歩く。不思議と、カメラを持たされた時のような戸惑いはなく、インテリタスの高さまで下げた目線はマナブにとっては新鮮な景色だった。


 夕方、撮れたマナブの写真を見てじっと眺めているインテリタス。自分の顔をじろじろ見られることには慣れているが、写真を眺められるのはそれとは違ったこそばゆさがある。


「なんだよじっと見て。そんなに見たいならやろうか?」

「うん。ありがとう」

「……この写真だけでいい?」


 結局、インテリタスが気に入った写真はすべて少女の物となったのだった。


 ***


 マナブが差し出した三枚の写真を見て、ニカが不満そうな表情をした。怒られる予感がするが、何でもない風な顔をしていい写真だろ? とマナブは開き直る。


「撮影してこいと言った」

「おう」

「だが、フィルムを無駄遣いしてこいとは言わなかった」

「あ、ひでえ。無駄遣いしてねえよ!」

「どう見ても無駄遣いだろ! なんで十枚パック渡して、撮れた写真が三枚なんだよ!」


 ニカが怒るのも無理はない。十枚パックのフィルムでインテリタスと遊び、うち七枚はインテリタスが気に入って、持って帰ってしまったのだ。十枚売ろうとしているのに三枚しかないとなると、どちらかというと赤字になる。堂々といけばニカは見逃してくれるかもしれないと思ったが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。


「まあ、でもよく撮れてるじゃねーか。この写真なんて怪異っぽくて良い感じだし」


 ニカがマナブに渡したのはインテリタスが写っている写真だった。コンクリートと少女はよく似合っている。こちらを見ているアンニュイな目が幻想的な一枚だ。常日頃から思ってはいたものの、インテリタスはかわいい(誰も認めたがらないが)。


「……」


 マナブはその写真を手に取ってじっと見つめた。インテリタスがマナブにあげると言った一枚だが、マナブに渡せば販売されるとは少女は知らなかっただろう。果たして、自分の写真が誰かに売られることを少女は良しとするだろうか。いや、そもそもマナブ自身は友達が写った写真を売ってもいいと思っているのか。


 写真をじっと見ながら、だんだん険しくなっていくマナブの顔に気が付き、ニカがため息をついた。


「あー、もう。その女児が写ってるやつはマナブにやる。代わりに、お前が無駄遣いした七枚分は、全部お前の顔写真にするからな!」

「……サンキュー、ニカ!」


 インテリタスの写真を誰かに渡すのはあまりいい気分ではないのだから、その提案は願ったり叶ったりである。


 マナブが聞いていたのはニカの言葉の半分で、後ろの半分はまったく耳に入っていない。


「いいから、壁際に立ってポーズ決めろ、わかったな?」

「えっ、えっ!?」


 まさか自分の写真を売る羽目になろうとは思わなかったマナブであった(プレミアがついた)(バンドの負債はチャラ)。


読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


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