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星空、めくるめく

水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。


■いる人

インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。人間にならなくてもいいが人間に近づく。

マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。人間になりたい。

 青みがかっているというだけで、冬の夜の空は透き通ってみえた。どこまでも高く暗い場所には輝く数々の星たちがある。雲一つない、満天の星空だ。首を大きく上向きにそらして、インテリタスの視線は、その小さく鋭い煌めきに吸い寄せられていた。


「しぶんぎ座流星群なんて初めて聞いたな」


 夜空と同じ色の髪をした男が言った。冬の寒さでも顔色の変わらない肌は冷たい印象を受けるが、それはこの男が水の身体を持っているからにほかならない。そこにただ或る彫刻か幽霊だと言われても不思議ではない。しかし、受ける印象以上に、この男が内心温かな人間性を持ち合わせているのをインテリタスは知っていた。人間でなければ、暖かくしないと風邪ひくからな! と、嬉々としてココアを用意しながら天体観測を楽しみにはしないだろう。


 二人は直し屋の店舗の屋上に座っていた。しぶんぎ座流星群が極大になるというニュースを聞いて、インテリタスは天体観測をすることに決めたのだ。水の身体を持つ男──マナブはそれに興味を持ったわけだった。


 快晴。星がキラキラと瞬き、絶好の天体観測日和である。まだ流れ星は現れていない。しかし、この無限に広がる星空を見ることができただけでも十分な成果と言える。光る星を手に入れることはできなかったが、天上に輝いている星々を目に入れるだけでも気持ちが清々しくなるのは発見であった。


 コートを着込み、二人で流れ星が降るのを待つ。寒さに耐えながら並んで座る。用意していたココアはとうにぬるくなっていた。インテリタスの身体の末端は冷たく冷え切り、震えこそしていないが、徐々に中心部へと冷たさが侵食している。耳も頬も鼻の頭も真っ赤になっているに違いない。呼吸をするたびにインテリタスの鼻の奥を冷気がくすぐり──。


「っしゅん」


 鼻のむず痒い感覚に襲われて、意図せずインテリタスは空気を破裂させてしまっていた。今までに起こったことのない生理で呆然とする。特区に顕現してからこの種類の力の発現をしたことがない。あるいは、人間の身体の異常だろうか。ただでさえ、この小さな身体は寒さに弱い個体である。さらに問題が起こるのか、とインテリタスは思わず口元を押さえた。


「なんだよ、ぶりっこみたいなくしゃみだな……。ほら」


 呆れた顔をしながら、マナブがかけていたひざ掛けをインテリタスに半分かけた。さみー、と言いながら脇に置いてあったカイロを振って手を温め、マナブは再び空に目を移す。


 インテリタスが起こした空気の破裂はマナブにとっては大したことがない現象らしい。くしゃみ。そして、ぶりっことは何だろう。マナブの言葉はいつも通俗的でわからないことがある。インテリタスがそれについて聞こうと言葉を探しているうちに、マナブが空を見上げながら今日の天体観測について話し始めた。


「だいたい、しぶんぎってなんだろうな?」


 インテリタスに流星群が来ると教えてくれたのは保護者の陣の目だが、しぶんぎ座が意味するところは言及をしなかった。インテリタスは『天体観測をすると星が近くに見える』という言葉を聞いて、輝く星が手に届くかもしれない、と思い天体観測を決めたのだ。確かに、しぶんぎ座が何かといわれればわからない。調べてくれば質問にも答えられたかもしれない、と思いながらマナブを見る。


「お前にも知らないことがあるんだな」


 インテリタスが首を横に振ったのを見て、マナブが携帯端末を開いて『しぶんぎ』について検索をし始めた。一緒に画面を見ようとインテリタスに合図し、二人で一緒に明るい端末を覗き込む。天体情報のページ曰く、しぶんぎ──四分儀というのは昔に天体観測に使われた扇型の計測器の一つで、しぶんぎ座というのは、それを空の上で見立てたものだそうだ。今はない幻の星座だという。


「りゅう座、ヘラクレス座、うしかい座があの辺で。上にあるのが北斗七星」


 マナブが夜空に視線を戻し、星座早見盤の通りに夜空を指でなぞった。星々が結ばれてそれぞれの星座が白い線で浮かび上がる。早見盤が空の上に現れたのである。特区の星空は天体観測をする者たちに協力的だ。


「で、天体観測に使われた四分儀を元にしたのがしぶんぎ座」


 インテリタスがマナブと同様に夜空を指でなぞり星を結ぶ。すると、へろへろとした線だが、空にはしぶんぎ座を表す白い線が現れた。しかし、周囲の星座たちが領域を主張し始めて、あっという間にしぶんぎ座の姿は見えなくなってしまった──というのは空模様の話で、実際は星座を八十八個と決めたときになくなったのだそうだ。


「星なんて、昔からいつでもそこにあるのに、人間の都合でいろいろ変えられちゃうなんて変だよな。……人間のほうが、脆くて弱いのに」


 特区において、特別な力を持たない人間は最もか弱い存在ともいえる。その人間が自然に対して口を出して取り決めをする。確かに、奇異な出来事だとインテリタスも思う。


 しぶんぎ座が見えなくなったあたりから流れ星が流れ始めた。間をおいて、一つ、二つと星が尾を引いて夜空を横切っていく。役目を終えた空の星座早見表はどこかに消え去っていた。


「お、見えた。お前、願い事決めたか?」


 マナブがインテリタスに言った。


「流れ星に願い事をすると叶うんだぞ」


 男が手を合わせて何かを祈る。人間になれますようにとでも願っているのだろうか。自らが脆いと評する存在に焦がれるマナブ。インテリタスにとっては、それもまた不可思議な現象にも思えるのだった。

読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


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