Gold Plan for You
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
時間を戻す美容師のエピソードはこちら。
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インテリタスは光るものが好き。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。小さな奇異。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。インテリタスを放っておけない。
ニカ…マナブのバンドのドラマー。美容師。
美容院の年内営業最終日は普段よりも混みあっていた。カットが二人。パーマが一人。待合にもう二人客を待たせている。午後の予約は四人だったが、さらに予約外の客を二人受け入れたためだ。皆、新年に晴れ着を着るらしく、駆け込みで髪を整えに来たらしい。スタイルを変えて心機一転、新しい年を迎えようとする姿勢は嫌いではない。客の期待にそえるように、美容師であるニカは腕を振るう。
二人目のカットの客を相手にしている最中に、その男はやってきた。ガラス扉から店の中に入ってきただけなのに、午後の黄金色の太陽光に照らされて、まるで神様の使いのように眩い。店内にいた客がちらりと入口に視線を向け、そのまま全員の視線が男に釘付けになった。無理もない。入ってきた男の顔はこの世のものとは思えないくらい、美しかったのだ。艶のある巻き毛の黒髪、水のように潤んだ白い肌、透き通るような青色の瞳。左目の下にあるホクロが青年の顔をさらに甘いものにしていた。
長い睫毛に彩られた伏し目がちな瞳が店内をさまよった後、ニカと目があった。
「いらっしゃいませー……って、マナブかよ」
男の名はマナブ。ドラマーでもあるニカのバンドのベーシストである。期間は開けど、十年来の親友で弟分。たまに髪のセットをする間柄でもあるが、まさかこの美青年も年末に容姿を整えようとやってきたのだろうか。
「髪切りに来たのか?」
「いや、別件。仕事が終わるまで待ってる」
ニカの問いにマナブは答えると、無遠慮に待合の椅子に腰を下ろした。正直、客でないのなら外で待っていてほしい、とニカは思った。人が一人増えて店が窮屈に感じられるというのもあるが、マナブにはそれ以外の理由がある。
椅子で待っていた若い男が頬を赤く染めながらマナブの美しい横顔を見つめている。男性客だけではない。ニカが今カットをしている客もマナブの方を見たまま、ぽーっと瞳を潤ませていた。パーマの客もだ。その場にいるニカ以外の人間がマナブの顔に目を奪われ、まるでメドゥーサに魅入られた人間のように石膏像と化していた。天使のような完璧な美貌が美容院の中の時間を止めたのだ。
施術に支障が出るな……、とため息をつきつつ、ニカは今相手をしている客に声をかけた。カットが途中なのだ。
「お客さん、顔の位置を元に戻して。髪切るから。カットできないからさ。……マナブの顔から視線を戻せ!」
***
マナブが来店して以降、客の全員が神々しさにあてられてニカの指示が入らずにいた。誰もが恍惚から覚めないまま施術が行われ、ニカの美容院の今年の営業は終了した。
店じまいをして、さて、マナブの相手だ。
「……ったく、勘弁しろよな」
「まさか、年末にこんなに客がいると思わなかったんだよ」
ニカが悪態をつくが、マナブが悪びれもなく微笑んだ。この美少年は、微笑めばすべてのことが許される幸運を授かっているのだった。与えた人間であるニカとて例外ではない。マナブの笑みを見て、その呆れた行動はニカの頭から隅に追いやられつつある。まあ、マナブは弟分でもあり、幸運を使わなくてもニカは大概のことを許してしまうのだが。
「で、何の用だよ?」
こんな年末に用事でもあるのかとニカが切り出す。
「ニカならできると思って……」
そう言いながマナブが取り出したのは一つの封筒だった。その中から大事そうにピン札の一万円を取り、ニカに渡してくる。
「なんだ、くれるのか?」
「違えーよ。このピン札、小判にしてくれない?」
「はあ?」
ニカは思わず呆れた声を出してしまった。マナブのけったいな要望に耳を疑う。紙幣を小判にしろなんて、バカげた要求である。紙を、金属に、である。しかし、ニカならその不可能を可能にできると確信しているらしい。マナブの表情は大まじめだった。その真剣なまなざしは目の前の王に誓いを立てる騎士のような瞳の輝きと同等である。
「何だよ、その、意味不明な話は」
戸惑いを含んだ声で話を続けるように促すニカに、マナブが事のあらましを語る。マナブには最近、懇意にしている友人がいる。年下の友人であり、お年玉をあげようと思うのだが、その友人は金の価値がわからない。そのため、お金ではなくたくさんのキラキラ輝くものをやろうと思い、考え付いたのが小判をあげるというアイデアだった。相手はキラキラが好きだしちょうどいい。ただ、マナブは小判なんぞ持っていない。
「ニカは時間を操るだろ? このお札の時間を戻せば小判になるんじゃないかと思ってさ」
ドラマーは時間を司っている。マナブが話す通り、ニカには時間を操る能力があった。その力を使って、金の価値を後ろに戻せ、とマナブは言っているのだ。
マナブの真剣な表情をみて、昔からまじめなところは変わらないな……とニカは感心した。しかし、人間離れしたアイデアを思いつくところも変わらないな、と思う。その人で非ざる者にもわかりやすいように、ニカは紙幣を小判にすることはできないという理屈をマナブに説明し始めた。
「まず、一万円だと小判にするには額が足りねえ」
「え、マジで?」
「まず、それが第一のアホ。第二のアホは、紙は紙に戻すことしかできねえ。今の通貨を昔の通貨と同じにするように時間を戻すっていうのは、単純に物の時間を戻すのとは質が違う戻すの話だ。特区の中ならできる奴はいるかも知れねーけど、そんなに簡単に価値と概念を変えてたら混乱どころの騒ぎじゃなくなるぜ? ……理解したか?」
「とにかく、できないことはわかった」
「おう」
当てが外れた~、と頭を抱え始めたマナブに、ニカは一つの提案をする。
「別に小判じゃなくてもいいんじゃねえ?」
マナブの語る友人がどの程度の存在かわからないが、音楽以外に情熱を傾けなかった男が、他人のためにあれこれ考えているのを見て、ニカは興味を持ったのだ。
「小判にはならねーけど、キラキラにはなると思うぜ。紙じゃなくてキラキラがいいんだろ?」
***
元日。マナブはいつものように直し屋に赴いていた。今日は直し屋の面々と連れ立って初詣に行くのである。店奥にある居住スペースに入ると、直し屋の老店主と居候の少女が既に支度をしてマナブを待っていた。
直し屋の主人、陣の目が小判できた? とマナブにこそこそ囁く。少女へのお年玉にキラキラ小判をあげよう、と提案したのは実はこの老人であった。
「小判はダメだった。けど、別なものを用意した」
マナブが小脇に抱えていた白い箱を出す。熨斗のついた白い箱をみて、なにこれ? と少女が首をかしげた。
「インテリタス、開けてみて」
マナブが少女──インテリタスを促す。インテリタスが箱を開けると、中には金色に輝く大量の五円チョコレートが詰まっていた。小判は用意できなかったものの、ニカの提案でキラキラとしたパッケージのお菓子を集めたのである。お金の価値がわからないインテリタスにとっても妥当なお年玉だろう。
「意外なアイデアだ。マナブ君もこういうこと考えられるんだね」
「一万円分の五円チョコだぜ? 壮観だろ?」
陣の目がマナブを冷やかすが、マナブには取るに足らない言葉だった。インテリタスが目を輝かせているのを見て満ち足りた気分になる。こんなに喜んでもらえるなら、来年はもっと増やしてもいいかもしれない、と思いながら。
「マナブ、だいじに、する」
「いや、少しづつ食えよ?」
本当に大事にしまい込みそうなインテリタスの言葉に、マナブは慌てて付け足して言った。
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