麋角解(さわしかつのおつる)
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。ピカピカするものが好き。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。人が困ってると助けてしまう善性を持つ。
夏、毎日のように赴いた空き地も冬になり、枯草が寒さを耐えるようにして風に吹かれて揺れている。最近は気温が下がり、インテリタスと遊ぶのは専ら直し屋の隣にある居住スペースや図書館になっており、マナブが空き地に目を向けることは滅多になくなっていた。他人の家の暖房でぬくぬくと過ごすのは居心地が悪いものではなく、今年のマナブはすっかり他所に入り浸っている。
その直し屋へ赴く途中での出来事である。空き地の中で、薄くくすんだ緑色の枯草の間を縫うようにして、茶色の大柄な影がのそのそと動いているのが見えた。インテリタスではない。近所の誰かが空き地に陣取り始めたのだろうか。
「……?」
マナブが近寄っても気が付かずに、影はうろうろと動いていた。中腰で何かを探しているようだ。枯草の間にものでも落としたのか、あるいはここへ遊びに来る娘とかくれんぼでもしているのだろうか。後者の想像に若干の苛立ちを抱き、マナブは頭を振ってその想像を振り払った。影に話しかける。インテリタスの家がすぐ隣である。不審者だったら一大事だ。
「何か探してんのか? っていうか、誰?」
大きな影が顔を上げた。その頭には角のついた草食動物の顔が付いていた。背丈はゆうに二メートルを超える。その大きな亜人がマナブを見下ろしているのだ。マナブも特に背丈が低いわけではないが、威圧感を感じる高さと大きな角であった。
「わっ」
「ああ、驚かせてすみません。どうも、トナカイです」
クリスマスが数日前に過ぎ去ったにもかかわらず、星付きのツリーの柄の緑色のセーターを着ているトナカイは、プレゼントを配る途中で赤い鼻を落としてしまったのだ、と話した。プレゼントの配達が残っていたため、当日は落とした鼻を探せなかったらしい。クリスマス後の休暇に入ったため地上に降りて捜索を始めたのだ。
「たぶん、この辺で落としたんだと思うんですけど……」
トナカイはぼんやりとした顔で言った。赤い鼻がないだけで、こうもあいまいな顔になるだろうか。図書館で借りた童謡の本の通り、赤鼻のトナカイというのは赤い鼻がアイデンティティなのかもしれない。いまいちはっきりしない輪郭のトナカイが腕を組んでうーんと唸るのを見て、マナブは思った。
「そんなピカピカの鼻なら目立つと思うんだけど、見つかんねーな」
空き地で会ったのも何かの縁である。マナブはトナカイを手伝っていた。二人で(二匹で?)雑草を掻き分け隅から隅まで空き地を探すが、赤い鼻は見つからない。真っ暗闇でもぴかっと光ってあたりを照らす輝く鼻らしい。そんなものが顔の先に付いていて眩しくないのだろうか。そして、キラキラと光る鼻は、インテリタスが見たら家に持って帰って、宝箱にしまい込んでそうでもある……ともマナブは思った。
「この空き地に来る奴に一人、心当たりがある。そいつがダメだったら、遺失物課に依頼をかけようぜ」
「そうですね。あの鼻がないと来年のクリスマスが大変なことになってしまいますので……」
サンタのプレゼントの配送はトナカイの鼻任せらしい。
マナブとトナカイは心当たりがいるであろう直し屋へと向かう。
「こんにちはー」
勝手知ったる他人の家のリビングに遠慮なく入り込むと、中央にある炬燵に少女が座り込んでいた。空き地に遊びに来る、心当たりである。そして、少女は大事そうに赤色の光る何かを手に持って目をキラキラと輝かせていたのだった。
「あ!」
「赤い鼻だ!」
マナブについてきたトナカイが指さす通り、インテリタスはピカピカの赤い鼻を持っていた。
***
「ほら、それは持ち主がいるものなんだから元の持ち主に戻さなくちゃだめなんだよ!」
そう説得するマナブを、インテリタスは口をとがらせてじっと睨んでいる。空き地へと散歩に出た際にピカピカの赤い鼻を見つけたインテリタスは、周囲に持ち主がいなかったのをいいことに、拾って自分のものにしたようだった。手にしたトナカイの鼻を気に入り、大事に持って、マナブとトナカイの二人を交互に見たままインテリタスはそっぽを向いてしまった。
「この赤い鼻がないと、来年のクリスマスに特区に来れなくなってしまうかもしれないんです。ご返却をお願いできないでしょうか?」
語気を強めるマナブに対して、紳士的に説くトナカイに、インテリタスがしぶしぶ赤い鼻を渡す。この少女にかかればトナカイから赤い鼻を強奪することも可能だろうが、先日クリスマスを楽しんでしまった以上、来年のクリスマスに差しさわりがあると聞いて仕方なく返したのだろう。
輪郭のはっきりしない草食動物がインテリタスからピカピカの鼻を受け取り鼻先につける。途端に、周囲にはクリスマスムードがあふれ始めた。どこからともなく黄金色のオーロラが部屋の中でなびく。赤い鼻もひときわピカピカと輝き、あいまいだったトナカイは、次の瞬間に、クリスマスの雰囲気を携えた凛々しいトナカイへと変化していた。
「うわ、まぶし……」
なるほど、この明るさならば特区の夜を照らして子供たちにプレゼントを配りあるく道しるべになるに違いない。
「大事な鼻を拾っていただいたお礼をしなければなりませんね……。そうだ、トナカイの角はいかがですか?」
うなずくたびにベルの音を響かせながら、自分の角を指さし、トナカイはインテリタスに提案した。
「つの?」
バツっ!
マナブとインテリタスの目の前で、大きな音が鳴り、折れるように角が落ちた。トナカイがその一本をインテリタスに渡す。落角である。
「光る鼻ではないですが、装飾品としては立派な角になります」
もう片方の角をバツっと音を立てながら落とし、マナブに渡す。角が落ちた部分に赤い血をにじませながら、トナカイが鼻をピカピカさせながら帰っていった。来年も特区にやって来てくれるのは確かだろう。
「じゃあ、この角を上げますって言われてもなあ……」
光るわけではない角を持ったインテリタスは不服そうである。
少女の機嫌を取るために、マナブは再びイルミネーションの飾りつけをするべきか、あるいは金色の混ざった豪華な正月飾りを買ってくるべきか……。
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