wish with you
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。クリスマス初心者。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。バンドのベーシスト。クリスマス中級者。
モーリス…カフェの店主。マナブの親友。
『インテリタスがクリスマスカードを書くのを手伝ってほしい』
人で非ざる者、この世界に顕現して間もない、少女の姿をした何か、物を破壊することを司る概念。
それが、クリスマスカードを書くだって……!?
***
特区のメインストリートの西地区側は小さな子供たちで溢れかえっていた。模造紙でできたクリスマスツリーに願い事を書いて、飾りつけをする催しが行われているのである。西地区警備署が子供たちへの対怪異安全教室を開いた後のクリスマスの恒例行事らしい。マナブもその光景を見たことがあった。場所が行きつけのカフェから近いのだ。見ようと思わなくても目に入る。
その景色の中に、まさか自分が入ることになろうとは。
隣ではインテリタスが──最も避けるべき怪異であるところの、この愛らしい姿をした破壊の概念が──熱心に警備署員の教えに耳を傾けている。マナブはその隣で居心地悪く座っていた。大の大人はこんな前の方に陣取って安全のお話を聞いていない。しかし、インテリタスを一人にして、周囲の人間に何か被害が出たら困る。そんな訳があって、マナブは少女と一緒に子供に混ざって対怪異安全教室の話を聞いているのである。
ただ、マナブにとって初めて聞く安全教室の内容は興味深かった。どこの誰がこの教室を実施し始めたのかはわからないが、子供のころに聞いておけば、回避できた怪異との死闘はいくつかあったに違いない。東地区では絶対に行われない怪異対策に特区内の格差をマナブは感じつつ、安全教室は終了した。あとは、インテリタスの保護者から頼まれた『クリスマスカードを書く手伝い』をするだけである。
「だいたい、僕が手伝わなくてもインテリタスはクリスマスカードくらい書けるだろ?」
警備署員からもらったピンクのハート形の紙と鉛筆を少女に手渡す。お互い学校と呼ばれるものには行っていないが、ベースしかいじってこなかったマナブと違い、インテリタスは本の虫だ。字には接しているだろう。きっと、そこそこ読める文章で書くに違いない。マナブは書き取りよりも、むしろインテリタスに願い事があるのかの方が気になっている。
「かけない」
「何、言ってんだよ」
インテリタスが鉛筆を握りしめながら、首を横に振った。
「じ、かけない」
鉛筆を人に突き刺さんばかりに握っている少女の手つきは、確かに字が書ける人間のそれではなさそうだ。人間の身体を使いこなせないうえでの書けないなのか、字を書いたことがない故の書けないなのか、詳細は不明だが、書字に関してマナブの方が少し腕前が上らしい。
「あはは。あんなに本読んでるのに、お前、字ぃ書けないのかよ?」
茶化すように笑った水の宇宙人であるマナブの顔が破裂した。意地が悪そうに歪んだ表情は一瞬で水になりしぶきを上げる。それを見て、周囲でぎょっとしたような悲鳴が上がった。
インテリタスがマナブの顔を破裂させたのである。
水滴が凝集するようにして顔が復元されたとき、マナブの顔にはばつの悪そうな表情が浮かんでいた。
「……悪い」
この前、インテリタスには図書館でマナブでも読めそうな本を紹介してもらったばかりである。自分には真剣に付き合ってもらったのに、インテリタスのことは笑ってしまった。インテリタスがマナブに怒りを向けるのも当然だ。
少女は返事の代わりに、マナブにも水色の丸い紙と鉛筆を渡してきた。
「って言ったって、僕だってきれいに字が書けるわけじゃないしなあ……」
もたもたしていても邪魔になるだろう。どこか移動して腰を落ち着けて字を書いてみるか……。
座るなら都合のいい場所がある。友人が経営しているカフェがすぐそこだ。それに……、その友人は字が書けるからお手本となるに違いない。
「座って書こうか。なんか、飲みながら」
温かいものでも奢ってやる、と先ほどの非礼を詫びる一文を添えて、マナブはインテリタスを伴って場所を移動することに決めた。
***
カフェの店主は、珍しくも人を伴って現れたマナブに戸惑っているようだった。友人であるモーリスの怪訝そうな視線を無視して、マナブはカウンターの自分の指定席へとインテリタスを座らせた。
「なんだよ、その目は」
二人を伺っている店主にマナブは口をとがらせる。
「いや、……珍しい組み合わせだな、と思ってね」
「失礼な奴だな。僕にだって、友達はいるさ」
マナブには水を、インテリタスには温かい飲み物でも……とモーリスがメニューを渡す。
オーダーの前に、マナブはその友人に字のお手本をお願いすることにした。
「書くのは僕が手伝うからさ。お手本だけでも作ってよ」
その頼みはモーリスに快く請け負われることとなった。ただし、マナブも水以外のものを頼む、それが交換条件だ。
マナブから鉛筆を受け取ると、モーリスはインテリタスへと向かい合う。
「さて、どんな文を書く?」
店主が少女へと聞いた。インテリタスが書きたい言葉を探しながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「マナブと、」
「……僕と?」
まさかインテリタスのお願い事の中に自分の名前が入っているとは思わなかった。マナブは訝しげな顔でインテリタスを見た。
店主は顔色を変えずに、インテリタスの言葉を書きとっていく。
「いっしょ」
「『一緒』……いや、『いっしょ』か」
メモ代わりの伝票の裏に書かれた文字はくすぐったい気持ちにさせられる一文である。
「ひらがなならば、君たちも書きやすいだろう。ごゆっくり」
注文はカードを書き終わるまで待ってくれるらしい。
自分に向けられたメッセージを書くのを指南する、マナブにとってはなんともこそばゆいクリスマスである。
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