銀杏あつめ
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。食べるのが好き。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。寝不足の人外。主食が水。
空き地にあるコンクリート片に座っている、インテリタスが何とも言えない顔をしていた。
この少女の姿をした人で非ざる者は、擬態している人間の身体が怪異に危害を加えられても一向に表情が変わることがない。何の興味もなさそうな顔をしながら、不可思議な現象に巻き込まれていることもあり、マナブはしばしば呆れさせられていた。しかし、今日はどうしたことだろう。少女の眉間には皺が寄り、唇ははうさぎのようなおちょぼ口になっている。
この化け物でも表情が変わるのかと、感心しつつ、マナブが失礼極まりない問いを投げた。
「インテリタス、今日の顔、渋そうだな。なんか拾って食べたのか?」
いくら予想のつかない行動をとる人外でも拾い食いなどはしないだろうという、冗談のつもりだった。
渋い顔をしたままインテリタスが黄色の小さな実をマナブに差し出す。手の中に何個も収まるような大きさで茎が付いているそれは、黄色のサクランボと言って騙される人間もいるかもしれない。可愛らしいし、美味しそうなフルーツに見える。
──そう言えば、空き地の裏にいちょうの木があったな。
いちょうの木が黄色く色づき始めている。そろそろ銀杏の季節である。茶碗蒸しに入れるか、あるいは炒って塩を振って食べるか。普段、水以外の物を摂取しないマナブではあるが、もちもちとした食感の銀杏は嫌いではなかった。この時期、バンドの会合でもつ酒の肴に出されることも多い。ただし、食べる銀杏に限っての話である。道路に落ちてぐしゃりとなり、鼻の曲がるような臭いを放っている銀杏は対象外だ。
「って、食ったのか」
「おいしくない」
「だろうな!」
インテリタスが差し出したのは生の銀杏の実であった。潰れたときの、あの強烈なにおいを嗅げば口にいれようとは思わないだろうが、この少女の姿をした怪異は話が違うらしい。拾い食いをした結果、人並みの味覚を持っているらしい人で非ざる者は、難しい顔をすることになっているのであった。
「ぺってしなさい。ぺーって」
「もう、だした」
インテリタスが、陣の目がそろそろ銀杏が落ちて食べごろになるかもと言っていた、こんなに綺麗な色をしているのに美味しくないわけがない、とたどたどしい言葉でマナブに説明する。銀杏について憤慨しているように見えて、マナブは少し面白い。この人で非ざる少女は食べることに関して、執着を持っているようである。端的に言うと食いしん坊だ。食いしん坊でなければ、拾い食いなどしないだろう。
「ももに、にてた」
「小さい桃みたいな形だけどな。これは桃みたいに生で食べる物じゃないんだよ」
「なまで、たべない」
「加熱? レンジでチンして食べるっていうか」
インテリタスに説明するマナブも、この黄色くて愛らしく臭い実がどのようにして八百屋やスーパーの青果コーナーに並ぶ固そうな殻の商品になっているのかを知らない。
どうすれば食べられるのかという顔のインテリタス。どうすれば食べられるようになるのかわからないマナブ。二人は顔を見合わせて、インテリタスの居宅から図鑑を持ちだし、その中身を覗いた。
「実をとってきたら周りはとって天日干しにする」
「とる」
「水でごしごし洗うんだって」
「てんぴぼし」
「乾かすこと。……覚えたか?」
「うん」
少女はどうしても銀杏を食べたいらしい。甘くはない、とマナブが言うが、インテリタスはそれでもいいと言った。未知の味に対する好奇心が勝っているようだ。
二人で訪れた空き地の裏のイチョウの木の下は黄色の葉で溢れて、鮮やかな自然の絨毯が敷かれていた。少し風が吹くと三角の葉が落ちてくる間を縫って、ぽつぽつと落ちている銀杏を拾う。
「くっさあ……」
実が落ちた時に潰れてしまったのか、カラスが啄んだのか、いちょうの木の下は銀杏特有の刺激臭に包まれていた。強烈な匂いのためか、銀杏取りをしている住人はいない。
インテリタスはせっせと落ちた銀杏を集めている。
「そんなにとっても、いっぺんには食べられないからな」
マナブの発言に、インテリタスが、そうなの? という顔で手を止めた。
「銀杏には毒があるから。いっぱい食べると鼻血が出る」
「マナブ、たべられない?」
インテリタスが毒という言葉に反応した。少女はマナブの水の身体が物質に影響されやすいことを知っている。もちろん、毒なんて以ての外だ(そもそも、マナブでなくとも毒は有害であるが)。
一面、黄色の葉の中、銀杏で山盛りになったボウルを抱えて呆然とするインテリタス。その沈黙が意味するところは、マナブの身体への気遣いだろうか。
──まさか、この人ではない存在が。
一瞬、頭をよぎった考えを振り払うようにして、マナブがインテリタスに返事をした。
「食べられるよ。ちょっとだけ。お前も僕と同じだけだからな」
ちびだから、と念を押すと、少女は表情を変え、抗議をするように唇を尖らせていた。
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