鶺鴒鳴(せきれいなく)
水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。
鶺鴒が川で跳ねているのを見るのが好きです!灰色のシュッとしたすがた可愛いですよね。
■いる人
インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。怪異に巻き込まれる。
マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。インテリタスに巻き込まれる。
空き地で演奏会をしようと約束をしたため、マナブはベースを持ち込んでいた。インテリタスはピアニカを持ってくるはずだ。運指は練習中だが、鍵盤を押せれば、それで及第点だろう。
待ち合わせた空き地にはピアニカだけがあった。置いてあるというよりは転がっているというのが正しい。持ち主はおらず、傍に鶺鴒が一匹歩いている。所有物を放ってどこかへ行ってしまうなんて、相変わらず不用心であるが、果たして少女はどこ減へ行ったのだろうか。
──まあ、すぐに戻ってくるか。
マナブが先に四弦の指慣らしをしていると、ピアニカの上をとことこ歩いていた灰色の小鳥が跳ねてやってきた。ベースの音に合わせてマナブの周りをくるくると回り始める。その様子を見てマナブが演奏を止めると、小鳥はせがむように、長い尾を上下させて愛らしく動いた。どうもこの鶺鴒は音楽に耳が利くらしい。
「ふーん、お前もこの重低音の良さがわかるのか」
話しかけると答えるように、灰色の羽を開閉する。マナブが得意になって、ワンフレーズ弾くと、その音に合わせ鶺鴒が小さな鳴き声を合わせながらその場で舞った。小さな足でステップを踏んで、これなら鳥の出し物発表会で一番の成績を収められるはずだ。
「お前、踊るの得意だなぁ。インテリタスとは大違いだ」
放りだされたピアニカの持ち主である、人で非ざる少女の下手糞なダンスを想像して思わずマナブは笑った。オルゴールの上に置いてあるような愛らしい姿をしているその少女は、いまだに人間の身体を使いこなせずにいるのが日常茶飯事である。何度、その転びそうになった手を引っぱったのか、数えきれないほどだ。きっと、ダンスをしろと言えば、二歩目で尻もちをつきそうになるに違いない。
マナブがインテリタスのダンスを想像して頬を緩ませたのを見て、小鳥がチチチとその場で地団太を踏んだ。
「え、どうした──、うわぁっ!」
バチャンと音を立ててマナブの顔が破裂する。さっきまで友好的に踊っていた鶺鴒がいきなり飛び掛かって来たのだ。顔面に不意打ちの体当たりを受けて破裂するマナブの水でできた顔。鶺鴒は小さな身体で形の失ったマナブの頭を踏みつけ、破壊しようと足踏みをする。頭が失われた首の上で、透明な水がびちゃびちゃとはねた。
「やめ、ちょっと、なにすんだ、よ!」
腕で払って攻撃をやめさせた鶺鴒は、憤慨したようにマナブのことを睨みつけている。よく見ると、そのルビー色の瞳に見覚えがあった。この場にいない、ピアニカの持ち主である少女は同じようなピンク色の瞳をしていなかっただろうか。
「お前、まさかインテリタスじゃないだろうな……!?」
ちんまりとしているところもそうだが、ベースの音が好きなのもインテリタスの属性であった。そもそも、ピアニカの傍にいて鍵盤の上で足踏みしていたのも、もしかすると、ピアニカを弾こうとしていた仕草だったのかもしれない。ダンスが上手に披露したところは少女らしくないものの、人間の身体よりも小さな鳥の身体の方が馴染んでいると考えれば自然である。
「インテリタス、お前、そんな小鳥なんかにされて……怪異か? 何にやられた??」
マナブへの攻撃をやめ、羽繕いをしている鶺鴒が小首を傾げる。その様子は確かにインテリタスそのものだった。
男の問いかけに、鶺鴒──インテリタスが木の上を羽で示す。
「あの上にいるのか?」
小鳥は頷くようにその場でチュンと跳ねた。
***
鶺鴒のインテリタスに案内されるようにして、マナブは樹の上によじ登っている。まったく、木登りなんてしたこともないのに……と独り言ちた。インテリタスが係わっていなければ、マナブは一生木に登らなかったはずだ。
「ほんとに世話の焼ける奴だなあ。……ん?」
樹の中に作られた小さな籠。中には、もう一匹小鳥がいて、せっせと何かに向かって餌を差し出し、羽をしきりに広げていた。さっきの鶺鴒もとい、インテリタスと同様に鳥に変化させられた誰かだろうか。きっと怪異を相手にして立ち向かおうとしているに違いない。さっさと怪異を退治するか、解除薬でも使って元に戻してやらないと……、と対処すべき怪異の正体を確認しようとしてマナブは不意を突かれた。思わず、樹から手を離しそうになり、慌てて幹にしがみつく。
「インテリタス!?」
巣の中にいた羽を広げている鶺鴒の向こう、そこには手のひら大に小さくなったインテリタスが足のない虫に囲まれてぼーっと座り込んでいた。芋虫と鶺鴒に圧倒されて、なんとも狭苦しい巣である。その中で、少女は親指姫のようだった。
「インテリタス!? えっ、じゃあ、この鳥は誰、いや……インテリタス! 大丈夫か!?」
少女がマナブの大声に気が付いた。どうしてインテリタスが二人いるのかわからないものの、マナブの親指大になってしまったインテリタスは明らかに怪異に巻き込まれている。どういった事情だか分からないが、まとめて助ける必要がある、とマナブは思った。
インテリタスがマナブの傍に来ようと立ち上がる。しかし、インテリタスのその行動を巣の中の鶺鴒が許さない。そのうち、少女の身体にのしかかってゆく手を阻み、攻撃を始めようとし始めた。
「あ、お前、何してるんだよ」
マナブが木の上の鶺鴒に手を出す──よりも、先に素早く小さな影が飛んだ。
一瞬でマナブの手を追い越し、ルビー色の目をした鶺鴒がもう一匹に体当たりを繰り出した。体当たりをしてきた鶺鴒とインテリタスを交互に見て混乱する巣の中の鶺鴒。その制止をきかずに、さらにヒートアップするルビー色の鶺鴒、よろよろと踊る足のない虫たち……。巣の中は混沌とし始めてしまった。
白熱する喧嘩の様子を横目に、マナブがインテリタスを手招く。少女はいつもの通りとことこと歩いて、マナブの手のひらの上に座った。
「はぁ~、もう、お前、鳥になったかと思ってびっくりしちゃったじゃんか」
「とり」
しかし、怪異によって鶺鴒にされたわけじゃなかったとはいえ、怪異によって手のひら大に小さくなってしまったインテリタスをどうやって元に戻すのかマナブは考えあぐねている。
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