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桃を割る

水の宇宙人マナブと破壊の概念インテリタスが紡ぐ連作短編です。


■いる人

インテリタス…破壊の概念。少女の姿を得た。人間勉強中。果物が美味しいと知る。

マナブ…水の宇宙人。美青年。世話焼き。果物は身体に変な匂いが付かないから好き。

 マナブが空き地を訪れると、インテリタスが空き地の奥にできた日陰に座り込み、何かを目の前に掲げていた。いつもの如く、瞳は興味がなさそうな暗さをたたえているのだが、くるくると回してそれを観察しており、少女なりに関心はあるらしい。近寄って手元をよく見てみると、小さな手の中にあるものはピンク色に熟した桃だった。


「お、桃じゃん。どうしたの?」


 少女の隣に座って、同じ方向から桃を眺めると表面が太陽の光に照らされ、細かな毛が輝いている。ある角度では黄金色、違う角度ではピンク色と黄緑色に偏光する表面。その見る方向によって変わる色を、インテリタスは眺めていたのだった。


「もらった」


 桃色の瞳に、同じく桃色の球体が映っている。その目がこれは何か、とマナブに問いかけた。


「桃、食べたことないのか?」


 少女が首を傾げる。そして、──まだ、と言った。


「まだ、ね」


 他の物は食べたとでもいうような言い方だ。だが、実際、この人で非ざる者は特区での経験値を積み重ねているのだろう。保護者の家では家庭料理を食べているだろうし、この空き地でマナブと会えば何かしらの遊びに興じているのだ。だから、少女が〝まだ〟というのは正しい表現なのかもしれない。


「じゃあ、僕が桃を剥いて食べさせてやるから感謝しろよ」


 隣の直し屋から果物ナイフを拝借し、二人で並んで桃を剥く。


 インテリタスから預かった桃の表面を押すと、少し指が沈み込む。薄く毛の生えた外皮からは潤んだ甘い香りがしていた。食べ頃だろう。


 マナブは皮の縫合線に沿って深くナイフを差し込み、そのまま、窪みに沿って刃を動かした。一周。それから、半分に分けられた果肉を両手に持ち、ぐるりと捻る。ブツブツと繊維をねじ切るような感触があるが、構わず引きちぎり、二つに割れば白い果肉が覗く。さらに開くと、グロテスクな赤い種が中央に据えられている。ぼこぼことした表面の細かい穴から繊維が飛び出て、羽をむしられた鳥の肌の如き様相。これが桃の内部である。もう少し食べやすいようにカットしようかと思ったが、切ることだけが頭にあり、皿を用意するのを忘れてしまった。


「割っちゃえば食べられるだろ。皮向いてから食えよ」


 インテリタスは果実そのものよりも、中心部が気になったらしい。少女が食い入るようにして種を観察しているのを見て、種付きの方の半分を渡した。眺め始めたインテリタスを横目に、マナブは桃の薄皮を剥いでかぶりつく。果汁が舌を濡らす。十分に果物の繊維に沁み込んだそれは、果肉を噛むたびにじわりと口腔内を潤した。最初に甘さが、喉を過ぎれば清涼感のある後味がある。インテリタスがどこから貰って来た桃かはわからないが、どこかで買えるのならば買って帰りたいくらいの美味しさだった。


 マナブが果実の甘さを愉しんでいる一方、インテリタスは両掌に半球になった桃を乗せてじろじろと観察を続けていた。種が埋まった桃はデーモンコアを思い出させた。相手は化け物であり、ここは特区である。本当にデーモンコアになってしまう気がして、マナブは少女に食べるように促した。


「甘いよ」


 インテリタスは薄皮を剥くのに苦労している。微細運動が十分に発達していない様子は、まだこの世界の経験値が浅い証拠だ。小さな口が白い肉に齧りつく頃には、その手は果汁まみれになってしまっていた。その細い指を伝って手首へと流れていく、桃の露。


「インテリタス」


 マナブは袖に達しそうなその雫を指で掬った。この娘の保護者に洋服を汚したとクレームをつけられたくはない。


「濡れるよ」

「ぬれる」


 手首を拭った指を舐める。清涼感はない。マナブの口の中に甘ったるい味が広がった。


「美味しいな」

「おいしい」


 少女が首をぶんぶん縦に振る。どうやら、桃の味はお気に召したようだった。

読んでいただきありがとうございます☺

読者の皆様に少し不思議な出来事が降り注ぎますように……!


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