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魔法使いには向かない職業 【番外編更新中】  作者: 有世けい
【番外編】高速道路と忍者ショーと魔法使い
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「母です。この子にとっては祖母になります。脳梗塞で倒れてから後遺症で右半身麻痺と言語障害があります。もともと倒れる前から認知機能の低下がありましたので、先生のお話では、脳梗塞の影響で認知症が進行しているかもしれないということです」


少女の母親が前屈みになり車椅子のロックをかけながら説明した。

車上の祖母はその仕草をぼんやりと眺めている。

表情は乏しく、一見では感情を読み取ることは困難だろう。


「おばあちゃん、この人だよ!この人が、おばあちゃんの思ってることみんなにおしえてくれるからね!わかった?」


少女が興奮気味に、目をキラキラ輝かせている。

すると祖母は、少女の言ってる内容が理解できたかのように、うん、うん、と数度頷いてみせた。



「こちらの話していることは、おわかりになってらっしゃるのでしょうか?」


俺が問うと、主治医が「それはなんとも……」と首を振る。


「聞こえてはいると思います。あと、単語単語で理解できるものもあるようですので、ご自分の理解できる単語が出てくると、反応されることも多いです。今のお孫さんの会話でしたら、『わかった?』という問いかけに対してほとんど条件反射的に頷かれたのかもしれません」

「なるほど」

「私よりも患者さんと長く接している看護師によると、こちらの言ってることを理解している様子らしいのですが、こればっかりは、それこそ魔法でも使わない限り、確かなことは言えません………」

「そうですか」

「だから今回のことは、我々医療に携わる者にとっても、非常に実験的な試みなんです」


少女に負けないほどの興奮度で医師が身を乗り出してくる。


「言語障害をお持ちの方や認知症の方が、いったいどのように我々の言葉を理解しているのか、或いはしていないのか、その実証は難しいですから。もしその仕組みが解明できたら、今後の医療にとってどれほどの益をもたらすことか。可能でしたら録画して貴重な資料として残しておきたいのですが……もちろん、厳重に管理し、限られた者にしか公開しないとお約束いたします。必要でしたら正式な守秘義務契約も」


主治医がそこまで言うのも仕方ない。

対象者が ”魔法使い” やMMMコンサルティングの関係者でない場合、今回のように患者のために病院内で ”魔法” を用いることはあまりないはずだから。

少なくとも、表向きは。



人の心を読めるというのは、非魔法使いの人間にとっては物凄いことなのだろうが、我々にとっては個人差はあるもののそこまでの高度技術でもない。

人の生き死にに関与もしないこの程度の ”魔法” なら、わざわざ社に許可を得る必要もないし、知人友人、世話になった相手などからの頼みであれば、すぐに叶えてやる同僚も多いだろう。

そうやって、表には出ていなくとも、そこかしこで個人の善意による ”魔法” は使われているのだ。


だが今回は、依頼主である男子生徒の母親は、対象者となる少女の祖母についてあまりよく知らないはずだ。

となると、対象者が入院中であることも考慮して、主治医の立ち会いは当然のことだろう。

そしてそうなるともう、表に出ない個人の善意による ”魔法” の範疇ではなくなってしまう。

こういう状況……つまり面談室まで特別に用意され、主治医や事務長がわざわざ時間を作って立ち会うというのは、表に出てしまったケースで、あまりないパターンと言えるのだ。


だからこそ、主治医は資料として記録したいと言い出したのだろう。

その気持ちはよくわかるのだが………



「申し訳ございません。記録が必要でしたら、どうぞ記憶の中に残してください。個人情報以外の症例については、口伝でしたら構いません。認知症患者さんや言語障害をお持ちの患者さんのためにお役立てください。ですが、論文等への引用はお止めください。もし何かの誤りで(・・・・・・)隠し撮り、論文掲載などということがあったとしても、その動画や画像、文章はすべて消させていただきますので、ご了承願います。またその際は、あなたの記憶の中にある記録も、等しく消去させていただきますことも、あわせてご承知おきください」


いつも仕事でそうしているように、丁寧に柔和な口調で伝えると、主治医は「わ…わかりました」と納得してくれたようだった。


その直後、面談室の扉が開き、事務長が飲み物を運んできてくれた。



「ああ、申し訳ない。お待たせしてしまいましたか。お飲み物はこちらに置かせていただきますね。ご自由にお取りください」


事務長はミニサイズのペットボトルをテーブルに並べていった。

すると


「あ!それ、おばあちゃんが好きなお茶だ!」


少女がそのうちのひとつを指差した。


「そうなんだね。じゃあ、お祖母さんにどうぞ」


気をまわした事務長が少女に一本渡すと、少女は「ありがとう!はい、おばあちゃん、どうぞ」と祖母の膝、ピンク色のブランケットの上に置いた。

祖母は一瞬びっくりしたように目を見開いたが、すぐに麻痺のない方の手でペットボトルを撫でた。



その表情が、次第に笑顔に変わっていくと、そこにいた全員がつられて笑顔になったのだった。












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