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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
【番外編】高速道路と忍者ショーと魔法使い
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MMMコンサルティングに入って10年。

社内規定により、俺は政府担当から異動となった。


やはり10年ともなると、各所に付き合いの長い相手もいて、ひとりひとりに世話になった挨拶をしたいところだが、規則で、それは禁じられていた。


異動辞令は年度等の時期に関わりなく唐突に伝えられ、その瞬間、前の任を解かれる。

その際、前の仕事相手と電話やメッセージのやり取りで連絡することは許可されているが、直接顔を合わせることは特殊な例をのぞき、禁止されていたのだ。


これは、担当部署を離れたMMMコンサルティング社員が担当外の ”非魔法使い” と必要以上に対面することを避ける目的があるようで、それは社員を余計なトラブルから守る意味合いもあった。

俺はまだ経験なかったが、担当を外れたMMMコンサルティング社員に強引に接触を図ろうとしてくる ”非魔法使い” は意外と多く、トラブルも少なくはないらしい。

まあ、そのほとんどは、自己の利益を求める者の一方的な要求に過ぎないのだが、中には、引継ぎがスムーズでなかったがゆえにトラブルが発生し、その件で連絡を寄越したり、何かしら ”魔法使い” の世話になったという人物から礼をしたいという申し出もあるそうだ。

そんな場合、業務に支障をきたさない限りは、特例として、元クライアントや元関係者との接触も認められてはいた。



そして今日、俺は、その特例として、ある病院に赴いていた。


きっかけは、数日前に俺にかかってきた一本の着信だ。


相手は、俺が政府担当として最後に携わった案件の関係者である女性だった。


彼女は俺への感謝を何度も述べ、息子の近況を知らせてから、「もし無理ならすぐに断ってください」と前置きしたうえで言ったのだ。



「あなたに会いたいと言っている人がいるんです。その人は私も息子もお世話になった人で、常々何か恩返しができたらと思っていたところなんです。もし可能なら、一度だけ、会っていただけませんか?」




この場合が特例に当てはまるのか、判断には個人差が出てくるだろう。

だが、少なくとも俺は、妥当だと判断した。

彼女には色々と協力を仰いでいたからだ。

結果、息子は意識を取り戻したが、夫…()夫は逮捕され、MMM案件だったこともあり、容易く面会することも不可能となった。

それ以外にも総合的に考慮し、また、俺自身に彼女への感謝の気持ちもあることから、今回の依頼を了承することにしたのだった。




俺があの母親と会うことになっているのは、男子生徒の転院前の入院先だった。

そこで俺に会いたがっている人間といえば、おそらく医師だろう。

MMMコンサルティングの人間と繋がりを持ちたがる医療関係者は多く、実際に仕事の依頼を受けることも多い業種だが、”魔法使い” と個人的に繋がっている者はそう多くはないのだ。

だが、”魔法使い” とダイレクトに連絡を持てるとなると、キャリアにおいて有力になるのは間違いない。

まあ十中八九、そういうことだろう。



あの母親はいわゆるダシに使われたのかもしれないが、あの聡いの母親のことだからそんなのは百も承知に違いない。

それはそれで世話になった相手への恩返しとして俺に連絡してきたはずだ。

そして俺は彼女に恩がある。

あんなにしっかりした人がいい加減な人間を俺に引き合わせるとは思わないが、もしそうだったとしても俺自身が適切に対処すればいいだけのことだ。

俺は特に構えるでも警戒するでもなく、気安い足取りで病院の正面口から入っていった。



母親が先に着いて待合ロビーで待っているはずだ。

俺は全体を見まわしながら先に進んでいったが、どうも見当たらない。

午後は予約患者のみで、院内もそこまで混んでいないのに、俺は母親の姿を見つけられなかったのだ。


遅れているのか?

スマホにメッセージが届いていないか確認するも、音沙汰はない。

あの母親が、連絡もなく約束を違えるなんて考えられないが………何かあったのだろうか?


にわかに気構えはじめたときだった。



「ねえねえ、お兄さん!」



小さな女の子がそう呼びかけながら、とととと、と小走りに駆けてきたのだ。


俺の知っている…というよりも、一度だけ会ったことのある女の子だった。



「……なにかな?」


俺はスマホをしまい、やや屈んで女の子に尋ねた。



「あのね、わたし、前にお兄さんにあったことがあるの」


子供らしく無邪気な笑顔で俺を見上げてくる女の子。

就学前か、一年生あたりだろう。


俺が「ああ。憶えてるよ」と返すと、女の子は「ほんとう?」と驚きつつも嬉しそうな反応を見せた。


「ああ。俺が病室から出たとき、ちょうど扉の前にいたよね?そのときも今日みたいに髪の毛をふたつに結んでいた」


俺が当時意識不明だった男子生徒の病室を訪ねたときのことだ。

記者の女の足音を聞き、急いで廊下に出た際、病室の真ん前に立っていた少女。

あのときに比べたら、幾分大きくなっているようだが、ほとんど変わりはない。



女の子は「すごーい!せいかいだよ!」と目を輝かせる。

素直な言動は子供らしさ満載で眩しすぎる。

俺は適当に相手をして場所を移動することにした。

……………のだが。



「あのね、それでね、私、お兄さんにおねがいがあるの!」

「お願い?なにかな?」

「ねえ、お兄さんは、人の考えてることがわかるの?」











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