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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
【番外編】魔法使いにしかできない職業
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その美声が誰に向かって放たれたのかはわからないけど、私はとっさに後ろを振り返っていた。

だって、今日は平日で、少なくとも私の周囲に他の人影はなかったのだから。


すると、私の真後ろ、目測で2メートルほど離れたところに、キャップを被った若そうな男がにこにこ顔で立っていたのである。


男は私と目が合うなり



「こんにちは!毎度おなじみシアワセ・クリーン・サービスです!」



溌剌と、同じ言葉を繰り返した。


確かに男の被るキャップには“シアワセ・クリーン・サービス”と記されている。


クリーン・サービス………清掃業者だろうか?

ここは霊園墓地だし、もしかしたら私が知らないだけで、墓地専用の掃除代行業者がいるのかもしれない。



「こんにちは………」


私は挨拶を返しつつ、その隙に相手の様子を探った。

男は声だけでなく外見もかなり整っており、スタイルもいい。

偏見かもしれないけど、こんなに若くて美青年の清掃業者、というのに多少の違和感を覚えた。

他にいくらでも稼ぎようがありそうにも思えたからだ。

……いや、掃除好きが高じてその仕事に就く場合もないとは言い切れないから、偏見はよくない。

先入観もよくない。

だって、実際、目の前の美声の美青年は満面の笑みで、それこそシアワセに満ち溢れていそうなのだから。


無意識のうちに偏らせていた印象をフラットにさせてみたけれど、



「こんにちは!毎度おなじみシアワセ・クリーン・サービスです!」



三度も同じセリフしか口にしない男に、さすがに気味悪さの芽生えは止められなかった。



「あの…………私に仰ってます…よね?」


他に人がいないのだから当たり前なのだろうけど。

そう訊かずにはいられないほどに、この美青年の目的が不明なのだ。


これが今日(・・)でなければ、彼女のご両親が清掃を依頼されていたのかもしれないと納得するところだけど、命日当日にそんなことはないはずだ。

それに、男はこれといった清掃道具を何も持っていない。

ただにこにこと、自社の名前を連呼するのみで………ああ、もしかして、ここを訪れる人に営業をかけているのだろうか?

そう考えたら、男への不信感が一気に霧散した気がした。


だが、次の瞬間には、男の底抜けに明るい返事により、また新たな不信感に覆われてしまったのだった。



「もちろんあなたに申し上げております!本日はある方からご依頼をいただき、あなたにお会いするためにこちらに参りました!」


男がにこにこ顔をさらににこにこさせ、そう言ったのである。


「私に会うため…………?」


意味不明がさらに深まる。


ある方からの依頼(・・・・・・・・)というのも引っ掛かるが、それ以上に気になるのは、私に会うために(・・・・・・・)この墓地に来た(・・・・・・・)ということだ。

だってそれは、私の行動をこの男に把握されているということなのだから。



「あの………そのある方(・・・)って、どなたですか?」


まさかとは思うけど、ストーカーとか、私に何か恨みのある人間だったら………。

記者に転職してからというもの、政治家の周辺を嗅ぎまわり過ぎた私は、どこで恨みを買っていたとしても不思議はない。

もしそれが原因なら、恨みを持たれたとしても甘んじて受け入れようとは思っている。

いくら催眠状態だったとしても、当時の私はかなり視野が狭くなっていたし、一方的な主義主張しか聞き入れなかったのだから。

けれど


「申し訳ありません。それは守秘義務がございまして、お教えできないんです。あ、ですが!あなたに恨みを持ってらっしゃる方ではありませんし、もちろんストーカーなどでもありませんので、そこはご安心を!」


まるで私の考えていたことを読み取ったかのように、男はすらすらと答えたのだ。

………まあ、偶然だとは思うけど。



「それじゃ、依頼って……いったい何のことですか?」

「お掃除のご依頼です!」

「掃除……。そりゃそうですよね、”クリーン・サービス” なんですから」

「はい!お掃除させていただきます!」


男のテンションが一段と上がる。

美声のおかげか、不快感を与えることはないけど、私の反応との寒暖差は否めない。


「掃除って、墓地の…ですよね?」


この状況ではそれ以外考えられないけど、さっきこの男は『あなたにお会いするためにこちらに参りました』と言っていた。

つまり、男の目的は墓地ではなく、私個人ということだ。

私が今日ここに来ることは、今日が彼女の命日だと知っている人なら簡単に推測できるだろう。

それを聞いていたのだとしたら、この男がここへ来たことも納得はできるけど………

ただ、そう思った矢先、またもやこの男は自ら不審者だと白状するようなセリフを吐いたのだ。



「墓地?いえいえ、お掃除するのはお墓ではありませんよ?」

「は……?」

「はい。私どもがご提供いたしますのは、メモリー、記憶のクリーンサービスでございます!」


艶やかな美声が意気揚々と私を撃ってきた。

まるで悪意などまったく持ち合わせていないような、純度たっぷりな眼差しで。



「……………は?メモリー?記憶?」



聞き間違いだろうか?

聞き間違い……よね?

うん、聞き間違いに違いない。

そう思い込もうとして訊き返した私に、男はなおも、混乱の弾を撃ち込んできたのである。



「その通りです!記憶の中には楽しい思い出もあれば、思い出す度に死にたくなるような記憶もありますよね?その悪い方の記憶を掃除して排除するのです。そうすればよりシアワセになれると思いませんか?私どもシアワセ・クリーン・サービスは利用者様のシアワセ第一をモットーにしております!」













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