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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
【番外編】魔法使いにしかできない職業
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午前中はご家族や親戚の方々がお集まりになるようで、「もしゆっくりあの子と話したいなら、午後から会いに行ってやってください」と、彼女のお母様から連絡をいただいてた私は、そのお言葉に甘えて、午後を過ぎてから家を出た。


彼女の実家は郊外にあり、私達の勤めていた学校や彼女が一人暮らしをしていた部屋からは少し離れている。

だからご両親は、実家と学校の中間あたりに彼女のお墓を用意してくださった。

友人知人、仕事関係、そして生徒が来やすいようにとの配慮と、彼らにいつでも来てほしいという願いがあったらしい。

彼女は、本当に生徒達のことを大切に想っていたから。


残念ながら今日は平日なのでさすがに生徒達は来られないだろうけど、教職員の中には手を合わせに来る人もいるかもしれない。

もしかしたら、彼女のお墓の前でかち合ったりするのかも………ううん、それはないかな。

だって今は、授業中だし。

受け持ちの授業がなかったとしても、学校を抜け出してまではさすがにないはずだ。

せめて学校帰り、もしくは週末だろう。

まあ、もし私が今も教師を続けていたとしたら、有給を取って彼女に会いに行ったとは思うけど………

でも今は、自由に時間を使えるフリーの記者だ。

その点では、転職してよかったと心から思えた。

毎月の月命日に、こうして彼女の墓参りに来ることができるのだから。




「………来たよ。一か月ぶりだね。ああ、今日はやっぱり、いつもと違って賑やかだね」


月命日とは違い、一周忌の今日は明らかにいつもより多くの花が供えられていた。

菊やユリといった定番の花が行儀よく並ぶ中、私は、彼女の好きだったカラーの花を数本あしらったものを供えた。

はじめは私もオーソドックスな仏花を用意していたけど、近くのフラワーショップに毎月通っているうち、スタッフから、別に菊やユリでなくて故人の好きな花でも構わないのだと教えてもらったのだ。

白いカラーの花は、凛としていて、ピンとまっすぐなその姿が、彼女と重なっているようにも感じた。



「………一年だね。もう、一年も経つんだね」



彼女の前に屈み、いつもと同じように語りかける。



「あの子はもう、心配ないよ。学校に復帰してからも、何も問題ないから、安心してね。以前のわだかまりが嘘みたいに、みんな仲良くやってるから。今は文化祭の準備で忙しいみたい。父親が逮捕されたあと、ご両親が離婚されてからは、ちょっと大変な時期もあったみたいだけど、周りの人が何かと助けてくれてるみたい。まあ、私はもう学校を辞めちゃってるから、人から聞いた話なんだけどね。親切な偉い人が、聞いてもないのに色々教えてくれるのよ。ちょっと前まで自分のスクープを狙っていた相手なのにこんなに親切にするなんて、政治家としてやっていけるのか心配になっちゃうわよね。余計なお世話かもしれないけど。ああ、そういえばその人、今日は仕事で来れないけど週末に弟さんと一緒にここに来るみたいだから、よろしく伝えておいて。私はね、先月も話したみたいに、新聞社を辞めたの。教師に戻る選択肢がなかったわけじゃないけど、どうしても、自分の手で、あの男がやってきたことを暴きたかったから………。………そんなことをしてもあなたが戻ってこないのは、よーくわかってるんだけどね………」




そこで言葉を休めてみても、当たり前だけど親友からの返事や相槌なんか聞こえてくるわけない。



「でも結局、記事は書かせてもらえなかった………。そりゃ、まったくの新人に大物政治家が絡んでくる特ダネを任せるなんてあり得ないんだろうけどね。でも、私しか知らない情報を吸い取るだけ吸い取って、あとは上の人達がアレンジして記事にするっていうんだよ?酷くない?最初は一旦預けたんだけどさ、出来上がった記事が、報道三原則はどこ行ったんですか?っていうくらいの公平性に欠ける内容だったのよ。世論が叩いてるからって、新聞がそれに乗っかってどうするのよね?ああもう!今思い出してもムカつくわ!それまでは散々新法案について批判してたくせに、今はすっかり手のひら返しよ。私はあの男は絶対に許せないけど、だからって何も知らない人達が口汚く罵ってるのを見ても楽しくなんかないもの。なのに私の上司は、その世論に油を注げと言わんばかりの一方的な記事を書くのよ。だから私は、ここにいても嘘のない記事は書けないと思って、フリーになることを選んだの。それにね、実は一番重要なことは上司にも誰にもまだ話してないのよ。あの男が私やあなたにしたみたいに、周りの人達に催眠をかけて好き放題していたってことをね。警察も今はまだ公式発表はしていないけど、私が記事にしたあと、もし報道各社から問い合わせがあった場合は、催眠の事実を認めることになってるの。それが、私が偉い人達と交わした約束だから」



一定の期間、私が知った事実を公に記さない代わりに、いつか私がこの件を記事にする際に新出情報があるよう、警察発表ではひとつだけ事実を伏せておく。

それが、偉い人達と交わした約束だった。

といっても、警察が嘘の発表をするわけではない。

ただ、男がまるで魔法の使いように他人に催眠をかけて意のままに操っていたということを、あえて言わないだけだ。



あの男が逮捕されたあと、私は社を通して偉い人達から呼び出され、警察関係者も同席する中でこの交換条件を告げられた。

なんでも、男の協力者がいる可能性も捨てきれなかったらしく、私がこの件に関して何か記事にすると、捜査の妨げになる恐れがあったからだ。

政治家の勝手な都合ではなく、捜査に影響を及ぼさないためとなれば、私はその交換条件を受け入れる以外なかった。


そう決心した当時のことを思い返していると、私の頭の中は、日記に残っていた彼女の苦悩でいっぱいになっていった。

ずっとひとりで悩んでいた彼女に、私は、どんな言葉をかけていたらよかったのだろう。


すべてを知った今でも、彼女にかける言葉がうまく見つかりそうになかった。



「……………ごめんね。私が嘘を嫌うから、きっと、私に相談できなかったんだよね。だって、催眠状態だったとしても、あなたは、私に嘘をつき続けていたことになるんだから…………」


結果的には、それで間違いない。

彼女は、いじめの件でも男子生徒に関することでも、私に嘘をついていたのだから。

でもそれは、あの男の催眠にかかっていたせいで、決して彼女が嘘をつきたくてついていたわけではないのだ。

なのに彼女は、きっと、自分が私に嘘をついていたことに罪悪感を持ったのだろう。

だから、私には何も話してくれなかった。

でもそのせいで、彼女をひとりにさせてしまって、それで彼女は……………



「ごめんね………」


ぽつりと落ちた呟きとともに、一粒の雫が頬をつたったときだった。




「こんにちは!毎度おなじみシアワセ・クリーン・サービスです!」




墓地には不似合いな弾んだ口調の美声が響いたのだった。












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