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そして、その電話からさらに数時間後、女性教諭は事故により、この世を去った。



それは男にとって多少なりとも衝撃があったようだが、想定の範囲であり、予定通りにあの女を意のままに操り、USBを入手することに成功した。


男はそのまま、女にでたらめな情報を真実であると信じ込ませ、学校を辞めさせ、記者へと転職までさせた。

女も男と同じ ”魔法の元” の持ち主ではあったが、男の方が力が強かったことで、”魔法の元” の持ち主であっても容易に操られてしまう結果になったのだ。



さらに男は、必要のないときは自分の不思議な力を周りに気付かれないよう用心し、隠そうとしていた……とも供述した。

生まれつきその不思議な力を持ち、早い段階で自覚していたことで、ほとんど感覚的にコントロール方法を身につけていたのだろう。

多くの者はそのコントロールができず、周囲の人間に違和感を与えたりトラブルを起こしがちで、それがきっかけでMMMコンサルティングに発見、保護されるのだが、男は見事に我々の目をかいくぐって今に至っていたのだ。



女の方から話は聞けていないが、おそらく、女の ”魔法の元” である強い正義感と相まって、女は男から聞いた話で学校側や副大臣に対し怒りが湧き上がったのだろう。

女と話した感じでは、思い返せば男の話は一方的で、それを絶対的に信じていた自分も冷静さを欠いていたと反省しているようだった。

だが、少なくともその当時は男の主張のみを真実と信じ、学校側がいじめを隠蔽しただの、副大臣側が寄付金でいじめをなかったことにしようとしただの、スキャンダルにもってこいのガセネタを記事にしようと躍起になっていたのだ。


だがあのホテルで偶然俺と遭遇したことで、女の一部の記憶は消され、それがきっかけとなって、男から施されていたコントロールがゆるまった。

男が言うには、最近は女を思った通りに動かせないことが多かったらしい。

あのホテルにいた二匹のネズミも失敗続きで、男はこのまま新法案が通ってしまいかねないとかなり焦っていた。

法案反対派の元大物政治家……御大やその他にも錚々(そうそう)たる反対派メンバーからは白い目で見られはじめ、ここで何らかのストロングポイントを披露しないことには、法案反対派から追い出されてしまいかねない……そう思ったそうだ。


そこで、以前から金儲けとコネ作りの道具にしていた違法薬物を利用することにした。



有名雑誌記者にしたのと同じように、法案反対派のメンバーの弱みを作り出すために。



といっても、何も実際に違法薬物を摂取させるつもりはなかったようだ。

男の計画では、今夜の会合の最中に秘書に登場させ、その持ち物の中に違法薬物を発見してしまった風を装い、もしこのことが公になったらここにいる人間は全員共犯者だとか何とかそれらしいことを並べ、しまいには、このことはここにいる人間だけの秘密にしましょう……という方向に持っていく予定だったらしい。

例え無関係であっても、滞在中の部屋から違法薬物が発見されたとなると大きなスキャンダルになるのは目に見えている。

会合の参加者が怖気ずくのは明らかだし、男はそれを弱みとして握るつもりだったのだ。

まあ、あの御大がそう容易く罠に引っ掛かるとは思えないが……


どちらにせよ、結果的には男の企みは実行されることはなく、すべてが未遂に終わった。



そして亡くなった女性教諭の日記と遺書が記されていたUSBいついてだが、こちらは男も内容を確認できていなかったらしい。

それは仕方ない話で、彼女が事故を起こした際に変形し、血が付着したUSBは、どうしたってそのデータを見るのは不可能だったからだ。

だが男は、そこに何が残されているのかわからない以上、手放すことはできなかった。

変形しているからデータを消去することは無理だし、例え物理的に壊したとしても、複製されている可能性が完全否定できないのであれば意味がない。

であるならば、自身で確実に保管し、データを取り出す方法を探った方が益になると考え、大事な商売道具で貴重品でもある違法薬物と共に管理していたのだ。


これまでのの男の自供に、嘘は何ひとつなかった。



男の取り調べがひと段落すると、男は警察署に連行されていった。

ただし、現段階では状況証拠しかなく、薬物所持や使用の現行犯でもないことから、あくまでも建前は任意同行となった。

だが逮捕は時間の問題だろう。

”制御魔法” がかかっている男は、もう以前のように誰かを意のままに操るなんてできないのだから。



男や他の会合出席者が退室した後、次は俺が ”魔法” で修復したUSBのデータを確認する作業に移った。

血痕が女性教師のものか調べるためキャップは先に鑑識にまわされていたが、念のため、内容を確かめるのは男の退室後、ここにいるMMMコンサルティング社員の中で最も多くの ”魔法” を使える俺が同席することになったのである。



だがUSB自体には何らおかしな点はなく、特にパスワード設定がされているわけでもなく、ファイルも簡単に開けてしまった。


内容は、やはり日記だった。

最初の日付は教師になってそう経ってない頃のものだ。

毎日書いていたわけではないが、おおよそ教師の仕事に関するものばかり書かれており、彼女がどれほど教師という仕事に真剣に取り組んでいたのか、どれほど生徒のことを大切に想っていたのかがわかるものだった。


だが、その熱意や思いやりに満ちていた日記が、ある時期から変わりはじめたのだ。


やたらと一人の生徒が登場するようになって、ポジティブな文章はネガティブに変換されていった。

そして遂には学校批判が混ざりはじめたのだ。

その内容は副大臣から聞いていた説明と重なる部分もあり、男の供述の裏付けになりそうな箇所もあった。

ただ、はじめて知った事柄としては、女性教諭は、男子生徒の父親と初対面の段階から、おかしな催眠術にでもかかったような気分……そんな感想を抱いていたのだ。

その後も、男と会うたびに、どうして自分がこんなことを発言するのかわからない、自分が自分でないような感覚がする、もっと学校側と話し合った方がいいと思うのに頭がそれを拒絶してるようだ……など、必死に男の ”魔法の元” から逃れようとしていたようだった。



そうして、あの日(・・・)が訪れたのだ。










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