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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
嘘つきな魔法使い
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俺に心の内を読まれたことがそんなに恐ろしかったのか、男はその後、別人のようにおとなしく事情聴取に応じていた。


本来なら警察署の取調室にて行われるべきだが、今回はMMM案件であり、男の事情を把握している俺が同席できるのであればと、男のマンションの一室での事情聴取となった。


それによると、男はやはり自分が他人を意のままに操る不可思議な力を持っていることに気付いており、仕事でも私生活でも、何かにつけてそれを利用していたということだった。

そしてアジア圏のある国での駐在時、違法薬物や武器を取り扱う闇ブローカーと知り合ったようだ。

普通であれば一般の商社マンが近付いたところで相手にもされないだろうが、幸か不幸かこの男には人を操る力がある。

それを最大限に有効活用し、男は自分に得になる情報を数多く仕入れた。

とはいえ、当初は男も警戒心が強く、すぐに取引に応じたというわけでもないらしい。



だが帰国後、その力で着々と人脈を広げ、自身のポジションが盤石となってからは、件の闇ブローカーとの取引を開始した。

手始めに相手のリクエストに応じるまま、それが相手国の軍にまわされると知りながら不正輸出に手を染めた。

何度か摘発されそうになったことはあったようだが、その都度、力を…”魔法の元” を使って回避してきたのだという。

そして遂には違法薬物に手を出したというわけだ。



だが、そうやって表も裏も順調だった男の前に、最大の難敵が現れる。

それが大臣、副大臣、そして二人のボスであり、確実に世の中を変えようとしていた内閣総理大臣である。

彼らは新法案によって外国との取引をよりクリアにし、人や金の流れをより明確にすることを打ち出したのだ。


もちろん法案を本気で通すためには綿密な下準備が必要だ。

大きな反発も予想されたため、彼らは数年前から秘密裏に賛同者を集めていた。

我がMMMコンサルティングに依頼があったのもこの頃だ。

そして男が新法案の存在を嗅ぎつけたのもまたこの頃だったらしい。

もしその法案が現実のものとなれば、男の闇商売は間違いなく摘発される。

そこで男は、自分の息子を利用することにしたのだ。



まだ小学生だった息子に、わざわざ副大臣の弟と同じ学校を受験させたのはそのためだった。

副大臣とのコネクションを得るか、もしくは弱みを握ることが目的だったらしい。

ところが、副大臣は政治家の中でもクリーンさが際立つ一族で、ゆえにその弟の振る舞いもどこにも隙のない完璧なものだった。

コネクションどころか近付くことさえ叶わない毎日に、男は憤慨し、息子を責め立てる日が続いたという。

だがそんなある日、息子がいじめ被害を訴えたことで、状況が大きく変わったのである。



息子は父親がよほど怖かったのだろう、自分に都合の悪いことはすべて伏せ、嘘に嘘を重ね、自分には非がない、一方的な被害者だと主張した。

だが男は、最初は息子を慰めるどころか、いじめなど軟弱な人間の逃げ口実だと吐いて捨てたらしい。

力のおかげで、これまでに自らがいじめ被害者になる経験などなかっただろう男は、嘘ではあるが息子の訴えを聞き入れなかったのだ。

ところが、その相手が副大臣の弟だと知るや否や、急に態度を変えた。

これを利用しない手はないと踏んだのだ。



男はまず、学校側で都合のいい操り人形になる人間を探した。


そこで引っ掛かったのが、亡くなった新任の女性教諭だった。



純粋に教師を志し、生徒のために懸命に働いていた彼女は、純粋すぎるあまり男に目を付けられてしまったのだろう。

なにしろ男は、自分の特殊な力が通じない人物がいることにも気付いており、そういう人間は大抵意志が強かったり頑固だったり確固たる自分を持っていることが多いとも理解していたのだから。


男は息子から学校関係者について話を聞き、御しやすそうな新任女性教諭に狙いを定めた。

そして適当な口実で女性教諭を自宅に招き、息子とともにまとめて ”魔法の元” を使ったのだ。

そのせいで、彼女は男の主張のみを盲目的に絶対だと信じ、生徒のためになることならと懸命に働いた。

懸命に働き過ぎた結果、男子生徒が孤立してしまい、最悪の選択に至ってしまった………



幸い命は取りとめたものの、男子生徒の意識が戻らない中、男子生徒が母親に送った遺書の存在が明らかになった。

当然父親と女性教諭もその内容を知ったわけだが、父親はこれをなかったことにしようと目論んだ。

だが………これは俺の推測だが、男子生徒の自殺未遂を知った女性教諭は相当なショックを受けたはずだ。

そしてそのショックの影響で、男の ”魔法の元” の影響が薄まったのかもしれない。

意志の強さは、”魔法” や ”魔法の元” の影響を受けにくくさせるからだ。

彼女は男子生徒の知らせを受けて、教師としてさらに生徒のためになることをと、意識を強めた可能性がある。

それがきっかけとなり、男の影響下から外れた。

男の自供では、こうなって以降、女性教諭には男の ”魔法の元” はまったく効かなかったらしい。

それどころか、男子生徒のことで男を強く責めたという。

男子生徒がこれまで父親に対して抱えていた想いや悩みを何度も何度も男に聞かせたそうだ。

だがそれに対し、男は、女性教諭こそが男子生徒を追い詰めた張本人だと反撃した。

息子が目を覚まさなかったらお前を訴えてやる!

そこまで言ったそうだ。



聞いてるうちに(はらわた)が煮えくり返ってきそうだが、俺が嘘を見抜けるとわかっている以上、男はどんなに酷い内容でも事実を口にするしかないのだろう。

俺は男の供述に嘘がないことを確認しながら、黙って続きを聞いた。



男が言うには、男に激しく詰められた女性教諭はやはりショックを受けていたらしい。

最後に会ったとき、女性教諭は思いつめた顔で部屋を出ていった。

そして数時間後、女性から電話がかかってくる。

彼女は沈んだ声で言ったそうだ。

自分のしてきたことで男子生徒を追い詰めたのは事実だということ、申し訳なく思っていること、なぜだかわからないが自分は男の言うことをまるで催眠術にでもかかったみたいに何でも信じてしまうこと、今はその催眠は解けているもののまた同じことになるのが怖いということ、実は自分はずっと日記をつけていたこと、そしてその日記の最後に遺書を記したこと………



男は彼女が自死を匂わせていることは察したが、それよりもその日記の方が気になって仕方なかったそうだ。

彼女が何を書いているかは聞き出せずとも、男のことが書かれている可能性は非常に高い。

そんな日記が公になれば、男のこれまでしてきたことがばれてしまうかもしれないし、もしかしたら男の不思議な力…”魔法の元” についても暴かれるかもしれない。

そう考えた男は、女性教諭から日記を奪うことにした。


息子の病室で一度だけ顔を合わせた、女性教諭の同期である高等部の新任教諭を操って、それを奪わせようと考えたのだ。









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