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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
嘘つきな魔法使い
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「変形だって?」


訊き返しながら、警視庁の人間は俺に視線を向けてきた。

変形したUSBでも内容を確認できるのか?

そう問いたいのだろう。

俺が黙って頷くと、彼はイヤホン通話の相手に応答した。


「構わないから、すぐに持ってこい」

《了解しました。今エレベーターの中です。もう間もなく着きます》



「そうか、変形していたから、消去できなかったんだな」


大臣が言うと、副大臣も同意する。


「だからといって物理的に壊して廃棄しても、それを手にした人物が絶対に復元不可能とは言い切れない。それなら自分で管理していた方が安心できる………そんなところですか」

「おそらくそうでしょうね。おい誰かノートパソコンを持ってきてくれ」


大臣、副大臣、警視庁、誰も男に確かめようともしないが、男は口惜しそうに、憎々しそうに、唇を噛みしめている。



そうしてる間にもリビングテーブルにてきぱきとPCがセットされていくと、「お待たせしました!」と、茶封筒を抱えたダークスーツの男が部屋に飛び込んできた。

茶封筒の中からは白いUSB。


「これで間違いないな?」

「…………ああ」


男が渋々認めると、そのUSBは俺に差し出される。

だが、俺はそれを受け取らなかった。



「証拠品ですので、素手で触るわけにはいきません。そのまま持っていただいた状態でも修復は可能ですが、テーブルに置いていただいても構いませんよ」

「では、ここに置きます」


警視庁の人間はUSBをリビングテーブルのPCのすぐ隣に並べた。

ちょうど御大の目の前になる位置だ。


御大はじめ、大臣、副大臣、そしてUSBの持ち主である男も、いったい何が起こるのかと一心にこちらを見つめている。


そのUSBメモリはキャップ部分が歪んでおり、ところどころに点々と染みのような変色があった。

本当にごく小さなものなので、警視庁の彼らも気付かなかったのかもしれない。

だが俺にはこれとよく似た色の染みを以前も見たことがあるのだ。



「これは………もしかしたら血痕ではありませんか?」

「え?今、血痕と仰いましたか?」

「ええ。素人判断ですので断定はできませんが、前にも似たようなものを見たことがありますので」

「………確かに、そう見えなくもないですね」


警視庁の人間が二人、USBに顔を寄せて呟くように言った。

すると、副大臣が何か思い出したように男に問い詰めた。


「ひょっとしてこのUSBは、事故のときに彼女が持っていたものですか?」



副大臣の口火に、追及側の人間が続いていく。



「まあ、そう考えるのが自然だろうな」

「どうなんだ?そうなのか?このUSBは、彼女が事故の際、つまり亡くなったときに持っていたもので間違いないのか?」

「だとしたら、証拠品じゃないか。でも確かあの女性の持ち物にそんなものはなかったはず………なぜそのUSBをお前が持っているんだ?」


だが男はそのどれにも返事をせず、視線を宙に泳がせていた。

仕方なく、俺が ”魔法” で男の内心を暴こうと大臣や警察関係者に目で合図を送ったとき、ソファの御大がククククッと不敵に笑いだしたのだ。



「そんなことをしても無駄だと、きみにはまだわからんのかね?」


ぎくりと肩を震わせ、視線を御大に留めた男。


「………無駄………?」

「MMMコンサルティングを知らんわけでもないだろうに」

「ああ、だめですよ。それこそ言っても無駄です。MMMコンサルティングと仕事をしたことがなければ、すべては都市伝説の範疇を出ませんよ。この人がMMMコンサルティングに依頼を断られ続けているのは有名な話ですから」


大臣が嘲るように言う。


「なっ………!?」

「ただ、実際に声を出せなくなったり足を動かせなくなったり、科学で証明できなさそうな現象が身に起こっているわけですから、勘のいい人間ならある程度は想像つきそうですけどね。残念ながらこの男にはそれも難しいようです」


冷笑する大臣を男は睨みつけたものの、否定はしない。

怒りは爆発寸前のようだったが、それでも殺人の容疑をかけられることを思えば弁明や反論も飲み込めるのだろう。




―――――さっきからこいつらは何わけわからんことを言ってんだ?

―――――急に現れたり、俺を話せなくしたり動けなくしたり、気味が悪い!

―――――MMMコンサルティングの奴ら、いったい何者なんだ!?

―――――いやでも、ここは黙っておいた方が得策だろうな

―――――下手に言い訳してあのこと(・・・・)が知られたら殺人罪だって……




「………MMMコンサルティングの奴ら、いったい何者なんだ?いやでも、ここは黙っておいた方が得策だろうな」


「――――はっ!?!?!?」


男はさっきよりもさらに肩を大きく揺らして俺に振り向いた。



「………俺にもあなたと同じで、他者にはない特殊な力があるんですよ。あなたとは別の種類ですが」


俺がそう打ち明けると、男は「そんなまさか……」と、心底信じられないと全身で驚いていたが、その表情には恐怖や不安も混ざっているように見えた。



「信じられないのも無理はありません。ですが………」


俺はリビングテーブルに近寄り、「こちらをごよく覧ください」と男に告げてから、わかりやすくするためにあえて(・・・)USBに右手をかざした。


するとみるみるうちに歪んでいたUSBが元に戻っていく。

時間にしてみれば10秒も経たないうちに。


「ひぃっ………!!」


テーブルのUSBに注目していた男がのけぞってテーブルから離れる。

まるで幽霊でも見たような反応だ。

だが、それは俺やMMMコンサルティング社員にとっては見慣れたものでもあった。



「初見はあなたのような反応をなさる方も大勢おられます。ですが、幻覚でも、あなたの気がおかしくなったのでもありませんので、どうぞご安心を。ところで、お尋ねしたいことがあります。あなたが先ほど心の中で仰ってたあのこと(・・・・)というのは、他人を意のままに操れる力のことですか?」



男は、怯え上がった顔をしていた。











誤字をお知らせいただき、ありがとうございました。

訂正させていただきました。

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