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十年前の爆破事件………それは、俺がMMMコンサルティングに転職するきっかけとなった事件のことだ。
今回と同じように、”魔法の元” を持つ人間が、それを悪用する計画を立てた。
だが、”予知の魔法” を使えるMMMコンサルティング社員がこれを予見し、時の政府や警察関係各所と合同で対処したのだ。
結果、一般の人間には被害は出なかったものの、今回と同じく ”魔法の元” を暴走させた犯人によって、MMMコンサルティングの優秀な社員が一名、犠牲となった。
そしてそのとき政府代表として共に対応に当たったのが、今の内閣総理大臣だった。
とはいえ当時はまだ若手で女性ということもあり、古株議員達に色々言われていたようだが、そんな彼女を庇っていたひとりが、他ならぬこの白髪の御大なのだ。
「クライアントに関することは守秘義務がございますのでお答えしかねます。我々の口が堅いのはあなたもよくご存じでは?」
「フン、真面目に答えるでない。きみが易々答えるとは思っておらん」
「そうでしたか。それは失礼いたしました。ところで、あと数名、こちらのお部屋に招待いただいてもよろしいですか?あなたいお会いしたがっている方がいらっしゃるのですが、おそらく廊下で待ちぼうけ状態かと存じますので。話はそれからでも?」
「ああ構わんさ。この部屋の主も許可するだろう。……そうだな?」
じろりと睨みを利かせると、男は「は、はい………」と小刻みに頷いた。
いくら ”魔法の元” を持っていても、さすがにこの大物は意のままに操るどころか逆に操られてしまうらしい。
これまでのあの男の傍若無人を見聞きしていた俺には、その言いなりの姿は不気味にも見えたが、男の気が変わらないうちにと、すぐさま ”魔法” で玄関扉の鍵を解錠した。
遠くの方でウー、カチャンカチャンという音が鳴ると、その直後、玄関からは複数名の足音が流れ込んでくる。
「―――っ!?」
「な、なんだ!?」
「さっきから何が起こってるんだ!!」
MMMコンサルティングについて無知な人間は、さっき俺が転移したとき同様、慌てふためいたり唖然としたり、部屋は騒がしさを一気に増した。
そんな中、「失礼いたします」と先陣を切り颯爽と姿を見せたのは大臣だった。
そしてすぐ後ろには副大臣が続くと、男からは「おま……っ!」と、言葉にならない声があがった。
おそらく、お前! と叫びたかったのだろうが、それを許さない圧を感じとったようだ。
その圧をかけた人物は、涼しい態度で目尻の皺を濃くさせていた。
「やはりきみ達二人もおったのか」
「すべてお見通しということですか。さすがです」
「ご無沙汰しております」
大臣、副大臣が会釈する。
彼らはいわゆる二世議員だ。
年代的に父親の代から世話になっていたのだろう。
もしかしたら幼少の頃には可愛がられていたのかもしれない。
そして御大の方も、まるで親戚の子供と久しぶりに顔を合わせるような気安い態度だった。
だがこの部屋に集まっていた人間にとって大臣、副大臣の二人は、自分達の利益を排除する憎き連中だ。
特にこの部屋の主であるあの男にとっては、息子の件もあり、苦々しい顔を隠そうとはしなかった。
だが、男にとってはそれ以上に厄介な来訪者が現れると、その目つきは一変した。
「お言葉に甘えて失礼いたしますよ。どうも。警視庁の者です」
大臣、副大臣の後から部屋に入ってきたダークスーツの男達のうちひとりが飄々と名乗ったのだ。
「なんだと!?警視庁だと!?」
「警察がなぜ?なんの用ですか!?」
男に続き、俺の記憶にはない年配の男が声をあげる。
おそらく、どこかの団体代表だろう。
後ろめたいことが何もなければ、相手が警視庁だろうと公安だろうと、例えその他の何かしらの捜査機関だろうと、堂々としていればいいだけだ。
なのに彼らはそのどれを恐れているのか、平常心をすっかり失ってしまったようだった。
「いったい誰の許可を得て入ってきてるんだ!?捜査令状もないのに勝手に入ってくるんじゃない!!」
男が部屋の主らしく怒鳴り上げるが、それを冷ややかに制する声があった。
「おや、きみは警視庁の方に部屋に入られると何か困ることでもあるのかね?」
「え?あ、いいえ………そのようなことはありませんが………ですが、あまりいい気はしません。こちらの方と大臣と副大臣はあなたのお知り合いでしょうけど、他の方はお知り合いではないんですよね?」
男は俺達を横目で見ながら不快感を滲ませて尋ねた。
「知り合いではないが、我が国の平和、安全のために日夜働く彼らには感謝し、協力が必要ならば惜しまないと常日頃から思っておる。求められるのであれば自宅への入室も喜んで許可しよう。だが、きみは違うのかね?」
ぎろりと、鋭い双眸が男を射抜く。
「ああ、いや、決してそういうわけでは………」
素直にたじろぐ男。
だがかすかに警視庁と名乗った男に視線を投げているのを俺は見過ごさなかった。
そしてそのとき、ほんのわずかに唇を動かしていたのだ。
きっと、相手を意のままに操るという ”魔法の元” を試みているのだろう。
だが、俺が ”制御の魔法” を施していることにより、男の ”魔法の元” は無効である。
それでなくとも、あのイヤホンを装着している時点で彼らには男の ”魔法の元” は微塵も通用しないのだが、そうとは知らない男は、誰にも自分の不思議な力が効かないと気付き、愕然としていた。
「どうかしたのかね?」
刺すように問われ、男は「いえ、なにも……」と誤魔化すしかないようだった。
この場の主導権は部屋の主ではなく、完全にこの御大に掌握されていたのだ。
その御大は、やおら我々を見まわすと、「だが……」と声のトーンを一段階落として言った。
「警視庁まで巻き込んで、いったいきみ達は何が目的なんだね?」




