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「え?向こうにもいるんすか!?」
パーカの男が大声をあげた。
「ああ」
「もしかして ”未発見” っすか!?」
「そうなるだろうな」
「おい、それ本当なのか?」
パーカの男を差し置いて詰め寄ってきたのは大臣だ。
その顔は怖いくらいに真剣そのものだった。
「ええ。あの商社経営者は ”魔法の元” の持ち主です」
「マジっすか?でも今まで誰もそんなこと言ってなかったじゃないっすか!」
「だがお前だって知ってるだろう? ”未発見” を見つけるのは百発百中じゃない。それに、ごく稀に自分自身で力の調整を学習して使いこなしてる連中がいることを。あの男はおそらくその中で ”制御の魔法” に近いものを習得していた可能性が高い。だから、うちの社員でもちょっとやそっとじゃ見抜くことは難しかったのだろう。あの男はそこそこ強い力を持っているようだし、平均程度の力しか有していない ”魔法使い” には無理だったはずだ」
「じゃあ、今日…っていうかさっきあの男に会って、それではじめて気づいたってことっすか?」
「ああ」
「マジっすか……」
パーカの男は驚きつつも、女を丁寧にソファに寝かせた。
”制御の魔法” の影響か、女は眠っているようだった。
ひとまず女の方は落ち着いたと言っていいだろう。
だが、
「ちょっと待て」
落ち着かない様子で大臣が俺達の会話を制した。
その顔色は明らかに動揺している。
「………ということは、まさか、MMM案件になるのか?」
MMM案件とは、”魔法使い” や ”魔法の元” の持ち主が関与していた場合、基本的にその解決、後始末はMMMコンサルティング主導になるということだ。
ケースバイケースではあるが、ここで言う解決、後始末とは、一般社会で言う逮捕、起訴、裁判も含まれている。
つまり、事の次第では、ここにいる警察や議員の誰にも手出しできない案件になってしまう可能性もあるというわけだ。
以前、自らの ”魔法の元” を用いて強盗を実行した者もいたが、MMMコンサルティングが定めた ”魔法使い” による犯罪についての規定に従い、重い刑が言い渡されたらしい。
理由は単純明快、非魔法使いでは、”魔法使い” 及び ”魔法の元” の持ち主の管理監督は難しいからだ。
「もしあの男が自分には他の人間にない不思議な力があると気付いていたうえで、それを利用して悪事を働いていたとなれば、MMM案件となるでしょうね。もちろん、警察関係各所との連携は必須ですが」
「待ってくれ!あいつはうちが追ってたんだ!」
警察関係者から声が上がる。
それもそうだろう。
手柄を横取りされるようなものなのだから。
これまでにもこの手のケースでは多少なりとも揉めることはあったようだ。
だがそこは持ちつ持たれつ、譲れるところは譲り合う紳士協定のようなものがあるわけだが……
俺は壁からそっと手を離すと、その手のひらを彼らに見せた。
「ええ、もちろん承知しています。ですから、あの男がこの場で ”魔法の元” を発動させないように俺がこうして制御しているんですよ。俺の目の前で ”魔法の元” を悪用しなければ、捜査権はそちらが維持したままでいられますから。ですから、もし別件逮捕等の準備が整っているのでしたら、お先にどうぞ」
俺がそう促すと、彼らは「よしわかった」と、一斉に動きはじめた。
予め情報を共有していたわけではないが、何らかの下準備はすでに終えていたようだ。
数名は部屋を出ていき、残った者も忙しくどこかに連絡を取っている。
さきほどの爆発音のせいで隣室から逃げ出した者もいるようだが、このマンション自体を我々MMMコンサルティングが監視している状況で、すんなり帰路に就くのは困難だろう。
大臣も、我々がすぐに主導権を握るつもりはないと知ると、動揺を収束させていった。
すると、ぐったりしている女の様子を気遣わしげにうかがっていた副大臣が、ふと、俺に尋ねてきた。
「あの父親も、その…… ”魔法” を使えるんですか?」
「厳密には ”魔法” とは少々違いますが、まあ、似たようなものです」
「いったいどんな ”魔法” を?我々には無害…という認識でよろしいですか?それとも、知らない間に何らかの ”魔法” をかけられていたのでしょうか?」
「あ、それ俺も気になってたっす!」
「だが今はこのイヤホンを装着していれば、問題はないんだろ?」
副大臣に続き、パーカの男と大臣も関心を示してくる。
俺は手のひらをもう一度壁に当て、制御が効いていることを確認しながら、見解を伝えた。
「正確には、あの男が使えるのは ”魔法” ではなく、生まれ持っていた ”魔法の元” という、特殊な能力のようなものです。我々 ”魔法使い” は必ず各々 ”魔法の元” を持っており、それが育って ”魔法” となり、複数の ”魔法” を使えるようになるといわゆる ”魔法使い” となるわけです。まだ断定はできませんが、俺が直接会って感じたものと男のこれまでの環境からして、おそらくあの男の ”魔法の元” は、人を自分の意のままに操れることではないでしょうか。つまりあの男は、周りの人間を自分の都合のいいように動かせるんですよ」
だから、ワンマンで強引だったとしても、それに異を唱える人間は少なかったのだ。
そしてそれは仕事での成功をもたらし、ますます男は強気になった。
家庭でも、息子の学校でも、すべて自分の思い通りになると思い込んで、例え嘘でもそれを真実にすり替えてきたのだろう。
「ちょっと待ってください。あの父親とは何度も顔を合わせてますが、そんな意のままに操られたような感覚はありませんが……」
副大臣が自信なさげに尋ねてくる。
「それはあなたがとても意志の強い人間だったからでしょう。今お話ししたように、あの男はまだ ”魔法” を使いこなせているわけじゃない。一般の人間や、例え "魔法使い" でも力の弱い相手ならば、あの男は自分に都合よく動かせたかもしれません。ですが、我々のようにある程度の力を持った ”魔法使い” や、ごく稀に存在する強固な意志を持っている人間にはあまり効かないんですよ。だから、あの男はあなたを余計に警戒したのかもしれません。家族や新人の教師は思い通りに動かせたのに、あなたや一部の学校関係者には通用しなかったのではないでしょうか」
「じゃあ、彼女も……?」
副大臣がソファで眠っている女を見やる。
「おそらくは。事実、この女はなぜ盲目的にあの男の話だけを信じたのか、自分でも不思議がっているようでした」
いくら ”魔法の元” を持ってるといっても、あの男の力の方が強ければ防ぐことは不可能だっただろう。
もしかしたら、亡くなったもう一人の教師もあの男の ”魔法の元” の影響を食らっていたのかもしれない。
それなら、亡くなった女性教師に ”魔法” の気配が残っていたとしてもおかしくはない。
そして、自殺未遂を起こした男の息子も………
すると、どうやら副大臣も俺と同じことを考えていたようだった。
「………あの父親は、自分の息子も、彼を心配し続けてくれていた教師も、関わった人間皆を不幸せにしていたんですか……?」
心から悔しそうな呟きだった。
「それは本人から聞かないことにはわかりません。ですが、少なくともあなたの目には二人は幸せには見えなかったということなんでしょう。それより、さきほど隣室を飛び出た者達がそろそろエントランスに着く頃ですが、このまま帰してもよろしいのですか?」
MMMコンサルティングが出入口を監視しているとはいえ、クライアントの意向が最優先だ。
今夜の参加者を帰しても構わないというのなら、それに従うまでだ。
大臣は部屋に残っている警察関係者を横目で見た。
「必要があれば、彼らが足止めするだろう。こちらの目標は裏切者と黒幕のあぶり出しだ。その二人が明らかになったんだ、他の連中は今日のところはどうでもいいさ。二人は隣りの部屋に留まってるんだろ?」
「そうですね、まだ…」
まだ残ってます。
そう答えようとしたが、俺の言葉をかき消す声が、イヤホンから響いてきたのだった。
《おい!煙が出てるぞ!!》
《火事だ!!》
誤字報告いただきありがとうございました。
いつもご丁寧にありがとうございます。




