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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
怒りの魔法使い
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俺は女を伴って、ある部屋のインターホンを鳴らした。

地下駐車場にいたMMMコンサルティング社員から連絡はあがっているはずで、インターホンから反応がないままに玄関扉が開かれた。



「お疲れさまで………あ……」


出迎えてくれたのは副大臣だった。

彼は女の顔を見るなり戸惑ったように反応を鈍らせた。


「諸事情により、帯同させることにしました。何も口出しはしないと了承済みですので、問題はありませんね?」

「あなたが構わないのなら、こちらも大丈夫だと思いますけど……」


女は ”黙ってろ” という条件を守り、副大臣に何も言わずに会釈した。

副大臣もほとんど反射的に会釈したところで、部屋の奥からはもう一人の人物が現れた。



「ああ、待ってたよ。()も動きだしたようだから、一旦ここへの出入は……あれ?ハムスターちゃん(・・・・・・・・)?」


副大臣の背後から姿を見せたのはあの日(・・・)スイートルームで女とも対面していた大臣だった。

彼はその後の経緯を副大臣から知らされていなかったのだろう、女がここにいることに驚いた様子だった。

無理もない、あの日(・・・)の女は、あの父親が用意した他の二人の男とともにスパイ疑惑がかけられていたのだから。



「少々事情がありまして、今夜は帯同させていただきます。余計な口を挟まないという取り決めをしておりますが、今夜の件解決後については記事を書いてもいいと伝えております。よろしいでしょうか?」


今夜の狙いは、法案反対派の一掃だけではなく、私利私欲のために国民を後まわしにしようとする政治家のあぶり出しも含まれている。

そこには、現職に限らず、引退という線引きをしながらも尚権力を持ちたがる厄介な人物も名を連ねている。

そもそも大臣からMMMコンサルティングに持ち込まれた依頼の最終目標は、新法案の成立だ。

今夜ここで法案反対派を叩いたとしても、その後、残党が再びしゃしゃり出てくる可能性は零ではない。

そいつらを黙らせておくためにも、今夜叩いた連中には、ある程度の見せしめになってもらう必要があるだろう。

そのためにはこの女の記者という立場を利用しない手はない。


すると、大臣にも俺と同じ考えがあったのだろう、すぐに承諾した。


「そうだな。今夜逮捕者が出るとは限らないからな。逮捕者が出れば警察発表を受けてマスコミは動くだろうけど、逮捕に至らなかった場合は、世間にあの人達の悪行を知ってもらう必要がある。ハムスターちゃん(・・・・・・・・)は新聞記者だったよな?だったら、いくつかの条件は飲んでもらうが、記事にすることは認めよう」



大臣は女が今夜帯同することになった理由を問うことはなかったが、代わりに「ハムスターちゃん(・・・・・・・・)の件はそちら(・・・)に任せるよ」と俺に告げた。

女のことがどうでもいいわけではなく、それだけ、大臣が俺やMMMコンサルティングを全面的に信頼しているということだろう。


「かしこまりました」


俺が返事すると、それを待っていたかのように副大臣が大臣に尋ねた。


「ところで、今こちらに来られるとき何と仰ってたんです?」

「ああ、隣りの部屋でも動きだしたようだから、この後こちらの部屋の出入は控えておこうと言ったんだ。必要なメンバーは揃ってるから、下に待機してるMMMの社員と連携を取って………」



大臣と副大臣はやや早口でそんな相談をしつつ、廊下の奥に進んでいく。

そして俺は女にも部屋に入るように促したが、女がじっと俺に目で訴えてきたので、「今ここでなら、多少話しても構わない」と制約をゆるめてやった。

女は、これ幸いとばかりに、すぐさま俺に訊いてきたのだった。


ハムスターちゃん(・・・・・・・・)って、何なんですか?」


どんな追及が飛んでくるのかと思っていた俺は、つい苦笑が漏れてしまう。


「………まず気になるところがそこなのか」


だが女は不服そうになおも訴えた。


「だって、絶対に私のことを言ってましたよね?でも私、今まで一度もハムスター(・・・・・)なんて呼ばれたことないし、そんなあだ名を付けられるに心当たりもないです。それに、あの大臣とは初対面で、取材したこともないのに、私のことを新聞記者だと知ってらっしゃったのはなぜですか?副大臣のあの人が、何か話したんですか?」


まあ、気になると言えば気になるか……

実際のところは、警戒心が強かったり優秀な秘書がいる政治家なら、記者の顔や名前、所属先といった基本情報リストを把握してることも多いのだが。


「議員のまわりをうろちょろしてればマークされるのは当然だろう?そしてその情報が親しい議員の間で共有されていたとしても不思議はない」

「でも、私が元教師だということはばれてなかったんですよね?」

「さすがにいちいち新人記者の前職まではチェックしないだろうさ。よほどのことがない限りはな。副大臣だってはじめはお前のことに気付いてなかったからな」


女は渋々納得したように唇をぐっと噛んだ。


「訊きたいことはそれだけか?もういいなら、早く行くぞ」

「待ってください!いったいこの部屋で、これから何が行われるんですか?」

「それを部外者のお前に言えるわけないだろう?」

「まさか犯罪まがいのことなんてしませんよね?」

「お前、俺の話聞いていたか?犯罪まがいのことをやってるのは隣の部屋に集まる連中(・・・・・・・・・・)の方だ。それを取り締まるのが、こちらの部屋に(・・・・・・・)集まる人間(・・・・・)。まあ、俺のこの説明が正しいかどうかは、お前がこれからその目と耳で確かめたらいい」



この期に及んでもまだあの男寄りの発言をする女に、俺は奴の影響力が相当だったことを改めて思い知る。

それは一種の洗脳のようなものなのだろう。

女はまだ完全にはあの男の精神的支配から抜けていない。

そんな状態であの男の近くにいるのは危険かもしれないが、それを踏まえても、俺の目の届く範囲にいてもらった方が御しやすいはずだ。



女はまだ何か言いたげではあったものの、奥の部屋から戻ってきた副大臣が「すみません、ちょっとよろしいですか」と俺に呼びかけたことで、女からの質問タイムは終了となった。



「今行きます」


俺は即座に副大臣のあとを追う。

その際、女と副大臣の視線がかすかに交わったように見えたが、二人はぎこちなく気付かない素振りをした。




隣室だけでなく、相反する立場の人間はこの部屋の中にもいるのだということ、俺は今一度肝に銘じ、関係者が集う奥のリビングルームに足を進めたのだった。












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