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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
怒りの魔法使い
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扉の向こう(・・・)には俺の同僚の女がすでに待機しており、俺は彼女と扉越しに「頼んだ」「よろしくてよ」と短い会話を交わして、一旦扉から離れた。


その際目が合った母親には「大丈夫ですから」と言葉をかけ、母親からは深い礼が返ってくる。


やがて、1分と経たないうちに扉の中に関係者全員が入っていくと、俺とMMMコンサルティング社員、男子生徒の元の担当医、病院事務長がこちら側(・・・・)に残り、扉がゆっくり閉じられた。




「では、後のことはよろしくお願いいたします。何か問題がありましたら向こう(・・・)のMMMコンサルティング社員が対応いたしますので、ご連絡を」


「わかりました」


「こちらのことはお任せください」


事務長と医師の返事を聞いた俺は、扉に ”魔法” をかけたMMMコンサルティング社員が解除を終えたのを確認し、その扉から病室を後にしたのだった。







時刻はもうすでに午後になっている。


俺はMMMコンサルティング本社に戻り、いつもの仕事服であるスーツに着替えると、再び地下の ”転移の魔法” の扉を使って移動した。



向かった先は、とあるビルの廊下。

見覚えはない場所だ。


見える範囲に人間の気配はないが、一応は ”認識阻害の魔法” を俺自身にかけておく。

これで俺を見てもそこらへんにあるオブジェや観葉植物とでも思って騒がれることはない。


俺ははじめての場所で若干の様子見をしつつ、目当ての人物を探した。


おそらくは、この建物の中にいるはずだ。


鍵がかかっていようが人とすれ違おうが関係ない。

俺はとりあえずこのフロアからチェックしていった。



だが、すぐに見つかると思った対象者は、どうやらこのフロアにはいないようだった。

すべての部屋は確認済みで、ここまで探しても見つからないということは、別フロアだろう。

俺は次に捜索するフロアを上階にするか下階にするか一瞬迷ったが、ちょうど差し掛かったエレベーターホールで聞き覚えのある声が漏れてきて、足を止めた。

直接の面識はないが、会社経営者としてメディアを通してその声は何度も聞いたことがあるので、記憶にはすっかり刻まれている。



間違いない。

この声は、あの男子生徒の父親のものだ。



俺は ”認識阻害の魔法” をかけているものの、自然と壁沿いに体を隠して聞き耳を立てた。


この男の声を直接鼓膜に触れさせるのは、はじめてだった。



「だから何度も言わせるな!つべこべ言わずに指示に従ってればいいんだ!」


「ですが社長、その件に関しましては、あの大臣が勘付いている様子があります。今夜はキャンセルなさった方がよろしいかと……」


「馬鹿も休み休みに言え。あの面子が揃うのは今夜しかないんだぞ。しかもあの若造ども、最近は胡散臭いMMMの連中とつるんでるそうじゃないか。これ以上好き勝手させてたまるか」


「もちろんそれは仰る通りですが、前回のバイトの失敗もありますので、ここは慎重に事を運ばれた方が……」


「うるさい!これは命令だ!今夜は、何が何でも決行しろ!いいな?」


「……………承知いたしました。では、そのように」



エレベーターホールから廊下に曲がり、先を進んで、社長室と思しき部屋に入っていくまでの間、男はずっと同じ口調と態度だった。

メディアで見かけた印象とも、噂に聞く人物像ともかけ離れているが、強引と強いリーダーシップは紙一重ということなのだろう。

だが、あそこまで高圧的にこられると、何かしらの ”魔法” で対策でもとらない限りはややこしそうだ。

よくあんな調子でこれまでやってこられたものだなと、俺は口に出さずに呆れかえっていた。

一緒にいたのは秘書の一人だろうが、すっかり怯えていた。



ただ、あの男がどういう人間なのかはよくわかった。

俺が思っていたよりも、少々厄介な相手だということも。

これは、多少の計画変更も必要かもしれない。


再び廊下にひとりきりとなった俺は、ここに来たときとは違い、今度は自分の ”魔法” で転移を行った。

移動先はMMMコンサルティング本社内、俺のオフィスだ。

あの男のマンションで開催予定の会合まではまだ時間がある。

あらゆる可能性と対応策を準備しておくに越したことはないだろう。



あっという間にオフィスに到着すると、計画変更を報告すべき相手全員に連絡し、それぞれから了承と一任を得た。

これで、今後は細かな予定変更があってもいちいち報告をあげなくて済む。

今はまだ余裕があるが、現場ではそうも言ってられないからな。


そしてその連絡を取っている最中、男子生徒が無事に意識を戻し、体調にも問題ないという知らせがあった。

連絡をよこしたのは同僚の黒い服の女で、俺はホッとして同僚に礼を伝えたが、同時に、男子生徒と母親が絶対に誰とも接触しないように徹底してくれと念押した。

あの父親は、思っていたより面倒な相手だ。

もし妻と息子が忽然と姿を消していると知れば、何をしてくるかわからない。

万が一の場合は、二人をMMMコンサルティング本社にまで転移させてくれとも伝えた。

同僚の女は俺の意を察してくれたのだろう、理由も訊かず即了承したのだった。



こうして、いくつかの変更点はあったものの、夜に向けての準備は順調に進めることができた。

残るは………


俺はワイシャツの胸ポケットから ”カード” を取り出し、顔の前に掲げた。


果たして、あの女はこのカードを今も持っているのだろうか。

いや、持っていなくとも別にそこは問題ではないのだが。


ただ、もしあの女が恨みつらみやゴシップのためではなく、本気で亡くなった友人や意識不明の男子生徒のことを想っているのであれば、きっとこのカードを大事に持っているのだろうなとは思う。

ただそれだけだ。



俺は柄にもなく若干の感傷を抱きながら、自分のカードをしまい、意識を集中させた。

あの女に渡した ”カード” の気配を探るためだ。

”カード” には、一度持ち主と認定した人物の居場所や生死状態などを、その ”カード” の送り主にのみ知らせるという ”魔法” が組み込まれている。

これにより、俺は必要に応じて、あの女の居場所を知ることができた。

ただし、必要外で相手のことを探るのは厳禁だ。

プライバシーにはじゅうぶんな配慮が求められるからだ。

だが今回は、必要不可欠な捜索だ。



やがて俺は意識の中で、女の居場所を突き止めた。



それは意外にも、このMMMコンサルティング本社の目の前だった。











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