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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
怒りの魔法使い
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「まあ、厳密に言えば、あのとき(・・・・)は俺はまだMMMコンサルティングには入っていなかったんだが」


俺は記憶の中で、想いを馳せた。




十年前、”魔法” の存在なんて露ほども知らなかった俺は、まだ雑誌の記者をしていた。

人並み外れた俺の記憶力は、記者として非常に役立っていた。

ある日、政治家関連のスクープを狙う同僚の記者に手伝いを頼まれた。

俺の記憶力を知っている人間から頼られることはよくあったので、そのときも俺はすぐに引き受けた。

同僚が追っていたのは、ある議員の闇献金疑惑だった。

その取材過程で、当時俺も名前だけは知っていた ”MMMコンサルティング” の名前が出てきた。

俺と同僚は、その議員が不自然な会食に参加する情報を入手し、その現場を抑えることにした。

ところが、当日の朝顔を合わせた同僚は、その件についてのすべてを忘れ去っていたのだ。



今となっては、それが記憶操作の ”魔法” によるもので、俺は ”魔法の元” の持ち主だったことにより、記憶操作にかからなかったのだと理解できる。

だが当時はそんなこと知る由もなく、俺はてっきり、”MMMコンサルティング” とかいう得体の知れない企業と政治家が何かしらの怪しげな動きをしていると勘繰り、単身議員が参加する会食の場に乗り込んだ。

そこで出会ったのが、あのパーカの男をはじめとする”MMMコンサルティング” 社員達だった。



彼らは俺に記憶操作の ”魔法” が効いていないと知ると、俺も ”魔法使い” になれると告げた。

だが、それまで現実に起こった事件ばかりを扱い、その裏にある真実を追求してきた俺が、いきなり ”魔法” だの ”魔法使い” だの言われて信じられるわけもない。

それでもだ、目の前で不思議な現象を見せつけられると、その正体を暴きたくもなるのが記者というものだ。

俺は彼らに不審と疑惑を持ちつつも、”MMMコンサルティング” の内部を取材できる絶好の機会だと考えた。

だが、そこからは思わぬ展開となったのだ。



どうやら、予知の ”魔法” を使えるMMMコンサルティング社員が、大きな爆破により多数の犠牲者が出ると予知していたらしく、政府や警察関係も巻き込んでの対策チームが秘密裏に動いていたのだという。

そして俺が議員の会食先でMMMコンサルティングの面々と出会った直後、その爆破が起こる場所が確定され、時間の猶予がほとんどないことが明らかになったのである。

当然彼らはその現場に急行することとなったわけだが、だからといって色々嗅ぎまわる俺を野放しにしておくこともできず、結局俺もその爆破予定の現場に同行することとなった。

そしてその現場で、俺の絶対的な記憶力が思わぬ形で役に立ったのだった。



当初は事故か事件かも定かではなかったものの、事実としては、”魔法の元” を持った人間による犯行だった。

予知では大きな爆破と出ていたそうだが、”MMMコンサルティング” のおかげで爆破の規模は限定的に抑えられた。

犯人は捕らえられ、大勢の死傷者を出すという事態にはならずに済んだ。



だが、一人の魔法使いが、仲間を庇うかたちで犠牲となったのだ。



それが、今から十年前の出来事である。




「でもほとんど一緒に戦ったようなもんじゃないっすか」


そう返してきたパーカの男からは、もう揺らぎは見られなかった。


「……じゃあそういうことにしておいてくれ。お疲れ。また後でな」


適当に話題を切り上げると、ちょうどエレベーターが1階で停止した。

パーカの男は扉が開ききる前に「お疲れっす!今夜、楽しみにしてるっす!」と満面の笑みで告げ、そのままエントランスの方に軽い足取りで歩きはじめたのだった。




「楽しみか………」


エレベーターに乗ったままの俺は、男の言葉を反芻しながら扉が閉まるのを静かに待った。


あいつが楽しみだと言ったのは、久々の俺と一緒のミッションであることを指しているのだろう。

他意はないはずだ。

だが、今回の件ではすでに死亡者が出てしまっている。

俺が関わる前に起こったことだったとしても、人の命が失われている以上、純粋に仕事を楽しむのはよほどのメンタルでないと難しい。

人命が失われる事件に携わることなど、記者時代に何度も何度も経験していたが、何も感じないわけではないのだ。

いくら耐性が育ち、免疫を得たとしても、人の死にはどうしても慣れない。

病死ならまだしも、事件や事故となると、記者として、その ”死” を回避することはできなかったのかと考えてしまうからだ。



そしてそれは、”魔法使い” なんてファンタジーな職に就いてからより一層強く感じることだった。

多くの人にはない特別な力があるのに、俺は、その ”死” を救うことができなかった。

人のためになりたい、その想いから記者になり、さらに人のために役立てそうだという理由でMMMコンサルティングへの転職を決めたくせに、その ”命” は救えなかった。

その事実は、いつも俺の薄っぺらい正義感を嘲笑っているようだった。

そしてその都度、俺は意識し直していたのだ。

記者時代よりももっと強い精神力が、魔法使いには必要なのだと。



俺は、今一度腹を括り直し、地下のフロアに降り立った。


これから男子生徒の意識が回復することは決まったが、彼が、自分の味方をしてくれていた教師が亡くなっていると知ったら、いったいどう思うのだろう。

それだけじゃない。

直接関係はないとはいえ、自分の件がきっかけとなり、教師が一人職を辞し、自分の父親の意のままに動く新聞記者と変わり果てていたと知ったら、彼はどう思うだろうか。



―――――お父さん、ごめんなさい



そう言った彼の心の声は、ひどく震えていた。


彼の行いが正しかったとは思わない。

だが、まだ中学生だ。

精神的に未熟な年頃で、父親からかなりのプレッシャーをかけられていたと見受けられる。

最終的な判断をしたのは彼自身だったとしても、同情の余地はあるように思えた。

俺は、なるべくなら、彼が受けるショックも最小限に止めてやりたいと思うのだ。


そのためにも、一度、彼の父親がどんな人物なのかを俺の目で見極める必要がある。

だが、その前に………



地下フロアの長い廊下を進んでいた俺は、ある扉の前で立ち止まった。

ガラス張りの前衛的なビルからは想像もできないような赤茶色のレンガ壁に、重厚感のある両開きの扉。

いったいいつの時代に(あつら)えられた物なのか知らないが、相当な年代物なのは間違いない。


俺はそんな年季の入った扉に、自分のカードを当てた。

MMMコンサルティング社員なら必ず持っている、表に ”M” とのみ記されているカードだ。


すると、ガチャッ、ガチャッ……と重めの音が鳴り、ギギギ、ギ……ッと軋む鳴き声を立てて扉が両側に開いていったのだった。











誤字報告いただきありがとうございました。

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