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魔法使いには向かない職業   作者: 有世けい
怒りの魔法使い
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「そうか、お前、警察担当になったんだったな」

「そうっすよ。もしかして忘れられてたっすか?」

「まあな」

「え、ひどいっすよぉ―――」


人懐こい態度で、まるで犬がブンブン尻尾を振ってるようにご機嫌で近付いてくる。


MMMコンサルティングでは一般企業と同じように各部署もあるし、人事異動も存在するが、それは一般企業のように絶対的な配属というわけでもなかった。

各地方担当、各地域担当、政府担当、メディア担当、警察担当、治安担当、医療担当、魔法使い管理担当、総務担当……他にも様々な部署に振り分けられてはいるものの、その線引きはゆるく、あくまでも表向きの所属先だった。

というのも、MMMコンサルティングに持ち込まれる案件は、ひとつの担当内で完結できないことが多いからだ。

依頼を解決に向けていく中で大抵は複数の部署に跨ることになるし、MMMコンサルティング社員もそのつもりで応対しているので、社員の間ではあまり担当先というのは重要視されていなかった。


ただ、MMMコンサルティング社員として、MMMコンサルティング外の非魔法使いと接触する際には、振り分けられた所属先が重要になってくる。

例えば、警察関係者からの依頼はまずは警察担当が請負い、基本的には他の部署担当の者が警察関係者と直接面会することはない。

そしてこの担当制には時間的制限が設けられていた。

相手が魔法使いにもMMMコンサルティングにも協力的ならば問題はないが、そうでなかった時には、ちょっとした面倒ごとになるからだ。

なぜなら、俺達魔法使いは、”魔法” を使い続ける限り、そしてMMMコンサルティングに所属し魔法使いが周りにいる限り、年を取ることがない(・・・・・・・・・)のだから。



魔法使いは ”魔法” の使用にそれ用の ”力” が必要で、これは人間でいうところの体力や生命力と似たようなものだ。

その大きさには個人差があり、同じ ”魔法” を使うにしても心身共にほとんど影響ない者もいれば、立っていることもできなくなるほど消耗してしまう者もいる。

だが両者とも、魔法使いが近くにいるだけで、自ずとその疲労は回復していき、”魔法” を使用する前の肉体にまで戻っていくのである。

その速度にも個人差はあるのだが、それよりも重要なのは、つまり、魔法使い同士が一緒にいる限り、魔法使いは永遠に老けないということだ。

肉体的な老いがないということは、容姿も同じくいつまでも同じ年齢のままだ。

そしてそれは、当然世間一般の人間には理解できない現象だった。

数年程度なら、いつまでも若い人、若く見える人、年齢不詳、などと好意的に受け取られるだろうが、これが十年、二十年となってくると、やがて好意的な感情も裏返り、”不気味な人間” という悪評に変換されてしまう。


ゆえに、MMMコンサルティングで働く魔法使い達は、非魔法使いの人間から異端者扱いされる前に、その時点で自分を知る人間の前から姿を消すことが推奨されていた。

もちろん ”魔法” で関係者の記憶を操作することも可能ではあるが、その対象者があまりに多い場合は効率が悪すぎて、その ”魔法” を使う方に負担がかかりすぎるのだ。


そういう事情で、MMMコンサルティング社員は数年ごと、長くても十年で担当が変わることになっていた。

このパーカの男は、先月警察担当になったばかりだった。



「それで、警察が絡んでくるのは、あの法案のせいか?」


エレベーターホールに歩きながら訊く。

例の法案は、海外からの人や金の流れをよりクリアにするもので、今の現状を鑑みると、警察関係も大いに関わってくるものだ。

だが、パーカの男はこれを否定した。


「そうじゃないっすよ。実は、俺が警察担当になる前の事故で亡くなった方から、”魔法” の痕跡が見つかったらしいっす」

「ご遺体から ”魔法” の痕跡が見つかるのはよくあることだが、合同ミッションになるということは……」


俺はエレベーターに乗り込み、振り向きざまに告げたのだった。


「そのご遺体は、中学教師の女性だな?」



パーカの男は「さすがっすね。その通りっすよ」とオーバー気味に返してきた。



身近に魔法使いや魔法の元の持ち主がいると、移り香のように非魔法使いにも

”魔法” の気配が残ることがある。

そして警察や医療関係を訪れる人間の中に、”魔法” の痕跡がある者がいないか、被害者、加害者、怪我人などで ”魔法” の影響を受けている者はいないか、必ずチェックされているのだ。

特に、亡くなった人間に対しては念入りに確認作業が行われているらしい。

俺はまだ警察担当になったことはないが、毎日多くの人間が亡くなり、そのご遺体と接しなければならない、厳しい任務だと聞いていた。


”魔法” の痕跡が見つかることは五割ほどで、見つかった場合はそれが自然に移ったものか、それとも故意によるものかを判定する。

大抵は周りに ”魔法” 関係者がいたことによる移り香だったが、稀に、何者かによる故意の犯行が暴かれたりもするので、そうなったら警察だけでは解決できず、MMMコンサルティングからも社員が派遣されるのだ。

その際は担当部署に関係なく、その案件に適した魔法使いが選ばれたたりもするし、別部署同士が協力してひとつの案件を請け負うこともある。

パーカの男が口にした ”合同ミッション” とは、このことだった。



「だが、事故からもうずいぶん時間が経っている。なぜ今頃?」


エレベーターのフロアランプを見上げながら問う。

例え事故か自死か断定できずとも、そこに ”魔法” の痕跡があったのならMMMコンサルティング側には報告が上がってくるだろうに。


「事件性がなかったことと、微量だったので、特に問題視されることもなかったらしいっす。今も、それが誰の ”魔法” や ”魔法の元” だったのかは確定してないみたいっす」

「まあ、おそらくあの女記者から移ったんだろうな」

「新しい魔法使い候補っすよね?聞いてるっす。なかなか ”魔法の元” が掴めないって聞いたっすよ?」

「今朝まではな」

「ええっ?じゃあもうわかったんすか?」


パーカの男は食い気味に訊いてきたが、ちょうどエレベーターが目的のフロアに着いてしまった。



「詳しいことは後だ。とにかく今は時間がない。ミーティングをはじめよう」


俺の一声に、パーカ男は「了解っす!」と溌剌と胸を張った。


そうして、まるで何か(・・)がはじまる合図のように、エレベータの扉は開いていったのだった。











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