第8話 情報交換
まだ何かあるのか?
「お詫びに、夕食後にデザートを追加させます。先ほどはプディングを付けましたわね。フルーツタルトがいいかしら?あっ、そうだわ。セバスワルド、今日のお父様のデザートは何?」
「ティラミスでございます」
俺は生唾を飲み、一呼吸おいて言った。
「まあ、どうしても配信したいというのなら、俺が配信を手伝わないこともない……かもしれない……たぶん、手伝う」
「嬉しい! 一緒に配信してくださるの?!」
マリアンお嬢様は目を輝かせた。
「いや、一緒に配信するのはダメだ。俺はいつでも見る専なんだ。顔出しNGだからな」
「ミルセン? 何それ、おいしいの?」
「見る方専門って意味だ。カメラに映るのは絶対ダメだからな」
配信が、現代日本と繋がっているのなら、
知人に俺が映った姿を見られてしまう可能性がある。
「学校へ行かないで、異世界で何している」なんてコメントが来たら、俺の学校生活は終わる。
俺は元居た世界に戻るつもりなんだからな。
たとえ、女神に理由が「ちっちぇー」と言われてもだ。
大好きなアニメの最終回を見逃してもいい人間っているか?
推しのコンサートチケットが当たったのに、行かない人間っているか?
今月のバイト代入ってないのに、諦める人間っているか?
「ふーん、そうですか。一緒に配信はダメなんですか。ところで、セバスワルド。彼の使用人としての仕事って、どんな仕事になりますの?」
「初心者はボーイから始めていただきます。いわば雑用係でございます」
「その雑用に、わたくしの配信係というお仕事をプラスできないかしら」
「わたくしが拝見したところ、はいしん? について、まだよくわかりません。わたくしの許可なく、お嬢様の部屋にボーイを入れることは出来かねます」
「つまり、セバスワルドと一緒なら問題はないということね。セバスワルドと一緒にわたしのお世話係をする。これになにか問題あります?」
「う……、いや、しかし……」
このマリアンお嬢様は、なかなか頭が切れるようだ。
使用人セバスワルドの意見を、うまく利用して承諾させようとしていた。
だが、待って欲しい。
俺のスマホだ。
俺の意見は聞かなくていいのか?
「あのぅ、いつの間にか配信する話になっているけど、俺の意見はどうでもいいのか」
「どうでもいいわけないでしょう。もちろん、スマホの持ち主はあなたですもの。そして、あなたをボーイとして雇うのはオラエノ家です。お給金はちゃんとお支払いしますわ」
「給金…、魅力的だが…」
待て。
俺が転移してきたのは、女神ジョイのミスがきっかけだが、自力で成さねばならないことがあるからだ。
ドラゴンを倒してクリスタルを手に入れなければ、一生ここから帰れない。
女神ジョイに帰ると言った以上、冒険者になる道を捨てるわけにはいかないのだ。
しかし、それをこのお嬢様に説明たところで、どこまで理解してもらえるか。
黙り込んでしまった俺を気にしたのか、マリアンお嬢様もセバスワルドも心配そうに俺を見ていた。
「ここは、あなたのいた国とは違いますわ。あなたの事情も聴かずに勝手に話を進めて、ごめんなさい」
「国? 国どころか世界が違う。あるミスが原因で、突然この異世界に転移することになったんだ」
「なにか深い事情がありそうですね……でも、あなたから見たら異世界であっても、わたくしにとってはここが現実世界です。お互いの認識や考え方なんて、違って当然ですわ。……そうだわ! せっかく来たんですもの、お互いの世界の情報交換をいたしません? それを知ることで何かが変わるかもしれないでしょ」
お、名案。
「それはいいな。俺にこの世界のことを教えてくれ」
マリアンお嬢様は説明しはじめた。
「まず、ここはオラエノ領で、わたくしのお父様が治める領地。お父様は成金で……」
マリアンお嬢様は、ここ周辺一帯の話から始めた。
「いや、そういう情報じゃなくてだな」
俺に言われて、マリアンお嬢様はぴたりと話を止めた。
俺が知りたい情報は、そんなことじゃないと伝えることにした。
「異世界に来たからには、冒険者になって成り上りたいわけじゃん。転移して才能が開花して、モンスター退治で俺TUEEEなんて王道だからな。もしかしたら、勇者になれるかもしれない。ってことで、ギルドとか? モンスターはいるか? そういう情報が知りたいんだ」
マリアンお嬢様は、俺の話に首を傾げた。
「転移したら俺杖ー? 杖で勇者? 先ほど頭をぶつけた時、ぶつけどころが悪かったのかしら? よくわかりませんが、とりあえずはギルドもモンスターも両方ともございますけど」
ギルドもモンスターも両方ともあると知った瞬間、俺は思わず小さくガッツポーズをした。
やったー! 道筋が見えてきた。
「今すぐギルドに連れて行ってくれ!」
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