第79話 どうしろっていうんだよ
そして、放課後。
みんなが部活やらなんやらで、教室には誰もいなくなった。
誰もいない教室で、俺はひとり考え事をしていた。
このまま家に帰ってもなぁ。
また、マリアンとのことを母さんに聞かれるんだろうなぁ。
父さんも、今日は休みを取って家にいるし、お土産を渡すとか、マリアンに言ってたからなぁ。
どうしたもんかなぁ。
いくら考えても結論が出ず、諦めて俺は静かに帰り支度を始めた。
すると堀田が慌てた様子で教室にやってきた。
「おい大森! マリアンちゃんが生徒会室に行ったよ! 本当に生徒会に入ったのかなぁ……」
ストーカー堀田は、ものすごく残念がって俺の前でうなだれた。
「そうか」
少し動揺したが、俺はわざと素っ気なく返事した。
「大森……何で冷静なんだよ。僕は嫌だよ」
堀田は本当に悲しそうな顔で、ツラそうな声を出した。
「何が?」
俺はいつものように、淡々と話を聞く。
「だってさ……生徒会長の鎌瀬って、女子に人気じゃん? マリアンちゃんが、もしも鎌瀬と付き合……」
「あるわけないだろ!」
堀田が言い終わる前に、俺は叫んでいた。
しかし、堀田はひるむことなく意外な話をし始めた。
「大森、何……怒っているんだよ。……実は、ユニオンランドで話をしたあの五分間に、
マリアンちゃんには勇者がいるって話を聞いたんだ。普段は頼りないけど、いざって時は助けてくれるんだって」
堀田の話を俺は珍しく聞き流さないで、すべての言葉に耳を傾けた。
「あの日、入退場ゲートまで三人で走ったじゃん、竜崎の一件のときだよ。マリアンちゃんの、大森を見る時の目が違うことに気付いたんだ。ずっとあの子を見て来た僕にはわかるんだ! 大森が、その勇者なんだって……。迎えに行ってあげなよ!」
きっと堀田は、俺がモブだということはとっくに気付いていたのだろう。
「わざわざ行く必要ねぇよ。それと……俺の前で鎌瀬の話をするな。わかったら、帰宅部はとっとと帰れ」
真っ黒い感情が胸の奥で渦巻いているのが、自分でもわかった。
「はぁ? マリアンちゃんは、きっと君のことを待っているんだよ!? それに言わせてもらうけど、君だって帰宅部じゃんか! こんだけ言っても、大森は全然わかってくれないのかよ。それならそれで、マリアンちゃんがどうなっても僕は知らないからな。もういい! 僕は帰る!!!」
堀田はそのまま走って教室を飛び出して行った。
「クソ…どうしろっていうんだよ……」
俺は、感情のやり場がわからなくなって、ゴミ箱を蹴とばした。
掃除されて空になったゴミ箱は、簡単にへこんで床に倒れて転がった。
俺はイライラして、堀田に八つ当たりした。
それはわかっている。
堀田は何も悪くない。
むしろ俺たちのことを心配してくれていたのに、俺は酷いことを言ってしまった。
誰もいなくなった教室から校庭を見下ろすと、
友達と話しながら下校する奴、部活で走っている奴と、様々な生徒が高校生活を満喫しているように見えた。
本気で友達と呼べる奴さえいない俺から見たら、他の奴らは青春ってやつを謳歌しているように映った。
マリアンだって、今しかできないことを楽しみたいのは当然だ。
それが例え…俺以外との恋愛だとしても……?
その時、ズキッという胸の痛みと共に、堀田に言われた言葉を思い出した。
『マリアンちゃんには、勇者がいるって話を聞いたんだ。』
何が勇者だよ。
全然、勇者じゃねえよ。
俺は……マリアンを……胸張って、助けた! なんて言えるようなことは何もしてない……
『大森が、その話の勇者なんだって——』
そうじゃない。
逆に、俺はいつもマリアンに助けられてばかりいたんだぞ……
それなのに、いつもこんな弱い俺のそばにいて、笑いかけてくれる。
本当にワガママだし、自分勝手だし、素直じゃないうえに
俺のことをからかって、振り回して、すぐ不機嫌になって、いろいろと大変なお嬢様だけど……
俺の足はいつの間にか、生徒会室へと向かっていた。
クッソめんどくさいお嬢様、今行ってやるから待ってろ!




