第68話 修学旅行―ローファー
クソ! もっとこまめに連絡するべきだった!
どこに居るんだ、マリアン!!
俺は息を切らせながら、広大なユニオンランドを走り回った。
他校の男子生徒って、どんな奴なんだ?
使えない先生たちだが、もしかしたら、その程度の情報くらい持っていたかもしれない。
いや……いくら使えなくても、情報を持っていたらここまで時間はかからないな。
せめてマリアンがいる班の奴と、話だけでもしておくべきだった。
今更どうしようもないことを、グルグルと考えながら俺は園内をくまなく探した。
その時、ちょうどベンチに腰掛けているヤンキーの集団が見えた。
絡んで連れて行くような奴ら……
蛇の道は蛇と言うからな、もしかしたら、あいつらが何か知っている可能性もある。
俺がヤンキーの集団に近付こうとしたその時、場内アナウンスが響き渡った。
「お客様、お待たせしました。ユニオンランド・ハッピー・パレードが始まります。
パレードが通過するため、通路を開けてお待ちください」
それをきっかけに、通路の中央にいた人が端へ寄りはじめた。
俺はあれよあれよと人波に流され、ヤンキー集団とは反対通路まで流されてしまった。
「このタイミングで昼のパレードかよ! 時間がないってのに!! クソ! どうにか向こうへ行く手段を探さないと!!」
人だかりのせいで、周りをよく見渡せなかった俺は、なんとか近くに花壇を見付け、
花壇の柵に上ろうと足をかけた。
すると、視線を向けたその花壇の中に、見覚えのあるローファーが転がっているのを見付けた。
まさかとは思ったが、それを拾い上げ、内側を確認する。
『M・O』
これは、俺がマリアンの名前のつもりで書いてやったイニシャルだ!
あの時のマリアンとの会話がよみがえって来た。
―M・Oってなんですの?
―マリアン・オラエノの頭文字だよ
―え? マリアン・オオモリの略でもよろしくってよ
―い、いつからオオモリになったんだよ! どっちでも同じだから、別にいいけど
―じゃ、マリアン・オオモリということで
「こんなところに靴なんて…マリアンにいったい何が……」
俺は、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
とりあえず、何が何でも、さっきのヤンキーに話を聞きたい。
当てが外れるかもしれないが、今出来ることは全部やる。
パレードの隙間を縫うように、俺は向こう側の通路へとダッシュで駆け抜けた。
ダンサーや、着ぐるみ……パレードスタッフたちは、驚いて思わず道を譲った。
そうやって、俺は捕まる前に、うまく観客の中に紛れることに成功した。
さてと、ここからが本番だ。
少し歩いて、ポップコーンを売っているフードカートの手前まで来ると、ヤンキーたちの声が聞こえてきた。
「さっきのブロンドの女さ、あれからどうした?」
早速、興味深い話をしているな。
時間もないし助かる。
「あれは上物だったよなぁ。」
ナンパでもしたのか?
ずいぶんとニヤニヤしてやがるが……
「お嬢様学校かなんかか? やたら丁寧な言葉使いだった。それにしても、強気な女だったなぁ。俺はあぁいう女がいい。まぁ欲を言えば、もう少しタッパとケツのデカい女がタイプだな」
そんなことを話し、下品に笑っている。
最低だな。アニメの見過ぎじゃねぇか?
こいつ…そのうちブラザーとか言い出しそうだ。
そんなことより、ブロンドで、お嬢様のような丁寧な言葉使いの強気な女……
現代にいるそんな特殊属性……間違いない、マリアンのことだ。
あいつら、マリアンに何しやがった。
俺は今にも飛び掛かりそうになるのを抑え、冷静に思考を回した。
相手はヤンキーだ。正直言うと怖いし、相手は複数。
……ここは真正面から行かずに、少し頭を使うか。
相変わらず、下品な話をしているヤンキーに向けて、俺は歩みを進めた。
「お兄さんたち、カッコイイっすねー!」
俺は聖剣ダイコンカリバーを抜刀しないように、細心の注意を払った。
そして、ヤンキーの集団の中心に座っている、リーダー格っぽい男に明るく話しかけた。
「あぁ!? なんだてめぇ!」
おぉ…威嚇だけでずいぶんな迫力……
でも、こんなとこで引くわけにはいかない。
「実は俺、修学旅行で来ててー、早食い競争に負けて、罰ゲームすることになっちゃったんすよねぇ。」
俺はデマカセをすらすらと並べた。
「それが俺らに話かけるのと、何の関係があるんだ!」
周りのヤンキーたちは、俺に詰め寄りながら語気を荒げてきた。
「まぁ、まぁ、落ち着いてくださいよ。実は…このユニオンランドで一番の美女と一番のイケメンを探して来いって言われたんすよ。こんな広い場所で探すのには、時間かかるんで遊ぶ時間無くなるからってね。十分キツイ罰ゲームになるわけで……」
俺はヘラヘラ笑いながら、ヤンキーたちの様子を伺った。
「そこで見付けたのが、お兄さんなんすよ! もうワイルドで、強そうで、俺の思い描いたThe・イケメン!!って感じ!」
そこまで言うと、リーダー格の男はまんざらでもない表情になった。
「なんだ、そういうことか。まぁ、そうじゃないとは言い切れんな!」
にやけ顔からキリッとキメ顔を作り、あごに人差し指と親指をあてポーズを決めている。
うわぁ……ちょろ。
「あぁ!やっぱ、カッコイイっすわー。男でも惚れる、男の中の男っていうのは、お兄さんみたいな人のことを言うんでしょうね! ちょっと、イケメン見つけた証拠に写真撮らせて下さいよ」
俺はスマホを取り出した。
「おう!いいぜ!! いくらでも撮りやがれ!!」
カシャッ
と俺は写真を撮った。
「ありがとうございます! いやぁ…マジでイケメンすぎるわ!!」
はい、消去。
演技とはいえ、こんな奴の写真を撮るのはキツイわ。
よし、そろそろ本題に移るか。




