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モブが愛したツンデレ令嬢~異世界配信したら最強のリスナーがついて助かってる~  作者: 白神ブナ
第5章 俺はモブじゃねえ、スパダリだ

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第61話 俺の家とマリアン

 俺は、家の玄関を開けた。


「ただいまー」


廊下からリビングを覗くが誰もいない。

母さんは買い物にでも行ったのか?

階段を上って、自分の部屋のドアを開けた。


「あら、おかえりなさーい」


マリアンが俺のベッドに寝そべりながらスマホをいじっていた。


「なんだ、来てたのか。母さんは?」


「お母様はお買い物ですわ。『ちょっと買い物に行ってくるから、マリアンちゃん部屋で待ってて』と、言われましたの」


マリアンはスマホを見たまま、俺のことなど気にも留めずに答えた。

こんな光景を見たら、堀田は卒倒するだろうな。


「部屋って、俺の部屋とは限らないだろ。リビングでもいいんだぞ?」


と、マリアンに溜め息混じりに伝えた。


「あ、そうそう。お母様、お弁当間違えてらしたわね。わたくしはもうお弁当箱を洗ったから、あとはあなたの分だけですわ。出しておいていただければ、あとで洗っておきます」


俺の話は、お前の頭の中で洗われて原型無くなったのか?

うまく弁当の話に話題をすり替えられた。

はぁ、と今度は大きく溜め息を吐く。


「いいよ、自分で洗うから。ってか、マリアンには俺の弁当の量だと多かっただろ?」


話を聞かないのはいつものこと、と諦め、話題を変えた。


「あ、お友達と分けたから、大丈夫ですわ」


意外な言葉に驚いた。


「友達って……できたのか?」


マリアンは、ずいぶんと変わり者だから、打ち解けるまで時間がかかるんじゃないかと思っていた。

だが、それは心配しすぎだったみたいだな。


まぁ『人前では』お淑やかで人当たりが良く、可愛らしいお嬢様をやっているからな。

当然っちゃ当然か。

『人前では』な。


マリアンはスマホを置いて、頬杖をつきながら俺の顔を覗き込んだ。


「あら、気になります? 女の友達ですから安心なさって」


マリアンお嬢様が、また都合よく勘違いされておられる。

これもいつものこと。

相変わらず自意識過剰なことで……

別に安心なんて……してないんだからね!


「別に気にしてねーよ」


マリアンに悟られないように、素っ気なく返した。

いや、本当は悟られてもいいんだよ? 何もないからね?

でもほら…何か…うん! あれだよあれ!……わかるだろ?


マリアンは再びスマホをいじり始めた。


「あ、今日、廊下歩いていましたわね」


一人で言い訳をしていると、また話を変えられた。


「廊下ぐらい歩くよ」


マリアンも堀田みたいなことを言うな。


「あの時ね、お母様が弁当を間違えていたわねって、言いたくって、うずうずしちゃいましたわ」


そんなうずくことでもないだろうに。

まぁ、俺は量が足りなくて、何か食わせろってお腹がうずうずしてたけどな!


「気をつけろよ? 学校では他人のふりって約束だからな」


俺の話を聞いているのかいないのか、マリアンはずっとスマホを見ている。


「お前、生徒会に入るのか?」


ベッドでゴロゴロしているビビアンを見つめ、ふと聞いてみる。


「あら、よくご存じですこと。情報が早いですわね」


入ることは決定したのか?

俺はマリアンに、注意を促した。


「もし入るなら、学校にはお前のファンが結構いるから、いろいろと情報は拡散されやすい。気をつけろ」


俺はストーカー堀田を思い浮かべた。


「はーい」


この返事。

絶対聞いていないな。


「そんなことより、今度の修学旅行に行く場所を検索していたんですけど、ユニオンランドって素敵なところですわね」


ほら、俺の話を軽く聞き流した。

そんなことってなんだよ、まったく。


しかし、いつものことだと思えてしまう。

慣れとは恐ろしいものだ。


ちなみに、俺たちの修学旅行は一週間後に控えていた。


一日目が奈良で歴史のお勉強……興味ない。

二日目は京都で歴史のお勉強と自由行動、しかし自由行動の時間は短め。

三日目に大阪で、終日テーマパーク・ユニオンランドを楽しむという超嬉しい予定。

四日目に大阪を軽く観光して帰宅。


修学旅行はグループ行動が主で、

まだ友達がいないマリアンは、不安になるのではないかと心配していた。

が、コミュ力お化けのお嬢様は、そんな俺の心配なんかどこ吹く風のようだ。

すでに友達も作り、今はユニオンランドの動画に夢中になっている。


「この建物は、わたくしのお屋敷と似ていますわ」


マリアンが、動画を見ながら呟いた。


「あぁ、そうだな」


後ろから動画を覗き、俺は軽く相槌を打った。


「それから、このパレードの後ろの方で踊っている方……お父様にそっくりだと思いません?」


マリアンがスマホを、俺の顔の前に持ってきて指差した。

指の先を見ると、

ヴァンパイアのボスらしき男が、中世ヨーロッパ風の服装でマントを羽織って、キレッキレのダンスを披露していた。


「俺は、オラエノ伯爵の下でフットマンしてただけだし、最後は睨まれて終わったからな。よくわかんねー。まぁ言われてみれば、背格好とかそうかも……」


最後に仕事をクビになった日のことを思い出した。


「わたくしもこんな風に踊ってみたいわ。それに、ここに行けばこのお父様みたいな方に会えるのね」


マリアンは目をキラキラさせて動画を眺めている。


「……あー、会うのは無理だな。そのパレードは夜だから、その前に集合時間になって無理」


俺はパレードの時間を検索して、そう教えた。


「あら…そうですの……残念ですわ」


マリアンは、心底残念そうにうつむいた。

可哀そうだが、学校の団体行動ってやつは、時間厳守だからしょうがない。

何とかしてやりたいが、こればっかりは難しすぎる。




 そんなことを考えていると、下から母さんの声がした。


「マリアンちゃん、ただいまー。マナブもいるの?」


ドサッと荷物を置く音がした。

どんだけ買い込んできたんだよ。


「わーい、お姉ちゃんだー」


どうやら、俺の年の離れた弟も、買い物について行っていたようだ。

弟は、帰ってくるなり階段をダダダダッと駆けのぼってきて、いきなりドアを開けた。


「マリ姉ちゃん、こんちわー」


弟よ、俺におかえり、はないのか?


「おい、部屋に入るときはノックをする!」


俺は、元気よく飛び込んできた弟を注意した。


「はーい」


弟は、よくマリアンに懐いていて、母さんもマリアンを娘のように可愛がっている。


「今日はコロッケ作るから、マリアンちゃんも手伝ってくれる?」


当然のように手伝いを頼む母さん。


「母さん、マリアンは家政婦じゃないんだぞ。お向かいのセバスワルドさんに、ちゃんと断りを入れてだな……」


と、言っている途中でマリアンに割り込まれた。


「はい、喜んでお母様。ついでと言っては何ですが、アルケナも一緒に、コロッケ作りを手伝わせていただいてよろしいかしら? レパートリーをいろいろ増やしたいそうで」


みんなして俺の扱い、ひどくない?


「マナブ、ほらね。マリアンちゃんはわかっているのよ。家政婦じゃなくて嫁よね!」


母さんの突然の一言に


「違っ……!」


と、全力で焦ってしまう俺。


「兄ちゃん、顔赤いよ。お熱あるの?」


弟よ……

こういう時だけ、真っ先に拾わなくていいんだぞ?




 こんなやりとりをした後、父さんが帰ってきた。

結局夕飯は、元マリアンのメイドのアルケナさんだけでなく、元副執事のセバスワルドさんも合流して、にぎやかな食卓になった。


「大森さま、お招きいただきありがとうございます。今日は、ちょっと上物を手に入れましてね……」


セバスワルドさんは、手に持ったボトルを少し上げてみせた。


「ほう! これはずいぶん良いワインを手に入れましたね! わたしも今日はつまみを仕入れたんですよ! さぁさぁ、こちらへ!」


酒飲みコンビがいつものように仲良く席に着いた。

セバスワルドさんが、わりとお酒がいける口とは、以前は知らなかった。

こっちの世界では、父さんのいい飲み友になっている。


俺は異世界のマリアンのお屋敷で、使用人として働いていたから、料理運びは自然に俺の仕事になった。


「アルケナさん、お料理上手だわぁ。さすが元メイドさんね! 手際もいいし、セバスワルドさんも幸せ者ね」


少しすると、そんな話をしながら、料理を持った母さんとアルケナさんが、台所から料理を運んで来た。


「あ、いえ、まぁ……」


母さんのストレートな物言いに、アルケナは恥ずかしそうに照れている。



そんな中、俺は、先ほどのマリアンとのやり取りを思い出した。

こんな賑やかな家族と一緒に過ごしているからか、俺はマリアンの家族のことなんて考えもしなかった。


散々いろいろ言ってきたオラエノ伯爵は、あまりいい父親ではなかったのは事実だ。

しかし、それでも父親は父親。


家を出たとはいえ、向こうにいればどこかで会う機会もあったかもしれない。

しかし突然、マリアンはこっちの世界に転移して、父親とは別れの挨拶も出来ずに、今生の別れとなってしまった。

今でも思わない日はないのかもしれない。


寂しそうな、悲しそうな、そんな複雑な表情をしていたマリアン。

だが、彼女はそんな気持ちを決して言葉にはしない。


強がりは相変わらずだ。

なんとか会わせてやりたいが……


などと考えている俺の思いも知らずに、

今のマリアンときたら、


「よろしくって? ここでこうやって回って、右、右、右、左、左、左、ジャンプ!」


ネット動画で見たゾンビ・デ・ダンスを弟に教えている。

もう覚えたのか。

さすが才女、覚えが早い。


……寂しそうとか、俺の気のせいだったか?


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