第59話 再会した直後におしかけられた話する?
「あなたにわたくしが守れますの?」
「大丈夫。俺、TUEEEE系だから」
異世界から帰還した俺と、日本に逆転移してきたツンデレ令嬢マリアンは、
やっと現代日本で再会した喜びでいっぱいだった。
道路の真ん中で抱き合いながら、俺たちを今まで応援してくれたリスナーさんに感謝していた。
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周囲の目に気が付いたのは、小さな男の子の声を聞いてからだ。
「ママー、あのお兄ちゃんたち道路の真ん中で何してるのー?」
その声がしたほうを振り向くと、
「見ちゃいけません!!」
若いお母さんが男の子の目を手で覆い、現場から引き離そうとしている姿が見えた。
その人たち以外にも、道行く人の視線は俺たちに集まっていて……
そこで、俺はふと我に返った。
「なに道路の真ん中で抱きついてんだよ! ここじゃ、人目について目立つだろが。俺の部屋に行くぞ」
通行人の視線が背中に刺さる。
もう刺さるどころか切り刻まれるレベル。
通行人は全員、呪いの王の技を使えるのか?
背中の傷は剣士の恥なので、早々にこの場を離脱する選択をする。
感動的な再会シーンを数十秒で終わらせて、余韻に浸る間もなく、マリアンの手を取って家に入った。
玄関の戸を閉めると、その音を聞きつけたのか、
台所の奥の方から、マリアン二号…もとい母さんが襲来した。
パターン青…使徒です!!
これはめんどくさくなりそうだ。
「何よ、マナブ、急に家を飛び出したと思ったら、もう帰ってきて。何かあった?」
母さんは、夕飯の支度をしていたらしい。
エプロンで手を拭きながらやってきて、マリアンを見て驚いていた。
「あら、あなた。さっき道で倒れていたお嬢さんね。あんたたち知り合いだったの?」
は? それこっちのセリフなんですが!?
「あらぁ、お母様でしたの? はじめまして、わたくしマリアン・オラエノと申します。またお会いできて光栄です。」
マリアンはドレスを両手で広げうやうやしく礼をして続けた。
「向こうの世界では、息子さんにいろいろとお世話になりまして……」
俺にお世話されていた自覚が、マリアンにあったのには驚きだったが、異世界に行った話は誰にもしていない。
そんな話をしても、信じてもらえないどころか、痛い子認定されて、卒業まであだ名は『異世界くん』で確定だろう。
「向こうの世界?」
母さんはキョトンとした顔をして聞き返す。
まぁそういう反応になりますよね。
余計なことを言わないように後で言っておかないとな。
「あー、前のバイト先の名前だよ。ファミレス異世界。ってか、母さんはマリアンを知っていたのか? 道で倒れていたって?」
母さんの話によると、
さっき買い物に行こうと家を出たら、道路の真ん中でマリアンが倒れていて
心配で駆け寄って声をかけたそうだ。
すぐに彼女の意識は戻り、意識もはっきりしていたから、
大丈夫そうだと思って、そのまま買い物へ行ったのだという。
お人形さんのように、綺麗で可愛いと思ったなどと、余計な感想も聞かされた。
まさか、第一村人が母さんになるとは……なんという強運。
世の中は広いようでいて狭い。
とりあえず、マリアンが余計な事を言う前に、俺の部屋に連れて行かないと。
「ちょっと汚いけど、俺の部屋へ行くか。あ、靴は脱ぐんだよ、靴は」
土足で家に上がろうとしたマリアンに注意すると、
「マナブあんた! お客様にむかってなんて乱暴な言い方するの。ごめんなさいね、マリアンちゃん、ガサツな息子で……」
そんな乱暴な言い方してなくね!?
「いえ、慣れていますから、大丈夫です」
マリアンはハイヒールを脱ぎながら、そう言って笑顔で答えた。
「あら、慣れてるだなんて、マリアンちゃんったら。もし、また何か言われたら、ぶっ飛ばしちゃっていいからね?」
おい、実の息子をぶっ飛ばさせるなよ。
それと言っておくが……マリアンはマジでやるぞ?
これ以上、母さんに介入されると、話がややこしくなる。
一刻も早くこの一号と二号を引き離さなくては!
「母さん、もういいから。茶でも出して」
無難な理由を作り、母さんをマリアンから遠ざけようとしてみる。
「お茶って煎茶でいいの? コーヒーとか紅茶とか……」
くっ、まだ引かないか!
「なんでもいいから!」
もう、強硬手段に出るしかなくなる俺。
「はいはい。じゃ、マリアンちゃん、ゆっくりしていってね」
母さんはニコッと笑顔を見せ、台所に戻っていった。
母さんはずーっと以前から、可愛い娘とお話したり、ショッピング行ったりしたいって言っていたからなぁ。
だから、早く彼女を作って連れてこいと……
モテなくて悪かったな。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
と、答えるマリアン。
君はいつも、遠慮なんてしないだろ。
というのは心の声に留めておき、そのまま階段を上って俺の部屋に連れて行った。
「狭くてごちゃごちゃした部屋ね」
と、先制攻撃を仕掛けてきた。
ふっ、そんなこと俺が一番よく知ってるぜ。
……なんだか悲しくなってきた。
「『あなたのいた国とは違いますわ』って、俺が君に言われた言葉、そのまま返してやるよ」
俺が言った言葉にマリアンは笑った。
「あら、出会った時のこと覚えてらっしゃるなんて、嬉しいですわ。ふふふ」
笑顔は相変わらず、きゃわいんだが。
数日会わなかっただけなのに、すごく懐かしく感じる。
「ところで、どうして向かいのマンションなんかにいたんだ?」
「女神ジョイさまの計らいで、セバスワルドとアルケナもここに転移してきましたの」
「なに? 来たのはマリアンだけじゃなかったと言う事か。なんというご都合主義」
「ええ、金貨が入った袋を三つ持って……それを換金して、セバスワルドが、あのマンションの一室を買いましたの」
「ご都合主義すぎる……。すると、マリアンはあのマンションに住んでいたということか。どうりで、探しても見つからなかったはずだ……」
「でも、モブさんの家がここなら、わたくしここに住みますわ」
「おい、勝手に決めるな。 そんな……マリアンの家みたいに、ここは広くないんだからな」
「えー!? あなたと住みたいですわ。あっちの世界では、ひとつ屋根の下で暮らした仲じゃありませんか」
「いや、いや、ひとつ屋根のひとつの規模が違いすぎるから……。それに、俺の親が何ていうかわからないじゃないか。だいたい、年ごろの女の子がぁ?
そんな簡単に、息子と住むことを許すはずがない」
「大丈夫。わたしは、モブさんがやってくださったように、この家の仕事をしますから」
「いや、俺んちは、アルバイト料なんか支払えないぞ、たぶん」
「お願い。ここに居させて♡」
マリアンの甘い誘惑の瞳に、俺は吸い込まれそうになり、思わず顔を近づけた。
マリアンの唇までの距離、あと数センチ……
その時、突然、部屋のドアが開いて、母さんがお茶を持って入ってきた。
「マナブー、お茶持って、……あ、…お邪魔だったわねぇ。ここに置いとくから、どうぞごゆっくりー」
俺は、慌てて母さんに言った。
「誤解だーー!!!」
と叫ぶ俺に、
「ここ二階ですわよ?」
という、マリアンからの天然ボケが飛んできた。




