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モブが愛したツンデレ令嬢~異世界配信したら最強のリスナーがついて助かってる~  作者: 白神ブナ
第4章 爆ぜろリア充

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第54話 爆ぜろリア充

「うぅっ……うっ、うっ、うっ」


誰かが泣いている。


俺は死んだのか?


そっと瞼を上げると、美しく茜色に染まった空が目に飛び込んできた。

流れる雲を目で追いかけていると、全身に痛みが走った。

痛い……どうやら俺は生きているらしい。


あの戦いからどれくらい時間が経ったんだ。

それにしても、なんだか温かくてフワフワしたものに包まれているようだが。

なんだか、すごく気持ちが良くて安心する。


「やっぱり、あのとき、何が何でも反対すればよかった。わたくしのせいですわ……

わたくしが最後の配信をしたいなんて言ったから、あなたは……」


マリアンの声が近いんだけど……

なんなら、俺の顔の上から聞こえているんだけど。


……もしかして俺、マリアンに抱きしめられているのか!?

すると、この温もりはマリアンの!? OPPAI !

夢みたいだ! マジかよ、このまま死んでしまってもいい。


いや、それはダメだ!

できれば、死なないでずっとこのまま、マリアンの声と温もりを堪能していたい!

身体中痛いことだし……

もうちょっとだけ、このまま死んだフリをしていても罪にはならないよな?


俺は再び目を閉じた。



「マナブさん! 目を開けてください!!!」


マナブ……!?

言えているじゃないか、俺の名前。

初めて俺の名前を呼んでくれた!?


だが、ここで反応してはいけない。

死んだふり、死んだふり……

そう思いながらも俺の顔は、自然とニヤけてしまう。

耐えようとすればするほど、唇の端がピクピクしてしまう。



「女神さまが間違えて、あなたをこの世界に召喚したと言っていましたけど、もし、女神様が間違えなかったら、あなたがここで命を落とすことはなかった。いいえ、そうじゃないですわ。もし、わたしがあなたを拾わなかったら、あなたはすぐに元居た世界に帰るつもりだったのでしょう?

そうですわ、拾わなければよかったのよ。

わたくしじゃなくて、真っすぐギルドへ行っていれば、ここで死ぬことはなかったのに」



そのマリアンの言葉を聞いた瞬間、


「ちょっ、ちょっと待て。拾わなければよかったって何んだよ」


俺は我慢できずに、思わず反応してしまった。

マリアンは驚いて俺から手を離し、俺の身体は地面に落ちた。


「痛っ! 何すんだよ!」


俺は頭をさすりながら、痛む身体をゆっくりと起こした。


「あなた、生きて…… まさか、お化けじゃないですよね? え? え? いつから目を覚ましていたのですか? まさか……聞いていましたの?」


マリアンは困ったような、気まずそうな表情で聞いてきた。


「お化けじゃねぇよ。何か、聞かれたら困る話でもしていたのか?」


話は全部聞いていたが……

一応、聞かれて困る部分を再確認したい。


ドラゴンとの戦いを配信するって言って、俺に付いてきたことへの懺悔か?

それとも、元の世界に戻りたいと言った俺を、止めなかったことへの後悔か?

それとも、実は俺の本名をちゃんと発音できるくせに、今まで言えないふりをしてきたことか?


いったい、どの話のことなんだ。

俺にとっては、全部嬉しいことでしかなかったけどな。

まぁ、『拾わなければよかった』は、激おこだが。


「いいえ、何でもございませんわ。狸寝入りとはいい根性をしておりますこと」


マリアンの態度がいつも通りに戻った。


「狸だと!? この俺をモブから狸に降格させる気か。失礼だな、せめて犬にしてくれ」


まぁ、犬寝入りなんて言葉、知らないが。


「あーはい、はい、失礼いたしました。野良犬大魔王さま」


「……」


そんな軽い言い合いをした後、しばらく沈黙が続いた。

まさか、またこんな風に話せるとは思ってなかったし、

安心しすぎて、何を話していいかわからないじゃないか。


マリアンの様子をチラッと伺うと、明後日の方向きながら、恥ずかしそうにしている。

きっと、俺と同じようなことを考えているのだろうと察した。


お互いがモジモジとしている中、

沈黙を破ったのはマリアンだった。



「あー…ま、まぁ、あなたから回復薬をいただいた後から、スっと意識が飛んでしまって、その後のことは、正直言うとわかりませんの。とりあえず、お互い無事でよかったですわね。ドラゴンに逃げられたのは残念でしたけど」


「はぁ? マリアン、何も見ていなかったのか」


「仕方ありませんわ。またドラゴン探しからやり直し……それとも、元居た世界に帰るのを諦めるかですわね。ドラゴンが、この近くにまだ居ればいいんですけどねー」


俺の命がけのドラゴン戦を……、マリアンは見ていなかったのか。

軽くショックだ。

俺は、一体なんのために戦っていたんだ。

マリアンに最高の戦闘シーンをプレゼントするためだったのに。

俺の超絶かっこいい姿を見ていなかったとは……


マリアンは気を失っていた。

それなら、何も知らないのも無理はない。


いっそのこと、このまま何も言わないで、もう少しマリアンとの時間を過ごすのも悪くないかもな。

でも、それは、リスナーさんに失礼だ。

俺の口から事実を知るよりも、リスナーさんから聞いた方が、マリアンは、事実を受け入れるかもしれない。

そう思って、俺はマリアンの後ろの方を指さした。


「聞いてみれば? リスナーさんが一部始終を見ていたはずだ」


マリアンはその指の先へ視線を移した。

そこには、傾いた太陽を反射させているスマホが空中に浮いていた。

今もマリアンを【追尾】し、配信は続いていた。

マリアンは、スマホまで駆け寄り、リスナーさんに挨拶をした。


俺は、こっそりとコメント欄を空中に映して、マリアンとのやりとりをのぞき見しようとした。

コメント欄は映し出されたけど、のぞき見とは変だよな。

これは、配信マネージャーとしての、コメント欄確認。

あくまでも、業務だ。



“うわー! マリアン、回復してよかった!”

“悔しいけど、モブを抱きしめていた画像。絵になってた”

“大丈夫? モブがドラゴンをやっつけたんだよ”

“いや、正確には、俺たちとモブがドラゴンと戦ったんだ”

“そう、そう、ドラゴンの背中の上に、巨大なハンマーごとモブは落下してた”

“そのせいで、ドラゴンはクリスタルを吐き出したんだよ”

“そこへ、俺たちがモブに爆弾を送った”

“モブは爆弾をドラゴンの口めがけて投げたんだよ”

“ドラゴンは爆破された”

“モブも吹き飛ばされて倒れていたら、そこへマリアンがやって来たってわけ”



「そ、そうなの……、クリスタルを手に入れたのね」



“モブは自分の人生は自分で決めるってさ”

“マリアンのために、この戦闘の配信を見せてやろうぜ、なんて言ってたけど”

“勝手な奴だよな。マリアンが悲しむかもしれないのに”



「皆さんで、戦ってくれたんですね。ありがとうございます」



“めっっっっっちゃ嫌だったけど、マリアンのために助けてやったよww”

“そうそうw いろいろアイテムを送ったのはマリアンのためだからな!”

“さっきは、まるで映画のワンシーンのようで素敵でした///”

“ほんとに!全俺が泣いた!!”



「ドラゴンからクリスタルを取り出せたのも、彼の命を救ったのも、スマホで応援してくださったリスナーさんのお蔭なのですね」



“ほんとに! 全俺が泣いた!! 俺たち、余計なことをしたかな”

“マリアン、残念? 悲しい?”



「いいえ、ちっとも。彼が幸せなら、わたくしも幸せですから」



“泣ける”

“マリアン、きちんとモブには伝えた方がいいぞ。本当の気持ち”



「ええ」


マリアンは、カメラに向かって笑顔でそう言うと、俺がいるところまで戻って来た。



「全部、聞きましてよ。持っているんですって? クリスタル」


「お、おう。ま、まあな」


「じゃ、もう決まりね」


「ああ」


俺は何気なく、コメント欄に目をやった。



“爆ぜろリア充……バルス!!!”

“せっかく無事なのに滅びろとww”

“さっき、マジで爆ぜたばっかりじゃんww”



スマホのカメラから、俺たちはそんな風に映っているのか。

そんなにリア充な感じに見えていた?


自分でも、外から見た様子を妄想してみた。

ヤバい、妄想だけでもかなりハズイ。


「ちょっと、コメント欄を見ているでしょ。わたくしにも、何が書かれているか教えなさい」


マリアンの声に、俺はビクッと肩を揺らし


「べ、別に、何も書かれていねーよ! とにかくこれで帰る準備はできた。そろそろ始めるぞ」


そう答えて、俺はマリアンから顔を背けた。





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