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モブが愛したツンデレ令嬢~異世界配信したら最強のリスナーがついて助かってる~  作者: 白神ブナ
第3章 人気配信クエスト企画

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第32話 お願いのガゼボ

 配信の終了のメッセージも送らず、俺は配信をいきなり切った。

とにかく今は、いきなり部屋を飛び出して行ったマリアンを追いかける方が最優先。


アルケナは部屋のドアまで駆けて来て叫んだ。


「モブさん、お嬢様はおそらく……」


「わかってる。見当はついているから……」


俺は階段を駆け足で降りて、中庭へ向かった。

マリアンがこんな時に逃げ込むのは、たぶん、あの場所だ。




 思った通りだ。

中庭のガゼボに、マリアンがうずくまっている姿が見えた。

俺は、ゆっくりと近づきながら、呼吸を整えた。



「こんなところで何してんだよ。ミミズでも掘ってるのか?」


「……」


「いつまで怒ってんだよ。可愛い顔が台無しだぞ」


「嘘、可愛いなんて思っていないくせに」


「だよなぁ。……ほら、これで涙を拭けよ」


俺は、マリアンにハンカチを差し出した。

マリアンはそれで目元を押さえながら、言った。


「前にここで待ち合わせした時は、あなた、配信切り忘れていましたわよね」


「ああ、そうだ。でも、今回はお前が配信を投げ出した」


「はぁ? 投げ出していません! ちゃんと最後のあいさつしましたぁ。

何よ、追いかけて来てハンカチを差し出したくせに、乙女の気持ちがぱっかーんですわ。まったく、相変わらず生意気な言葉使いですこと。私に向かって、無礼な発言を重ねるなんて……。さっきまで素敵な空想をしていた自分が恥ずかしいわ。

来ていきなり、わたくしをバカにするなんて、あなたも偉くなったものね。

私を怒らせたら怖いんですのよ? どうやらわかっていないようですわね!」


喋るわ喋る。

おやおや、ここまで喋れたら心配はいらないようだ。


「お前さぁ、いろいろ誤解するやつもいるんだから、ちょっとは空気読め。真っ昼間にガゼボに二人でいたら、目立つし誤解もされるだろ」


「空気を読まないのはどちらかしら? もういいですわ! そんなの誤解させておけばいいんですの。あなたに相談しようとしたわたくしが愚かでした! 

最終兵器を使うしかありませんわね。あなたは明日からご飯抜きです」


「申し訳ございませんでした。許してください。俺が悪かったです。ごめんなさい」


……ほぼ光の速さで謝罪したのは、俺は初めてだ。

でもないか。


「何それ、心がこもってないわ」


「……た、大変申し訳ございませんでした。マリアンお嬢様」


「別に、よろしくってよ。」


マリアンはニッコリと笑って返してくれた。


「で? さっきの企画は? 本気でやろうとしているのか?」


「一瞬でいつもの生意気な態度に戻るんですね、モブさんったら。一応、あなたの意見も聞かなくちゃと思っておりますのに」


「まあ、スマホの持ち主は俺だからな。だが、ギルドへ行ってどうするつもりだ。だいたい令嬢という立場で、冒険者登録する必要性はないし、配信したいという理由で戦うなんて無謀だ。やめとけ。」


「あなたはそうおっしゃりますが、わたくし本気ですのよ? この家でイライラして縮こまっているよりも、冒険やクエストを伸び伸びとしてみたいの。それがどんなにつらくても、こことは違う環境で頑張ってみたいのよ。」


「というのは建前な。俺と一緒に冒険したいとか、配信の企画にしたいとか、本心をここで打ち明けられるわけがないもんな」


「ふぅん、そう。わかっているなら話は早いですわ。それもあるけど、それだけじゃありませんのよ?」


「それだけも何も……。忠告しておく。単なる気まぐれで冒険者登録なんてするな」


「仕方ありませんわね。わたくしお得意の切り札を使いましょう。

あなたがお休みだと聞いて、アルケナと一緒にクッキーを焼いてお渡ししましょうって話していたんですけどね。無駄でしたわ。その辺の野良犬にでもあげようかしら。わたくしが本気で冒険者登録したいと思っていても、その願いが叶えられないなんて、残念ですわ」


クッキー……久しく食べていない。


「……本当に困ったお嬢様だ。」


マリアンは青い瞳をウルッとさせ、目いっぱい輝かせてねだるように手を合わせた。


「お・ね・が・い♡」


挿絵(By みてみん)


あ、どストライク!

鼻血が……、


「いやん、こんなことまでして、わたくしったら。こんなこと、あなたにしかやらないんですのよ?」


当たり前だ。

そんなにあちこちでやられたら、俺が黙っちゃいねえ。


「登録の仕方だけだぞ。クエストは手伝わないからな。だからクッキーはください」


「ありがとうございます! 助かります。これで企画も出来て、クエストデート…じゃなくて! クエストもそのうちに」


「で、ちょっと確認なんだが……」


クエストもそのうちにと聞こえたが、まあそれは一旦、ここに置いておいて。


「まさか、そのヒラヒラしたドレスで、ギルドに行くつもりじゃないだろうな。」


「いけませんか? このドレスお気に入りですの。」


と、マリアンはスカートの裾をつまみ上げて、くるりと回って見せた。


「その格好で行ったら、君が伯爵令嬢だとバレるだろ? 噂が広まってしまったら、君の家族にも話が聞こえるんじゃないか?」


「そうねぇ、あなたの言い分はもっともだわ。でも、わたくしドレス以外持っていませんわ。どうしましょう。」


冒険登録者が、令嬢だとバレたら、俺もマリアンもこのお屋敷にはいられなくなるだろう。


「嫌じゃなかったら、俺の前の装備を貸してやる。それで変装してギルドへ行くといい。」


「それって、お古ってこと? 汗臭いということはないのかしら。臭いのは嫌ですけど、あなたの匂いに包まれるって素敵かも。あっ…私ってもしかして変た……違いますわ! 嫌ですけど、仕方ありませんわね。本当に嫌なんですけど、仕方なく……

そう! し・か・た・な・く、借りるしかありませんわね!」


マリアン、お前、臭いフェチなのか。

俺は半分呆れて、適当に返事をした。


「はい、はい」


「……ちなみにこの縦ロールの髪型もいけないかしら? わたくし、この髪が自慢なのですが」


「ダメに決まってるだろ? そんな髪型じゃ目立って仕方ない。」


何を考えているんだ。

いや、むしろ何も考えていないのか。


「そうですわよね。残念です」


マリアンは大きなため息をついた。

そして、何か考え込むようにしていたかと思ったら、


「ちなみに、一応、参考までに聞いておきたいんですが……ちょっと気になったことを聞くだけですの。何も深い意味はないんですのよ?」


「なんだよ、回りくどい!」


「どうでもいいことなんですけどね……?」


と、時間だけが無駄に過ぎていった。


「早く言えよ」


「いいですわ! この(自称)冒険者マリアン・オラエノ、逃げも隠れもしませんわ。

聞きたいことくらい、サッと聞いてさしあげましょう!」


「だ・か・らー」


「か、かかか、髪型を変えるとして、あなたはどんな髪型がお好みかしりゃ?」


ん? マリアン今、思い切り噛んだ?


「はぁ? しょうもないこと聞くなよ。」


「しょうもないですって? こんなに頑張ったのに、しょうもないって言ったぁーーーー!?」


「わかっているかと、思ってたんだ」


「え? そういえば、あなたが設定したわたくしのアイコンは、好きなゲームキャラクターだと言っていましたわね? では、それを参考にさせていただきますわ。それくらいならよろしいでしょ?」


「ツインテールにするってことか?……好きにしろ」


俺は怒ったように言い返しながら、自分の顔が熱くなるのがわかった。

それをマリアンに見られまいとして、明後日の方を向いていた。


このお嬢様は、どう暴走するかわかったもんじゃない。

しょうがないな、俺がギルドの受付でうまくやることにするか。

一応、お世話係だしな。


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