表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブが愛したツンデレ令嬢~異世界配信したら最強のリスナーがついて助かってる~  作者: 白神ブナ
第2章 リスナーさん最強説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/81

第18話 オラエノ伯爵と妹ジレーナ

 オラエノ邸に戻って来ると、セバスワルドは馬車から降りながら、俺に指示した。


「もう旦那様はおかえりのようです。モブさんは、急いでタキシードに着替えてテーブルセッティングしてください。わたくしは、旦那様と執事のところへ行きます」


「俺は、旦那様に挨拶しなくていいんですか?」


「使用人からの挨拶は不要です。とにかく急いで、いつもの業務に取り掛かってください」


屋敷の勝手口から入ると、セバスワルドは速足で伯爵の元へと向かった。

俺は使用人部屋に入って、タキシードをクローゼットから出す。


「フットマン、お疲れさま。君の靴を磨いておいたよ」


ボーイがピカピカになった俺の靴を手渡して言った。

ファミレスの制服で転移してよかったと、この時ほど強く思ったことはない。

何故なら、日本から履いてきたのはスニーカーではなく、黒い靴だったからだ。


「ありがとう、えっと、君はファーストだっけ?」


「僕はセカンドだ。ややこしいだろうから、ボーイでいいよ。さぁ、急いでいるんだろ。お礼なんかいいから早く着替えなよ」


「サンキュ」


ボーイが部屋から出て行くのを確認してから、俺はスマホを取り出してSiriに話しかけた。


「収納魔法って使える? 剣をしまいたい」


「収納画面を開きます」


空中にゲームのアイテムボックスのような映像が出て、そこに俺は剣を収納し、×印をタップして閉じた。

思い付きでやってみただけだったが、意外にもこのスマホは俺の空想が現実化するようだ。

いやぁ、思った以上に便利、便利。



挿絵(By みてみん)



 夕食の給仕に就いた。

食堂にはあの日サットガ邸のバルコニーで見たお父様であるオラエノ伯爵と、妹のジレーナが現れた。

伯爵の横に付き添って席に案内している男が執事らしい。

背が高く黒髪で目つきの鋭い紳士だ。

セバスワルドは、副執事としてジレーナの席を案内し、椅子を引いて座るのをサポートしていた。


「マリアンはどうした」


マリアンの父であるオラエノ伯爵は、長女マリアンが食堂に姿を見せないことを心配した。

セバスワルドがマリアンの様子を説明する。


「マリアンお嬢様は、お食事はお部屋でとるそうです」


「そうか。今回の件で心を痛めているだろうが、食事くらい顔を出したらどうなんだ」


「傷が癒えるには、もう少しお時間が必要かと存じます」


セバスワルドはマリアンを思いやっていた。


「妻が生きていれば、どうやって娘のマリアンを慰めたであろう。わしには娘の扱い方がよくわからん」


俺は、食器を並べながら伯爵の話に耳を傾けていた。

そういえば、マリアンのお母さんって見たことが無いし、話にも出て来ない。

亡くなっていたのか。


「また、お母さまのお話ね。嫌だわ。わたしを産んですぐ亡くなってしまったお母さまなんて、わたしの記憶には存在いたしません。つまらないわ、お父様のそういう話」


「ジレーナ、すまなかった。お前にも寂しい思いをさせてしまったな」


「お姉さまがお部屋から出て来ないのは、わたしのせいですわ。今回の婚約でわたしのことを、お姉さまは憎んでらっしゃるのだわ」


「そんなことがあるはずない。お前たちは姉妹ではないか。マリアンだって、時間が経てば部屋から出てくるだろう」


「別に、わたしはお姉さまにずっと引きこもっていただいても、よろしくてよ」


「ジレーナ、そう言うな。お前もマリアンもわしにとっては大事な娘なのだから」


そう言いながら、この伯爵は末娘のジレーナの話術にはまっていることにすら気が付いていない様子だ。

末娘が可愛くてしょうがないのだろう。


料理を給仕しながら、俺はこの家族の歪みを薄々感じとっていた。

婚約破棄された娘を、傷心しきっていると心配する父。

婚約破棄された姉を、傷心してこのまま部屋から出なければいいのにと願う妹。

俺の知る限り、父も妹も予想を外している。

実際は、マリアンはいたって元気なんだが。



 給仕の途中で、キッチン側に戻ると執事が俺を待っていた。

執事は鋭い視線で俺を下から上まで舐めるように見回すと、こう言った。


「新しいフットマンかね」


「はい、よろしくお願いします」


「ワインをサービスするのはわたくしの仕事ですから、君はここで待機してください」


「承知いたしました」


へえ、そんなものなんだ。初めて知る貴族の執事の世界。

ポカンと口をあけながら、執事のワインをサービスする所作を眺めていた。

無駄がない。所作がかっこいい。

セバスワルドは、既に次の料理の給仕に取り掛かっていた。


「モブさん、ボケっとしていないで空いた皿をさげてください」


「あ、はい。すみません」


俺はテーブルに並んだ食器の状態を確認しながら、空いた皿を回収しはじめた。

ジレーナの前の皿で、お伺いを立てた。


「こちらの皿は、おさげしてよろしいでしょうか」


「ええ、お願い。…あら、あなた新人さんね。見たところ、背も高いし、オリエンタルな顔立ち、素敵なフットマンだこと」


突然、ジレーナは馴れ馴れしく俺の腕にすがりついてきた。


「あ、あの、ちょっ、近づきすぎ………」


大胆なジレーナは、まるで動揺している俺をからかっているようだ。

ジレーナのあまりの大胆さに、オラエノ伯爵は注意してきた。


「おいおい、ジレーナ。そんなところをホジネオノ様に見られたら、焼きもちを焼かれるぞ」


「だってぇ、素敵な方じゃない? このフットマンを採用したのはどなた?」


「恐れながら、わたくしでございます」


セバスワルドが、ジレーナに新しい皿を置きながら、軽く頭を下げた。


「かっこいいフットマンですわ。ねぇん、このフットマンをわたくしのお世話係にしてくださらない?」


「申し訳ございません。すでに仕事が決められておりまして、これ以上の仕事をこなすのは無理かと存じます」


「あら、そうなの? 残念。まさか、お姉さまのお世話係なんてことはないでしょうね」


ライバル意識バチバチのジレーナの勘は鋭かった。

セバスワルドは、一瞬だけ「うっ」と詰まったように見えた。


「マリアンお嬢様に、異国の言葉や慣習を教える仕事をさせています。婚約破棄から早く立ち直るためには、何か新しいことに夢中になるのが近道かと思いまして」


「あら、そ。お姉さまの教育係なの」


配信を教えているのだから、異国の教育というのは間違ってはいない。


「つまんなーい」


「これこれ、ジレーナ。婚約発表したばかりだぞ。あまり私を困らせるな。フットマンだって困っているじゃないか」


優しい、オラエノ侯爵! ナイスです。あざーっす!


「はーい、わかりましたぁ」


ジレーナは、やっと俺の腕から離れてくれた。

こんな妹と一緒に暮らすことの、マリアンのストレスがよくわかった。



 俺はやっと解放されて、キッチン・カウンターの前に戻ると、メイドのアルケナがやってきた。

何だ、今度はメイドからの告白シーンかなと勝手に妄想が膨らんだ。

いやいや、モテる男はつらいよ。

そんな俺の期待とは裏腹に、アルケナはマリアンからのメッセージだと言って、メモを渡してきた。

なんだ、告白じゃないのか。

そのメモを開くと


『ジレーナの誘惑に要注意! 夕食の給仕が終わったら配信します。スマホ持ってわたくしの部屋へ来ること!』


ジレーナの誘惑? まるで見ていたかのようにマリアンのメモには書かれていた。

そして、配信します、と。

やれやれ、人使いの荒いお嬢様だ。



お読みいただきありがとうございます。

「面白かった!」

と思ってくださったら

下にある★★★★★から、ぜひ、作品への応援お願いいたします。

あなたの応援が、白神ブナの今後の原動力になります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ