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モブが愛したツンデレ令嬢~異世界配信したら最強のリスナーがついて助かってる~  作者: 白神ブナ
第2章 リスナーさん最強説

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第15話 切り忘れたのは俺です

 これから俺の賄い食だというのに、このタイミングで俺を呼び出すなんて、まったくもって気まぐれお嬢様だな。

俺はセバスワルドの後ろに付きながら、廊下を歩いていた。


「今から配信するんですか? 今日はもういいんじゃないんですか?」


「配信ではないと思います」


「じゃ、何の用だろう」


「それは、お嬢様から直接お聞きください」


セバスワルドに導かれて、俺は廊下から中庭に出た。


「部屋に行くんじゃないですか」


「わたくしは、ここで失礼いたします」


「え、待って。マリアンはどこにいるんですか」


「あちらのガゼボでお待ちでございます。では…」


こんな夜に、女の子と二人きりで外で待ち合わせしていいのか。

しかも、セバスワルドは行ってしまうし……

俺が煩悩に負けたらどうするつもりだ。

そうなってしまったら、俺は速攻クビになるんじゃないのか?

とりあえず、ガゼボへ行くか。

平常心、平常心だ。


ガゼボの中には、マリアンが一人で待っていた。

メイドも付けないで、こんな暗い所でずっと待っていたのか。


「何の用? 俺忙しいんだけど」


心のドキドキとは裏腹に、

俺の口は、勝手に生意気な言い方をしてしまう。


「やだ、ドキドキしながら待っていて損したわ。その口のきき方は何? わたしのドキドキを返してちょうだい」


「知らねーよ。忙しいのに呼び出して、勝手にドキドキとか意味わかんねーし」


「忙しいことってなんですの? 今日、使用人になったばかりで」


「飯だけど? あんた、シチュー大盛りで、黒パン二枚つけるって言ったじゃないか。こんなにあったら大忙しだろ」


「呆れた。本当にお腹が空いた犬だったのね」


「だから、早く用件を言えよ」


「あの……配信していたら、リスナーの皆さまからアイコンないねとか、プロフィールないね、とか言われたので、作っていただきたいのですが…できますか?」


なんだ、愛の告白じゃないのか。

少しでも期待した俺がバカだった。

こんな態度しかとれない俺だが、実は煩悩と戦っていたんだからな。


「そんなことで呼んだのか? 俺の飯の時間に? だるっ! 面倒くさっ!」


つい、男友達にでも言うような口調で返してしまった。

しかし、マリアンは動揺も悲観もしない。


「あのね、いい知らせがございましてよ。お父様と妹は、今夜サットガ侯爵邸にお泊りだそうです。ですから、今日の夕食、お父様と妹の分が不要になります。ということは、あなたの態度次第では、食べ放題になると思いますの」


何! 食べ放題。

それなら、ボーイたちにもお腹いっぱい食わすことが出来るじゃないか。

俺の態度次第ってところが、気にはなるが。

そいう朗報は早く言ってくれ。


「わかった」


俺は、内心では大喜びながら、わざと面倒くさそうに、胸ポケットからスマホを出した。


……! スマホの画面を見て俺は青ざめた。

ここで、マリアンが動揺しないように、そっとマリアンを引き寄せて耳元でささやいた。


「悪い、驚かないでくれ」


マリアンは小さく「キャッ」と言って驚き、俺の腕の中で震えている。


「いいか、落ち着いて聞け。……実は配信中になってる」


マリアンは俺の顔を見て


「え?」


と声を上げてしまった。


いつからだ。

いつから配信を切り忘れていたんだ。


マリアンの部屋では、配信終了をきちんと確認したはずだ。

あと、スマホをいじっていたのは……、あ、使用人部屋だ。

配信画面を眺めながら、どうやってトップに入り込むか考えていた。

そのとき、ボーイに食事だと声をかけられて、慌てて胸ポケットにしまった。

まさか、まさか、あのボーイたちの裏話をすべて配信してしまったのか。

俺としたことが!


後悔しながら、嘘であってほしいともう一度、スマホの画面を見る。

おおおおおお、なんてこった。

次から次へとコメントが流れていく画面が目に入る。

入室者が百人を超えていた。


「ありえない。配信を始めたのは今日だよな? もう入室者が百人超えかよ」


「百人超えって、そんな凄いことですの?」




“初心者なら多くて十人とかじゃないかな?”

“初日で百人はすごすぎだと思うよー”

“使用人たちの裏話、おもしろかった!!”

“部室のおしゃべりみたいだったよね”

“配信マネージャーさんの声ってイケボです”

“渋いおじ様の声は執事かしら? ドストライクすぎて///”

“マネージャーもたいがいツンデレだよな”

“さっき、マリアンを引っ張った人ってマネージャーでしょ?”

“え! 何それ気が付かなかった、何してたの? まさかキス……とか?”

“リア充爆発しろ!”




配信が切れておらず、今までのことはダダ漏れだった様子。

それでも、ポケットに入れておいて音声のみで助かった。

もし、これで顔バレしていたら…、想像すると恐ろしい。


「嫌ですわ。何をぼーっとコメント読んでいますの! 切らなくてもいいの?」


「あんただって、読んでるじゃないか」


などと言い争いしている声も全て入っている。



“けんかはやめて~♪ 二人を止めて~♪”

“それ何かの曲?”

“あー誰かがカバーしてたの聴いたことあるー”

“状況がカオスすぎてww”

“めっちゃ、おもろいなこの配信w”

“こちらが異世界人と喧嘩する転移者の配信ですww”




この状況はまずい!

すぐに配信終了しないと!

バツボタンを押して

今度は間違いなく確認画面で同意!

無事に配信を…終了。


ふぅ~

いや、もうすでに無事ではない。

俺のミスだ。

マリアンに八つ当たりするのはお門違い。


「やっちまった。悪かったな」


「そんなに悪い事なんでしょうか」


ネット社会をご存じないお嬢様でよかったのか、いや悪かったのか。


「とにかく、さっさと頼まれたことを片付けるから……」


俺は配信アプリのプロフィール設定画面を開き、無言で入力し続けた。


「まさか、配信できないようにしているとかじゃないでしょうね。それだけはやめてちょうだい!」


「そんなことしねーよ。えーっと、アイコンはこれで、プロフは……これでいいか。はい、終わりました!」


俺は、マリアンに配信プロフィール画面を見せた。


「丸く切り取られた可愛い女の子の絵が、アイコンになっていますけど?

誰ですのこれ? どこからこんなかわいい女の子の絵が出てきたのよ。一体、どこの女!?」


さっきのさっきまで、配信が出来なくなるかもとビクビクしていたのに、マリアンはアイコンを見ると、ムッとなって追及してきた。


「そ、それは、俺が好きなゲームキャラクターだ。なんか、あんたに似てるからさ」


「この子が私に似ている? あなたにはわたくしがこんな可愛く映ってますの?」


急にモジモジしはじめたマリアン。

ヤバい、照れるこいつが可愛い過ぎる。


「じゃ、まだ飯の途中だから、これで!」


このままマリアンのそばにいたら、俺がなんとかなりそうで、気持ちを読まれないように背を向けた。


「まあ、わたくしよりも夕食のほうが大事なのかしら」


それには答えずに、俺はガゼボから廊下へと駆けていった。


「ちょっと、お待ちください! プロフィールは書いてくれたのかしら? それと、げぇむきゃらくたぁって何ですのー?」


マリアンは叫んでいたが、俺は聞こえないふりをした。

プロフィールは読めばわかるだろう。

俺の好きなゲームキャラのアイコンの下にはこう書いておいた。


『見た目だけはかわいい異世界の令嬢』


『だけ』だからな、『だけ』!


この配信切り忘れ事件があってから、結果、マリアンの配信はバズった。

マリアンは人気配信者への道を昇りはじめるのかもしれない。

だが、想定外の出来事も……、

まさか、配信マネージャーの俺まで人気が出るとは……


お読みいただきありがとうございます。

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