著者:三耳未見 「武士」
伝令「報告いたします! ただいま敵がおよそ一万の軍勢でわが砦に進行中! 今日明日には到着すると思われます!」
正孝「ほう。一万か。方正。」
方正「はっ。敵は一万。対してわが軍は三百。一般に、城攻めには十、二十倍もの戦力を用意すれば必勝と申されますれば、もはや我々に勝ち目はないかと。」
正孝「正次。」
正次「はい。うーんそうですねえ、まあ難しいでしょうなあ。逃げ道は一つ。負け戦につき、救援はあとひと月は望めないでしょう。殿たちだけでも逃げ延びるのが最善の策と存じますなあ。」
正孝「うむ。では、最後に正明。」
正明「われに策あり! ここは全軍をもって打って出ましょう! 大将首は我が物なり!」
方正「馬鹿が。」
正次「馬鹿だのう。」
正孝「馬鹿だな。全く、首狂いが。おぬしの策などいつもならばとらん。が、武士とは死ぬことと見つけたり。もはやここまで。最期は華々しく散るのみよ。」
正次「では、よろしいので?」
正孝「ああ。あとはバカ息子に任せよう。皆の者。覚悟ができておらん奴は、今すぐここから出ていくがよい。では、いざ出陣!」
兵士「おー!!!」
晴信「まさか、打って出てくるとはな」
信房「ええ、まさに武士の鑑でございますなあ」
晴信「いや、大名たるもの、泥かぶってでも、砂を食らってでも生きねばならぬ。正孝はおろかである。」