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96/202

*2

「あの時、小山田さんに素直にレンジくんのコースターをあげれば良かったんだけど、俺その頃、変に頑なだったっていうか、ムック本の魔術にかかってしまっていたというか、操られていたというか」


「はあ」


「とにかく嘘ついてごめん」


「いえ。大丈夫です。理由さえ教えていただければ、どうってことないです」


ニコリと小山田さんは笑った。


良かった。引かれてない。本当だ。小山田さんはそんな人じゃない。心が大海原のように広く、美しい。それに比べて俺は、姑息にも嘘なんてついて、ブナやコイを養殖してる池のように濁っている。(坂崎的卑屈)


自分がこんな素敵な小山田さんに釣り合うのか、そこで疑問を持ってしまった。


すると、小山田さんが突然俯く。


「?」


頬が紅潮してほんのりピンクだ。


今日はあの(変な)探偵の助手風の服ではなく、花柄のブラウスにミモザ色のガウチョパンツだ。こんなオシャレした小山田さん、いまだかつて見たことがない。


可愛いな。


「え……っとですね。そのぉ、今日お誘いしちゃってですね、大丈夫でしたか?」


「え? 大丈夫……だよ?」


「かかか課長のかかか彼女さんに、怒られてませんか?」


え?


どどどどういう意味?


「俺、か  の  じょ  なんて、い、いないけど」


いないよ! いない! と、威勢よく言い切りたいところなのに、驚きのあまり恐る恐るになっちまった! なんか怪しい感じになってしまったじゃないか!!


「「えっと……」」


声が揃う。あ、耳まで真っ赤。その真っ赤な耳に掛かっていた小山田さんの黒髪が、ぱらっとこぼれ落ちた。髪が小山田さんの横顔とまつ毛を隠してしまう。俺は慌てて、その髪に触れ、もう一度耳に掛けようとして。


どくっと心臓が鳴った。


その時。

思い出した。小山田さんは今、俺に恋人がいないかどうかを、確かめている。


『愛の成就ムック』にあった、あれか?


そういえば俺だって、確認したじゃないか。


それって、俺のこと気にしてくれてるってことだよね? 意識してくれてるってことだよね?


そう思うと、さらに胸がどどっと跳ねた。


真っ赤な横顔。UNOを持つ指の細さ、靴の爪先がチョリンとくっついてて、その何もかもが可愛い。


「小山田さん……」


指先が触れた黒髪を、そっと耳元へかけようと、覗き込んだとき。


「あれえ? 悠じゃん」

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