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「あの時、小山田さんに素直にレンジくんのコースターをあげれば良かったんだけど、俺その頃、変に頑なだったっていうか、ムック本の魔術にかかってしまっていたというか、操られていたというか」
「はあ」
「とにかく嘘ついてごめん」
「いえ。大丈夫です。理由さえ教えていただければ、どうってことないです」
ニコリと小山田さんは笑った。
良かった。引かれてない。本当だ。小山田さんはそんな人じゃない。心が大海原のように広く、美しい。それに比べて俺は、姑息にも嘘なんてついて、ブナやコイを養殖してる池のように濁っている。(坂崎的卑屈)
自分がこんな素敵な小山田さんに釣り合うのか、そこで疑問を持ってしまった。
すると、小山田さんが突然俯く。
「?」
頬が紅潮してほんのりピンクだ。
今日はあの(変な)探偵の助手風の服ではなく、花柄のブラウスにミモザ色のガウチョパンツだ。こんなオシャレした小山田さん、いまだかつて見たことがない。
可愛いな。
「え……っとですね。そのぉ、今日お誘いしちゃってですね、大丈夫でしたか?」
「え? 大丈夫……だよ?」
「かかか課長のかかか彼女さんに、怒られてませんか?」
え?
どどどどういう意味?
「俺、か の じょ なんて、い、いないけど」
いないよ! いない! と、威勢よく言い切りたいところなのに、驚きのあまり恐る恐るになっちまった! なんか怪しい感じになってしまったじゃないか!!
「「えっと……」」
声が揃う。あ、耳まで真っ赤。その真っ赤な耳に掛かっていた小山田さんの黒髪が、ぱらっとこぼれ落ちた。髪が小山田さんの横顔とまつ毛を隠してしまう。俺は慌てて、その髪に触れ、もう一度耳に掛けようとして。
どくっと心臓が鳴った。
その時。
思い出した。小山田さんは今、俺に恋人がいないかどうかを、確かめている。
『愛の成就ムック』にあった、あれか?
そういえば俺だって、確認したじゃないか。
それって、俺のこと気にしてくれてるってことだよね? 意識してくれてるってことだよね?
そう思うと、さらに胸がどどっと跳ねた。
真っ赤な横顔。UNOを持つ指の細さ、靴の爪先がチョリンとくっついてて、その何もかもが可愛い。
「小山田さん……」
指先が触れた黒髪を、そっと耳元へかけようと、覗き込んだとき。
「あれえ? 悠じゃん」




