営業2課坂崎課長の怪しげな行動 PART2
トイレで雄叫びを上げたのち、私はホクホクしながら、廊下へと踊り出た。
ってか勝手に踊ってしまう〜
鼻の下が伸びてしま〜う
帰りに特別にホンモノのビールでも買って帰っちゃおう〜
と、中身はこうだが、冷静な態度を装って、何事も無かったかのようにスタスタと自分の席へと戻った。
と?
坂崎課長(仮犯人)がいらっしゃらない。外回り予定表を見ると、サイワイ商事へと向かったようだった。
うちの会社は基本、営業と営業補佐とがバディを組み、二人一組で営業活動に行く。
だが、私は営業には行かない。私はこの営業2課では、たった独りの孤独な、事務処理班(班とはいえ構成員は1人)なので、営業から届けられる契約書や領収書、請求書など書類を揃えてから経理課に流したり、総務課に備品の調達を頼んだり、あれやこれやの書類の整理などの仕事をしているからだ。
華の営業とはかけ離れた、地味めな仕事。
どれどれ? 社員のスケジュールを見ると、なるほど坂崎課長は、営業補佐の女性社員、田中さんと出かけたようだ。
(田中さんってば、課長の補佐役GETに二週間も下ごしらえしてたからなぁ。今頃ホクホクで帯同してるんだろうな)
このように課長はモテる。まあもちろん頭は切れるし営業の成績は特上うなぎ、しかも顔が良いときてたらねえ。
課長の顔?
ええ、とにもかくにも、まず鼻が高い。チョモランマのごとく顔面の真ん中にそびえたっている。薄茶の瞳は中世の王子さまかと思うくらいにキリッと二重だし。くるくるとカーリーな黒髪は、エキゾチックな雰囲気を醸し出しているし、とにかく日本人離れしたお顔なんです。
対する田中さん。
田中さんは、御歳29歳のお局的存在の女性社員。坂崎課長に狙いを定めている、いわば『獲物は坂崎課長』ハンターグループの中心的存在。
この件に関する坂崎課長の情報ガチャを引いてみると。
『坂崎課長は、田中さんのあまりにしつこいアプローチに辟易していて、こっそり『飢えた女ハイエナ』と呼んでいる』
いや、これはもちろん公に言ってるわけではない。田中さんに面と向かって、「あんたはハイエナだ!! いや、ハイエナ以下だ!!」と言うのはさすがに酷というものだ。
じゃあ課長がこっそりつけたあだ名を、なぜこのわたくしめが知ってるかって?
それは私のデスクの横を通るとき、課長がそう呟いているからに過ぎない。
「しつこいなあ田中さんのアプローチ。うっとーしい。あれはハイエナだ女ハイエナ」
ってね。
あっと、坂崎課長と田中さんが帰ってきた!
「さかざきぃ、たなかぁのペア⤴︎⤴︎♡戻りましたあぁ〜ん♡」
田中さんがでっけー声で『ペア』の部分を強調して楽しそうに叫ぶ。アピールがすごい。
田中女史は頬を染めてぽわわんで、足も床から3センチほど浮き足だっているみたいだけど、坂崎課長はいたって冷静、いつもの鉄面皮を貫いている。
坂崎課長が、荷物をデスクに置いてから、私の方へさっさと移動してくる。
「小山田さん、これ今日の領収書。清算よろしくね」
「はい、承知しました」
「あとこれ契約書」
「お疲れ様でございます」
のやり取りの前にも、私のデスクの横。
小声で、「ペアアピール痛てえな、ハイエナめ」と、のたまってたから、ね。(ってか私ってば透明人間的扱い?? 自分、頭から悪口かぶってるぅ)
すげえな。悪の言葉が声に出ちゃうって、相当だよね。ってか、坂崎課長の心の声をはからずも拾ってしまう、私の耳がすごいんかな?
もしかして私なんかに聞かれていたとしても、こんな地味で道端に生えてるペンペン草程度のわたくしめなら、悪口垂れ流しても大丈夫かと、タカをくくっているのかもしれない。悪口言い放題、王様の耳はロバの耳〜の『穴』のような存在……(←低すぎる自己肯定感)
ま、いーけど。課長がすたすたと戻っていくのを確認し、領収書に目を落とす。すると……
あれれ?
なに?
目が。
目があ。
目があぁぁぁあ!
……。
目がおかしくなったのかな?