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俺がそう言うと、「じゃあおまえ送っていけよ」「間違っても送りオオカミになるんじゃないぞ」などと杉田と若狭が口々に言い、小山田さんをタクシーに押し込み、そして俺をもぎゅむっと押し込んだ。ドライバーに住所を告げる。
「じゃあ坂崎頼んだ!!」
うーん。これって。なんか昨夜封印した『愛の成就ムック』にあったシチュエーションじゃないか?
隣でぐらぐらしている小山田さんをまじまじと見る。今日は土曜日。可愛いワンピースでも着てくるんじゃないかって、少しだけ期待したんだけど、今日着てきたのは、小山田さんと初めてファイブレで会った時の謎の服装だった。眼鏡も怪しい色付き丸メガネ。変な帽子。これは……絶対に変装してるな間違いない。
「ゔーんゔーん」
小山田さんは唸り声を上げながら、ぐらぐらしている。
俺は左手でそっと、小山田さんの頭を引き寄せた。すると、勢いよくおれの右肩にガタンと頭をぶつけて、そのまま動きを止める。
(うわこれ、彼氏の肩に頭コテンのやつだ……)
なにかで読んだことがある。(←間違いなく愛読書)
ただ。
肩の骨が砕けたのではないかぐらいの、ヒットだった。ズキズキ激痛。骨は……折れてない。
(恋の痛みか……)肩が。
だが、そう自覚した途端、心臓がどどどっと鳴った。
うわわーと緊張してきたのだ。
無駄に全身に力が入ってしまう。小山田さんのだらんとした手が視界に入り、無性に気になる。手に触れていいものだろうか? いやそれはセクハラになってしまう。
でも小山田さん、今寝てるよ?
俺の中で悪魔と天使が拮抗する。そっと触れるだけなら……
が!! そう思った瞬間、それを凌駕するほどの、奇跡が起こってしまった。
これはえらいことになったんだ、聞いてくれる?
キキキーー
タクシーが急にブレーキをかけたのだ。大の男の俺でも、ぐわっと前のめり。
小山田さんはそのままぐらっと倒れ込み、結果。
俺が膝まくらする形になってしまった。
「えあ、た! とわ、えええ!?」
「悪いね、お客さん。急に猫のやろうが飛び出してくるもんだからよっ! くっそ猫のやろうめ、猫はおとなしく、てめえの家でちゃおちゅうるでも食っとけっての」
「いえ、大丈夫ですけど……」
ややや大丈夫じゃなーいこの状況。やばすぎる。肩コテンならまだしも、弊社の女性社員を直属の上司が膝まくらはアウトアウト。
だが小山田さんの表情は向こうを向いているから、ここからでは計り知れない。(寝てる)
(どうしよう、少しなら……)
さっきから心臓が痛いし、身体中筋肉痛みたいな症状が出始めていて。
ドキドキしている。ふうぅぅと細く息をはいた。
そして、そっと小山田さんの肩に触れる。細いーー。それから髪に。頭をそっと撫でて、そして俺は。
(はあぁぁ。これやばい……)
思ってから5分後、タクシーがぐいんとカーブし路肩に駐車、ハザードを出した。俺は小山田さんの肩をゆらゆらとゆすって起こし、ドライバーに待っていてもらうように頼んでから、タクシーを降りた。
「小山田さん、家に着いたよ」
一軒のアパートの前。
「はいぃぃ」
小山田さんはやすこ風に返事をしてから、カバンから出したカギでドアを開け、部屋に入っていった。




