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若狭社長はすでに去り、坂崎とチーフ数人が残っている。当の坂崎は、いつもの鉄面皮でお構いなし、という態度。
女の子大好きな俺がいくか、みたいな雰囲気になり、俺が書類に手を伸ばした瞬間。
「え?」
落ちた書類には、まだ締結前の『契約書』。あちらこちらに付箋が貼ってある。
(これって)
「この付箋って……」
付箋を見ると、色々訂正事項が書いてある。
「あ、はい。契約書に不備があるような気がして、今から総務の方にお聞きしようと……」
「それって、その契約書作った営業の仕事だよね?」
俺は書類を渡しながら、小山田さんに言った。
すると、その様子を見ていた女子ーズが、やんややんやと囃し立てた。
「これ、2課の小林さんが作ったやつなんですけどぉ。小林さんて、いっっっつも文章とかワードとか間違えるんですぅ」
「だからいっっっつも小山田さんにぃ、直しておけってえっらそーに……ね!!」
二人が顔を見合わせて、頬を膨らませている。ハコフグか。
「え!? そうだったの? 知らなかったよ、俺から小林に自分でやるように言っておくよ」
坂崎が中腰になって、小山田さんに声を掛ける。
「いえ、私はまったく構いませんので。これも仕事の内ですから」
あらら。かっこいーね。今どきこーんな地味なの珍しいし、営業2課にこーんなしっかりした子がいるなんてな。
他に抱えた書類の数々を見ると、山盛りの領収書や請求書etc。彼女が事務処理班で、とても優秀だということを察した。
「よくできる子なんだね」
俺がそう言うと、途端に顔を真っ赤にして俯いてしまった。黒縁眼鏡に邪魔されてはいるが、くりっとしたおめめが、あら可愛い。
坂崎がなんの気なく、「杉田、先に行くわ」と言って2課に戻っていく。
「あ!! 待ってくださいよぉ⤴︎ 坂崎カチョー♡」
女子ーズが坂崎を追いかけていく。
そして、小山田さんもさささっと立ち上がって、失礼します、と廊下を小走りで行ってしまった。
まだこの時点で、坂崎は小山田さんを意識していなかったように思う。
それなのになぜあれほどまでに執着するようになったのか。
そう。そこが気になった。




