*4
(まさかこんなところで会うなんて!)
神の悪戯か、それとも天使の誘惑か、まさか悪魔の所業か!?
俺の席の隣に……いる!!
営業2課の、事務処理班まさかの『小山田さん』が!!
「その推しTシャツ、かっこいいですね。それってどこで買ったんですか?」
どどどっと胸が暴れ馬のように跳ねた。
「ネット」
俺はキャップのツバを下げなから、小さな声で言った。マスクでセーフ。
なるべく面と向かって話さないようにしなければな。俺だとバレてしまう。
「なるほど〜私も欲しくなっちゃいました」
ふふふと笑う。
よし。
気づいてない。
「公式」
俺が言うと、小山田さんは「え? 最近サイト更新されたのかな。結構まめにチェックしてたんですけどね」
「そう」
そっけない返事かとは思ったが、身バレしたくない。周りを見渡す。やはり女性ばかり。少しだけ、恥ずかしくなってきた。
(YouTubeに感動したその勢いで来ちゃったけど、帰ろうかな)
そっと隣を見る。
小山田さんは、黒髪を二つに分けて三つ編みにしている。会社での小山田さんは地味すぎて、視界に入ってこなかったけど、こうして改めて見てみると……
うん。地味だ。
なんか変な帽子被ってるし、眼鏡もいつもの黒縁じゃない、色付きの怪しい丸眼鏡だし、服だって探偵の助手みたいな、こげ茶色の短パンに同じくこげ茶チェックのジャケット。
全然、ライブ仕様じゃないではないか。ファンなら普通、ファイT着るだろ。
あれ?
もしかしてこれって……変装してる?
小山田さんも変装してるねこれ。
一発で見破ってしまった俺。
そして見破られていない俺。
「レンジくーん!! レンジくーん!!」
そして小山田さんが、レンジ推しということをも見破ってしまった俺。
とにかくその日、無事にライブが終わり、まあライブ自体は充分に楽しんだのだが、それが小山田さんとの偶然が偶然を呼んだ、出逢いだった。
(会社でも少し話してみようかな)
普段は全くと言っていいほど喋らない小山田さんとの接点が出来たような気がして、悪い気はしなかった。
完




