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「やば、騙されるとこだった……」
私はストローをアイスカフェオレにぶっさし、ぞぞぞと吸い込んだ。喉元をひやりとした液体が通っていく。
「やだあちょっと待ってくださいよー」
「ほんと良いんですかあ」
「冗談ですよねえ」
まだ、向こうの方から、キャアキャア笑い声が響いてくる。
(盛り上がってんなー……ナンパでもしてるのかな……)
ミルクの甘さとコーヒーのほろ苦さが舌に残った。
*
放置。
これが効果的なこともある。
確かに俺は、カフェの店員さんと仲良くなって、「彼女にどうかレンジをお恵みください」とお願いしてみた。
ダメ元で。
だが、こんなに上手くいくとは思わなかった。結構、コラボカフェって……適当だな。
小山田さんは今、レンジのコースターを手にして、身動き取れないほど、感動の渦に巻き込まれているだろう。
震えているはず。俺がコースターをやらん!って言った日のように。
飛び上がって喜んでいるかもしれない。感激の舞を踊っているかもしれない。そんな姿を見たい気もしたが、俺は今、長時間小山田さんを放置している。
カフェの店員とひと通り世間話をしたら、トイレ(←こっちが本命)に行って用を足し手を洗う。
(もうそろそろ感動の渦も収まっているころか)
席へとゆっくり歩いていく。牛歩。
課長! 待ってましたよ見てください! レンジくん当たりました!!
とびっきりの笑顔で、きっと俺に見せつけてくるだろう。
私、今日はすごく運がいいみたいです!!
ってね。俺が店員さんにさりげなく頼んだおかげだけどな。まあこのカラクリを暴露して、レンジのコースターが手に入ったのは、この俺のおかげだと恩を売っておくのも手……か。
「すまない、遅くなって。待たせたな」
そう言おうと思ったのに、あれ?
「え? 小山田さん……は?」
そろりと席に座る。小山田さんがいない。
「トイレかな……」
いや、トイレへの動線に小山田さんの姿は見ていない。では俺がトイレに入っているうちに、トイレへ? トイレtoトイレ? fromトイレ?
それはあり得る。
俺はストローをアイスコーヒーにぶっさし、ぞぞぞと吸い込んだ。
小山田さんのアイスカフェオレを見ると、ほぼ空。下の方に薄茶の氷が残っている。
おなかに攻撃をくらい、トイレに駆け込んだのかもしれない。
「……少し待ってみよう」
だが、小山田さんは戻らない。帰ってしまったのだろうか。慌てて、スマホを見る。着歴もなければ、LINEもない。
放置しすぎたのかもしれないと、そこで己の愚かさに初めて気がついた。
「やばい、小山田さん……怒ってるかも」
ずうんと落ち込んだ。




