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「あ、姉はこのコースターはいらないと言っていたから!」
「え? でも……」
「姉の推しはファイブレのカナエくんとシイナくんとハジくんとウェイくんだから」
それって推しはレンジくん以外ってこと?
なんなんそれ? 意地悪か! 地味に傷ついたあー。
「4人分は揃っているんだ。だから要らないって言うもんだから、小山田さんにあげるよ」
なんか嬉しくない。いやこれ千載一遇のチャンスではあるんだけど。私の希望が叶って、やった!! って喜ぶべき案件なんだけどさ。複雑なやつー。泣きたくなる気持ちを抑えて、私は言った。
「……ファイブレは5人でひとつなんです。オーディション時代から、5人で励まし合いながらずっと頑張ってきた。一人でも欠けたら、ファイブレじゃなくなってしまうんです。レンジくんのコースター欲しかったですけど、お姉さんにお返しください。そして、5人一緒に揃えてあげてください、と」
私は仏壇に合掌するかのように、コースターを課長の机の上にそっと置いた。
「お心遣いありがとうございました。それでは」
と去ろうと思ったら……え? 課長?
まさか……
泣いている?
目の錯覚?……か?
「小山田さんのファイブレ愛に感動しちゃったよ」
人差し指で涙を拭う。目の錯覚じゃなかった!
「か、課長?」
「じゃあこれは返してもらうとして。そうだ! 今度良かったら一緒にコラボカフェいかない?」
はい?⤴︎
「わわわ私はもちろん期間限定の最終日までには、一度は行かねばとは思ってますけど……ってか一緒に?」
「うん。一緒に」
「私と……カチョウ?」
「うん。その方が確率上がるでしょ?」
「それはそうですけど」
????
「スマホ」
「は?」
「スマホ出して。友達登録するから」
その時、にわかに廊下が騒がしくなった。田中女史を筆頭に女性社員の甲高い声が響いてくる。
私はこんな場面見られたら最後、この世から抹殺されると思い、急いでお友達登録をした。
「じゃ、また連絡するね」
手でしっしっとやって、早く戻れと暗に言われる。
現実に戻された。そうだった。課長は性格が悪いんだった。その無礼な態度に辟易しながらも、私はまだ、自分の身の上に今何が起こっているのかが把握できていない。
「おはようございまぁ〜す」
社員が次々に入ってくる。
その日一日、私は仕事が手につかなかった。
課長の不可解な行動にこうも悩まされることになるとは思いもよらなかった。




