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「課長、こちら社長よりくれぐれもよしなに、と承ってまいりました」
「ありがとう」
課長が小声になる。
「なんか酷い言われようだけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
力強い目で見つめる。瞳孔が開くほど、カッと目を見開いて。
すると、課長はうんと頷き、力強い目で見つめてくる。
ツーカーみたいで少し嬉しくなり、心も温かくなった。課長のイケメン後光も優しさも、開ききった目に染みる。
けれど、心配事もある。
「坂崎課長、少しよろしいでしょうか?」
来た! 背後から声が掛かる。
私が異動した後、新卒で入ってきた、林原ゆうかさんだ。
まだ若々しい、ぴちぴち23歳。優秀に加えて、アジアンビューティーな美人。
そして、私は慄いたことがある。彼女が決してぶりっこではない、ということに。
「それでは私はこれで……」
去ろうとして、林原さんとすれ違う。その時、耳を疑った。
「ふん。おばさん〜会社の恥部〜早く辞めないかなっ」
え? おい、今なんつった?
とは思ったが、衝撃が強すぎて、私は聞こえないフリをして、通り過ぎるしかなかった。
ああ、ここに生中が3杯あれば。オラオラな私なら、なんだとゴラァてめえ許さんぞゴラァもういっぺん言って見ろぉ! と、言い返すこともできたかも知れないけど。(記憶にはない)
「課長、この鈴木さんの書類ですが、訂正しておきました。間違いがないか、チェックしていただきたいのですが……」
「わかった、やっておく。鈴木くんにもミスなくやるように、伝えておくよ。いつもフォローありがとう」
「はい。これしきのこと。課長、私、仕事頑張りますから、なんでも言ってください。なんでもご相談に乗りますので」
「ありがとう。心強いよ」
背後でそんなやり取りを聞きながら、私はエレベーターホールへと向かうしかなかった。
課長もまんざらではない。と言うのも、ぶりっこではないということは、課長にとっては恋愛対象になるということ。
(美人だし……な)
それにしても、だ。
新たな事務処理班。林原ゆうか。
あんた性悪なんでしよ、バレてますって!!
それでも、課長が彼女を好きになってしまったら……
美香さん以来の心配ごとが増えてしまった。




