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私は意を決して、課長の席へと匍匐前進する。(←気持ち的に)
幸い出勤している社員はポツポツいるだけで、私の行動を鋭く指摘してきそうな女性社員もいない。
「あのう、坂崎課長……おはようございます」
「おはよう小山田さん。いつも早いね」
課長は朝のルーティンをこなしながら、私にも笑顔で挨拶を返してくる。
うっ課長のこの笑顔。みんなこの笑顔に騙される。
騙されているのよ、もうそろ目を覚まして欲しい。
「えっと……あのこれ、私の引き出しに入ってました。課長が間違えて入れられたのかな、と思いまして」
ん? という顔をしてから、ああそれね! とさらに笑う。
「机間違えるわけないでしょ。小山田さんって面白いね」
「え、でも……」
課長は引き出しからファイルを取り出したり、手帳をめくったりと入念な準備に事欠かない。
「それ、君にあげるよ。欲しいって言ってただろ?」
「でも課長。課長も集めてるって……」
「姉がね!」食い気味ww
はあ、そうですか。お姉さまが。お姉さまが、ファイブレのファンということか。意気投合!!
「そうだったんですね。でもファイブレお好きで集めていらっしゃるんですよね? そんな大切なものをいただく…わけに…は…いき…ま…せ……ん」
な…ん…と…か…最後まで言い切った。
言ってしまったからにはもう貰うことなどできない。やっぱり欲しいクレクレはさすがに厚かましすぎて、口にはできそうもない。(←できる)
命より大切……とまでは言い切れないが、私にとって『Φブレイン』は、奇跡の存在。それまでは色のない、何もかもが枯れて澱んでいた私の世界を、カラフルな色彩で塗り替えてくれ、そしてそこに生気を吹き込んでくれた存在。
そんな大切な存在だからこそ、私は知っている。
他人が踏み入ってはいけないのだ、と。
「おおおお返しします」(←かなり後ろ髪を引かれるやつ)
課長のデスクにそっと置いて、退散しようとしたその時。課長がガタッと音を立てて立ち上がり、私の腕を取った。
「ちょっと待って!」
手首を握られ、くん、と引っ張られる。ふらりとして、倒れそうになる。
だが。課長に倒れ込む少し手前で、私は足を踏ん張った。セーフ!!
「あ!! ごめんごめん。セクハラとかじゃないからね」
パッと離して、両手で降参のポーズ。
「いえ、これしきのこと大丈夫です」
課長は改まって、私の前に一歩出た。
表情は相変わらずの冷ややかさ。
何だろう、怒られるのかな。ってか面と向かって悪口でも言われるのかな。オタクのくせに!道端に生えるペンペン草のくせに!俺の好意をむげにしやがって、と。




