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「なるほどぉ、盛大に勘違いはしてるけど、結果的に杉田は無しってことだね。おお! かなり絞られてきたな」
「どういうことでしょうか?」
「じゃあさ。俺は?」
ずいっと近寄ってくる。私は後退りを余儀なくされ、ついにはドアに壁ドンならぬ、ドアドンされてしまった。
「俺とは考え方とか、合う?」
「もちろんですよ! 社長の『会社経営とは推し活のようなもんです』理念には、殊更感銘をいたしたと言うか……とにかく社長は別格です! 別格枠です!」(←なんなら杉田下げ)
「そうなんだ嬉しいな。そうだ、今度の出張の時にさ、俺の『会社経営とは推し活のようなもんです』理念について、語り明かさない?」
「はい! そのような機会をいただけて嬉しいです!」
「決まりね」
そう言って、課長は離れていった。
(坂崎課長は、だめだめだめって言ってくれたけど……少しくらいなら)
私は入社からずっと社長と推し活について、議論を戦わせたいと思っていたので、それに浮かれてしまって周りが見えてなかった。
「……出張、ちょっと楽しみかも」
社長はすでにデスクに着いて、取引先と電話を始めていたので、私は心の声をはっきりと声に出して言ってしまっていた。
*
(楽しみって言った? 言ったよね、言ってたよね)
俺はショックを受け、ひとりゆらゆらと揺れている。
社長室のドアの前のこと。
俺は仕事上の確認があり若狭に会いに来ていた。
すると、ドアのガラス部分に小山田さんのつむじ……いやシルエットが映り、俺は心躍った。
(小山田さんにも会えるし、一石二鳥。今度、またデートに誘ってみよう)
それでキスの段階もひとつずつ段階を上げていかねば。でこチューしたから次はほっぺ(いったん後退)そして次は……唇。ここが難関だ。
おでこがステップ3であるなら、唇はステップ42.195くらいだろうか。マラソン並み。これくらい走ってからジャンプせねば、素人にはかなり難しい。
そんなことを考えながら、俺はドアをノックしようとして、はっとした。
小山田さんと若狭が何か話している。ドアの近くだから、聞こえるかもと耳を澄ましたら……
「……とにかく社長は別格です! 別格枠です!」
「そうなんだ嬉しいな。そうだ、今度の出張の時にさ、俺の『会社経営とは推し活のようなもんです』理念について、語り明かさない?」
「はい! そのような機会をいただけて嬉しいです!」
「決まりね」
え? なんでそんな話になってんの?
出張はだめって、俺が……。
すると。
「出張、ちょっと楽しみかも」
小山田さんの呟きが聞こえてきて、俺はその場を離れた。
楽しみ。小山田さんは出張を楽しみにしてる。
俺がだめなんて言う資格は、もとよりなかったってことだ。
俺はショックで、エレベーターを3往復させながらなんとか課長席へと戻った。




