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まずは、『手にキス』。
はあ? 頭おかしいのか?
『手』?
中世の騎士かっつーの。
次は、『ほっぺにキス』。
これはまあ、わかりみ。
「だけど、こんなん普通に家族でするだろ」
小さい頃は、俺もおかんに「ママだいちゅき」とか言って、チュってしてたなあ。
次!! ページをめくる。
『おでこにキス』
あーーーそう。下から三番目のやつしちゃったわけね。あーーーそう。ふうん。なるほどね。俺、一番二番すっ飛ばして、そこ行っちゃったんだ。
小山田さんはあまり気にしてない感じだったし、次っっっ。
『そして唇にキス』
バードキス
スウィングキス
ディープキス
ええ? これ18禁じゃないの? こんなこと書いていいの? 舌を絡ませる? 舌ってあの舌のこと?
読んでてこっちが恥ずかしいわ! ってかこんなことできる気がしない。
仕事より難しい。
「でもなあ……」
小山田さんの笑った顔が好きだ。思い浮かんでくる。水族館でこんなことがあった。
シャチに顔面スプラッシュ攻撃を受けた時、いつから用意していたかはわからないけれど、その瞬間さっと取り出していた日傘を、パンッと前にさして、ずぶ濡れを阻止してくれた。
それでも「濡れちゃいましたね」と、二人分のタオルを「これ使ってください」と差し出してくれた。
完璧じゃない? これってもしかして本当は彼氏がやらないといけないやつ。
「あ、ありがとう……準備万端だね」
俺、何やってんだろ。あれだけ水族館の飼育員さんのブログ読んだはずなのに、これっぽっちもこうなる状況を想像できなかったなんて。
準備不足は否めない。仕事の方がどれだけ楽か。けれど、これからはもっとできる男にならなければ。小山田さんに認めて貰えるような、頼られるような、そんな男に私はなりたい。(←人生の転換期)
「ずぶ濡れですね、ふふふ」
そう言って、小山田さんははにかむように笑った。あの笑顔に少しでも近づきたい。
俺は『愛の成就ムック』をパタンと閉じた。
キスのことも、小山田さんの了承を得て、段階的に進めていこう。がんばろ。
小山田さんの笑顔を胸に、俺は眠りに就いた。




