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95話 紅蓮の鉄槌

 

 

「アーシャさんの妹!?」

「アーシャの妹!?」


 ラディアドレイクに追い詰められた私達を助けてくれた女性。

 彼女はアーシャさんの妹だと名乗り、私とアルテナは驚愕する。

 確かに、アーシャさんと同じ燃えるような赤い髪をしているが、彼女は短髪で背も私達と同じくらい。

 タンクトップの上に無骨なチェインメイル、下にタイトレギンスを着て、腕には丈夫そうなレザーグローブを装着し、体のあちこちに傷跡が目立つ。

 よく見れば全然違う。

 だが、身に纏う雰囲気はアーシャさんと同じ戦闘民族そのものだった。

 

「その口振り、もしかして姉さんと知り合い? 色々聞きたいところだけど、今はあいつを片付けなきゃね!」

『ギャォオオオオオオオ!!!』


 ラディアドレイクが咆哮を上げながらカーシャさんを鋭い目で睨みつける。

 完全にカーシャさんを敵として認識したようだ。


「アルテナ、ミラ、ここはカーシャさんに任せましょう」

「う、うん」

「何言ってんのよ!? あいつはあたしの手で倒さないと気が済まないわ!」

「気持ちは分かるけど、今は体勢を立て直す方が先決よ」


 いくらアルテナでも、疲労により動けない私を背負ったまま戦うのは無理だ。

 アルテナは少し葛藤した後、投げやり気味に頷く。

 

「ちっ……しょうがないわね! ちょっとあんた! あたし達が復帰するまで死ぬんじゃないわよ!」


 アルテナはそう言ってカーシャさんに背を向けると、ミラと共にその場から走り出す。

 

「ふ、あなた達の出番があればいいけどね! さあ行くわよ化け物!」


 カーシャさんは鎖に繋がれた鉄球(フレイル)を振り回し、再びラディアドレイクに向け投げつける。

 だが、それをラディアドレイクは跳躍して回避。

 壁に足をめり込ませる形で張り付く。

 そこで初めて、今まで見えなかったラディアドレイクの全身が見える。

 全身黒い岩のような鱗を持ち、背びれの代わりに大きな魔石が一列に生えた、体長十メートル以上の巨大なトカゲだ。

 身体のデカさも不気味さも、今まで出会った魔物とは一線を画すその姿に、思わず息を呑んだその時だった。

 ラディアドレイクの魔石が怪しく光り出し、口を大きく開け始める。

 あれはさっきの……!


「カーシャさん! ブレスが来るわ! 避けて!」


 カーシャさんに向け必死の叫びを上げる。

 だが。


「何、ブレスだと!? そいつは見逃せん!」

「え?」


 叫びに答えたのは、前方から突如現れた白銀の鎧を着けた男。

 その男は、私たちとすれ違いながらカーシャさんの元へ走って行く。


「来るのが遅いよイサーク!」

「リーダーが早すぎるんだ! だが、いいタイミングで来れたようだな!」


 イサークと呼ばれた男がカーシャの元へ辿り着くと同時に、ラディアドレイクから銀色に輝くブレスが放たれる。

 そして、ドォォォォン!! という音と共に、激しい衝撃と粉塵が私達を襲う。


「ぎゃぁ!?」

「うわー!?」

「く……!?」


 衝撃により私達は吹き飛ばされ、地面に転がる。


「なんて威力なの……!」


 もし、あの時咄嗟に閃光弾を撃ってなかったらと思うとゾッとする。

 いや、それよりもカーシャさん達は……!?


「く……ここまでとは……」


 粉塵が晴れると、カーシャさんの前で腕を大きく広げ、盾になっていたイサークさんの姿が目に映る。

 

「まさか耐えたの……!?」


 なんて防御力だろう。

 だが、イサークさんはよく見たら震えている。


「く……」

 あのブレスをモロに受けたのだ。

 幾ら頑丈でも、やはり大きなダメージは避けられ……。


「くっくっくっくっく……」

「え?」

「ふははははははは!!!! なんと痛いブレスだ!! 刺激的だ!! おい貴様! もっと俺にブレスを撃ってくれ! もっと俺を熱くさせてくれ!! もっと俺に痛みをくれーー!!」

「げ!?」


 急に笑いだし、もっと撃ってくれとラディアドレイクに懇願し始めるイサークさん。

 まずい、あの人……ドン・ガイさんと違うベクトルの変態だ……。


「ギャォオオ!?!?!?!?」


 ラディアドレイクが後退し、イサークさんから目を逸らし始める。

 ……どうやら、向こうもあの反応にドン引きしているらしい。


「はいは〜い♪ よそ見してる場合じゃないよトカゲちゃん? 風よ〜シャルルちゃんのしもべになって敵を切り刻んじゃえ〜」


 今度は上から誰かの声が聞こえ、見上げるとそこには緑のツインテールを靡かせながら、大きな杖にちょこんと乗って空を飛んでいる少女がいた。

 ていうか何を喋って……もしかして魔法の詠唱?


「そぉ〜れ、『グルグルトルネード〜♪』」


 彼女が詠唱を終えると、杖の先からキラキラとした緑色の魔法陣が浮かび、そこから強烈な竜巻の魔法が繰り出される。

 

『ギャォオオ!?』


 竜巻で黒い鱗に無数の切り傷が刻まれながら壁から吹き飛ばされ、地面に背中から落下したラディアドレイクの咆哮が響き渡る。


「あはは、ザッコーい! 見た目だけじゃんあのキモいトカゲー♪」

「うぉぉぉ!! 流石だぜシャルルちゃん! さあ! 俺を足場に着地してくれ!」

「うわ、キモ。あんたに着地するくらいなら毒の沼に着地したほうがマシなんですけど〜?

「うおー!! 流石シャルルちゃん! いい罵倒だぜ!」


 何かに悶えるイサークを無視して、シャルルという少女は滑空しながらカーシャの横に降り立つ。


「シャルル、あんたも遅いわよ!」

「リーダーが先に突っ走って行っちゃったんでしょー? ちゃんと間に合ったしー、怒らないんで欲しいんですけどー?」

「まあいいわ。それより、あいつが倒れた今がチャンスよ! 一気に決めるわ!」

「おう!」

「はーい」


 カーシャさんが号令をかけるとイサークさんが背中につけた大きなメイスを両手に持ち突撃していく。

 それを見たラディアドレイクは起き上がると、体を回転させ巨大な尻尾でイサークさんを攻撃する。


「来たな! さあ俺にその尻尾をぶつけろー!」


 イサークさんはそう叫び、防御を取ることなくメイスを尻尾に向け振りかぶる。

 そして互いの攻撃がぶつかり、イサークさんは吹き飛ばされ、壁に激突する。

 だが……!


「ギャォオオオオオオオ!?!?!?」


 ラディアドレイクが大きな悲鳴を上げのたうち回る。

 イサークさんの攻撃により、尻尾が千切れ吹き飛ばされたのだ。

 そして、大きな隙ができたラディアドレイクへ向け、カーシャさんたちが次の行動に出る。


「シャルルちゃんの僕達〜。リーダーにその力貸してあげなさ〜い♪『グルグルエンチャントー♪』」


 あれは補助魔法だろうか?

 シャルルがカーシャさんに向け魔法を使うと、体とフレイルに渦巻く風が付与される。


「じゃあ、あとはよろしくねーリーダー♪」

「ええ、任せなさい!」


 そう答えると、カーシャさんは風の力を纏いながら、とんでもない跳躍で一気に天井まで到達。

 そして、天井を足場に、ラディアドレイクに向け思いっきり突撃する。


「これで終わりよ! 『メテオストーム』!!」


 風を纏ったフレイルによる渾身の一撃をカーシャさんは繰り出す。

 しかし。


「ギャォオオオオオオオ!!」


 それに気づいたラディアドレイクは、再び体を光らせ、死に物狂いで強力なブレスをカーシャさんに向け放つ。

 ドーン!! という音と共に、ブレスと風を纏ったフレイルが衝突。

 互いの攻撃は一瞬拮抗しているように見えたが、徐々にカーシャさんが押されていく。

 このままじゃまずい……!

 そう思った時、カーシャさんの体が赤く光り始める。


「なかなかやるじゃない……! でもあなたに勝ち目はないわ……! アタイのスキル『諸刃の刃』の前じゃね!」


 カーシャさんから放たれる赤い光が更に強く迸り、フレイルの強さと速度が急激に上がっていく。

 そして、カーシャさんの攻撃はブレスを打ち破り、ラディアドレイクへ直撃する。

 

「ギャォオオオオオオオ!?!?!?」


 叩きつけられたフレイルは、ドォォォン!! という音と共にラディアドレイクの頭部を粉砕。

 その悲鳴を最後に、ラディアドレイクは沈黙。

 討伐したのだった。


「す、すごい……」


 思わず、そんな言葉が自分から漏れ出る。

 あの化け物を圧倒的力押しで倒してしまった。

 

「ふう、流石洞窟エリア最強なだけあったわね。ちょっと骨が折れたわ」

「そうー?リーダーにかかればザコかったと思うけどねー?」

「シャルルの魔法のおかげよ、ありがとう」

「ち、最後のブレス俺が受けたかったぜ……。まあ、シャルルちゃんに罵ってもらえばいいか!」

「うっげ〜。マジありえないんですけどー。キモいからこっち来ないで」

「ありがとうございます!」


 戦いの後だというのに、そんな和やかな会話をしながら三人は私達のもとへやって来る。

 そして。


「どう? これがアタイ達Bランクパーティ『紅蓮の鉄槌』の力よ」


 そう名乗ったのだった

ライバル的ポジション登場です。

なお、しばらく新キャラ追加はない予定です

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