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93話 カタストロフ流、野営の仕方

 ダンジョン探索で疲労した体を癒すため、落ち着ける場所を探し始めた私達。

 場所としてはそこそこ広く、魔物の襲撃などを警戒しやすい、出入り口が一つのところが好ましいだろう。

 そういう場所を探し始めて数十分後、目的の場所を見つけた私達は、ミラにシートを出してもらい、そこに座り込んでホッと一息ついていた。

 

「いい場所があってよかったわ……。はぁ……今日も疲れたわね」

「エレン様、よかったらミラの体(本体)に寄りかかっていいよ」

「ミラ、ありがとう」

 

 普通の人間の体力しかない私は本気で疲れていたし、ミラの好意を無下にし続けるのもどうかと思ったので、好意に甘えてミラに寄りかかる。

 その姿を見て、アルテナがニヤリと笑いながら話しかけてくる。

 

「ふ、情けないわねぇ。私は採掘しながらでもまだピンピンだっていうのに」

「あなたと一緒にしないでよね。それに、私は常時探知魔法を発動して周囲を警戒してるんだから疲れるのも当たり前……ん?」

「どうかしたの?」

「誰か近づいて来るわね。きっと冒険者よ」


 入り口を見ていると、三人組の冒険者が現れる。

 剣士と盗賊シーフの男性二人、魔法使いの女性(以降魔女)一人という構成だ。

 剣士の男性はこちらを見ると、笑顔でこちらに手を振ってきた。


「よう、この場所良さそうだな。俺たちも休憩に使っていいか?」

「分かったわ、そこら辺使いなさい」

「ちょっとアルテナ……」

「良いじゃ無いの。もう慣れたでしょ?」

「まあ、そうだけどね……」


 静かに休みたかった私としては断りたかったが、敵意も感じられないし、そもそもこの場所を占領する権利もない。

 仕方なく首を縦に振ると、「そっか、サンキューな!」と言って、彼らは私達と離れた場所に移動し、野営の準備を始める。


 こういう、同じ場所で休憩や野営するというのはダンジョン内では珍しく無いらしい。

 特に、稼げる事から冒険者が非常に多いこのエリアでは日常茶飯事らしく、このエリアに入って三日間、こうやって他の冒険者と休憩場所を共有するのが当たり前になっていた。

 

「さて、そろそろ私達も野営の準備を始めましょうか」


 体を縦に伸ばしながらそう言った時、剣士の男性が声をかけてくる。


「ようお前ら。見た所大した荷物持ってなさそうだが……食料や水は大丈夫か? 良かったら分けてやってもいいぜ。まあ、多少の金はもらうが……」


 ……どうやら心配されてしまったらしい。

 実際、私達は必要最低限の物しか持っていない。

 今までアルテナがアイテム袋を背負っていたが、今回の探索からはそれも無くした。

 理由は言わずもがなである。


「大丈夫よ、水も食料も充分にあるわ。ミラ、パンとオークのシチュー、あとジュースも出してくれる?」

「ミラ、あたしも頼むわ」

「分かった! えいっ」


 ミラが手をかざすと、シーツの上にお玉が入った大きめのシチュー鍋が出現する。

 中身は私がダンジョンに入る前に仕込んだ、オーク肉と野菜が多く入った熱々のシチューだ。


「え?」


 剣士の男性がキョトンとする中、ミラはシチュー用の木の器やスプーンも出し、更にフワフワのパンと木のコップに入った冷たい果汁ジュースを出してくれる。


「ありがとうミラ」

「あんたの収納能力は便利よねー。幾らでも入れられるし、時間停止機能もあるから、事前に用意した料理を出来たてで食べられるしね」

「えへへ……♪ ありがとう♪」

「……は?」


 ミラの頭を撫でながらお礼を言うと、私はジュースを一口飲み、シチューをアルテナの分も合わせて盛る。

 ミラも自分で食用? の魔石を取り出し、これで夕食の準備完了。


「じゃあいただくわよ」

「いただきます」

「いただきまーす♪」


 そう言って、三人で平和に食事を始め……。


「ちょっと待てーーーー!!!」


 ……ようとした所で、その様子を見ていた剣士の男性からツッコミをかけられる。


「何よあんた、食事の邪魔すんじゃないわよ」

「ああ、悪かった……じゃなくてだな!? 何だそのふざけた収納能力は!?」

「うるさいわねぇ、あんたには関係ないでしょ? ほら、さっさと仲間のとこ戻んなさいよ」


 シッシッっと手を振り、アルテナは不愉快そうに剣士の男性を追い払う。

  

「そ、そうだな……だが、一つだけ頼みがあるんだがいいか?」

「何よ?」

「……頼む、良かったらそのパンとシチュー分けてくれないか? 俺達乾パンと干し肉しか無くてな……金は払うからさ」


 剣士の男性が手を合わせて頼んでくる。

 アルテナが「どうする?」って顔でこちらを見てくるが、食料はまだまだ余裕があるし、器とスプーンも予備があるから貸せるし問題はないだろう。

 結局、食料を分けるつもりが分けてもらう形で剣士の男性は帰っていった。




———————————————————


冒険者side


 ……そして、仲間の元に戻った剣士は魔女から呆れた目で迎えられる。


「よう、戻ったぜ」

「戻ったぜ、じゃないでしょう!? あなたさっき「あいつら食料あんのかな……俺たちのを分けてやる事って出来ないか?」とか言ってた癖に、何で逆に分けてもらって来てんのよあなたは!?」


 見事にミイラ取りがミイラになった事で怒られる剣士。

 

「いや、だって貴重な収納スキル持ちとは思わなかっただろ!? それに、美味そうだったからつい」

「全く……情け無いわね」

「まあいいじゃねぇか、ちゃんと金は払ったんだからよ」


 剣士は魔女から呆れた目で見られるが、それを流して早速パンとシチューを食べ始める。


「うわ、マジでこのシチュー出来たてじゃねぇか! パンもやわらけー! こんなのがダンジョン内で食べられるなんて最高だな!」


 感激しながら食事をする剣士を見て、仲間の盗賊もゴクリと唾を飲む。


「おい、俺たちも頼んで貰って来るか?」

「小娘に頭を下げて頼むとか、みっともない真似は止めなさいよ!」

「みっともないってなんだよ!?」

「う……わ、わかった」


 結局盗賊は魔女に睨まれ、渋々乾パンと干し肉を齧る事となった。

 そして食後、身体の汚れなどを拭く為、魔女は布を取り出し、水魔法で湿らせていく。

 彼女は探索に置いて重要な水魔法スキルの使い手であった。


「ほら、あんた達。その汚れた体を拭きなさい」


 魔女は湿った布を仲間に渡し、体を拭き始める。


「サンキュー。ついでに水を一杯貰えないか?」

「さっき飲んだでしょ? 魔力は有限なんだから無駄に消費させないでくれる?」

「ちぇ、しょうがねぇか。でも水の心配をしなくていいのは本当助かるぜ」


 剣士がそう言うと、魔女は得意げな顔を見せる。

 水魔法は彼女のアイデンティティーであり、自慢出来るものであった。


「ふ、収納スキルなんてなくても水関連で私が負けることなんてな……」

「エレン、体拭き終わったわ。頭洗いたいからお湯頂戴、お湯」

「はいはい、『ウォッシュ』」


 エレンが魔導銃の銃口から水球を作り出す。

 その後ポンっと放たれ空中に浮かぶと、その場で静止。

 そして、アルテナはその中に頭を突っ込み、顔と髪を洗い始めた。


「「「え?」」」


 その様子を見て目を丸くする冒険者達。

 更にエレンは同じものをもう一個作り、自分も頭を洗う。

 そしてタオルで拭いた後、魔導銃から温風を出し、ドライヤーの様にして自分とアルテナの髪を乾かした。


「いやーさっぱりしたわ!」


 アルテナが無駄に美しい金髪をかきあげながらそう言う。

 次にエレンは、お湯でふかふかにしたタオルを持ってミラの前へ行き……。

 

「じゃあ最後にミラの体(本体)を拭きましょうか」

「エレン様、ミラが自分で……あはは、くすぐったいよー♪」


 ミラの体を汚れがないように拭いていく。

 そんな和やかな空気を出すエレン達を見て、冒険者達(特に魔女)は呆然とする。


「お、おい? あの水魔法、お前出来るか?」

「出来るわけないでしょう! あんな精密な水魔法! おまけにお湯って……炎魔法と合わせて温度調節してるってこと!? ま、魔法のレベルが違いすぎるわ……」


 魔女は得意の水魔法で負けた事にショックを受け膝から崩れ落ちるが、数秒後、突然起き上がってエレンに向け歩き出す。


「ねぇあなた!」

「え? 何?」


 魔女はエレンを上から睨みつけるように見つめた後、頭を下げ両手を合わせる。


「お願いします。お金は払うので、魔力に余裕があったら私もその水魔法で頭を洗わせてください」

「ああ、そう言う事ね。全然良いわよ」

「やった!」

「「おいーーーー!?」」


 見事な手のひら返しに仲間の剣士と盗賊がツッコむ。

 その後、頭をを洗ってさっぱりした魔女は爽やかな笑顔で帰って来た。


「いやー気持ちよかったわー♪」

「おい!? みっともないんじゃなかったのか!?」

「ふ、女は清潔さが命よ。その為なら恥は吐き捨てよ」

「なんだそりゃ!?」

「……パンとシチュー……やっぱり貰えばよかった……」


 あっさり手のひらを返した魔女を見て、深い後悔に苛まれる盗賊であった。

 

 ……その後、冒険者達は就寝するため、薄いマントを取り出して体に被せる。


「んじゃ寝るか……」

「最初の見張りは任せたわよ」

「ああ、わかった」


 仲間が寝る体制に入る中、盗賊は一人見張りの役目を任せられる。

 野営の際、交代で一人起きて見張りをすると言うのは常識だ。

 その時、エレン達はどうするんだろうと思い、冒険者達が向こうを見ると……。


「ミラ、布団出して頂戴」

「うん、分かった。えいっ」


 ミラが手をかざすと、二人分の布団セットと、自分用のクッションを本体の中に出現させる。

 それを見た冒険者達は……。


「……まあ、収納あるならあれくらいやるよな」

「……ええ、驚くほどではないわね」

「……ああ、何も問題はな……ん?」


 もうエレン達の行動に慣れたのか、特に何の感情も持たずそのまま流そうとする。

 その時、エレンが一人彼らに近づいて来た。


「ちょっと良いかしら?」

「……な、何だ?」

「他に冒険者も来なそうだし、ここの入り口、寝てる間塞いじゃっても良いかしら?」

「は?」


 盗賊は訳がわからないと言う顔をする。

 その顔を見たエレンは、見せたほうがいいと判断し、魔導銃を入り口に向けて撃つ。

 すると地面からゴゴゴと岩の壁が出現し、一つしかない出入り口を完全に塞いでしまった。


「「「……は?」」」


 呆気に取られポカンする冒険者達に対し、エレンは淡々と話を続ける。


「これで魔物は入って来れないから安心して寝れるわ。朝になったらちゃんと解除するから安心して頂戴。後、念の為両者の間も岩で塞がせてもらうけどそれも良いわよね?」


「あ……ああ」


 盗賊は口をぽかっと開けながらも、何とか返事をする。


「そう、良かったわ。じゃあお休みなさい」


 そう言ってエレンは帰ると、冒険者達と自分たちの間に魔法で岩の壁を作り、布団に入る。

 そして冒険者達は……。


「……本当に何なのあの子達……」

「……そういや聞いた事あるな、最近凄腕の女冒険者パーティが現れたって噂……」

「……俺も聞いたことあるな。とにかくヤバい奴らだとは聞いていたが……」

「「「…………本当にヤバかった……」」」


 そう言って終始圧倒され続ける冒険者達だった。

 その後、エレン達はスヤスヤと眠りについたのであった。

 そして、今回の野営でアルテナは何も役に立ってないのであった。

こんな場面ばっか書いてるからスローライフ作品と間違われるのでしょうか……?

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